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カード化スキルで図鑑コンプリートの旅  作者: あすか
第4章 片翼のドラゴン
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第179話 コボルトの説得

 ドラゴンに会うために、目の前のコボルトバトラーを説得する。


「俺達はドラゴンに危害を加えるつもりはない。むしろ逆で、もし怪我をしているなら治療をしたいんだが……会わせてくれないか?」


 これが人間なら、メリットや条件などを提示した駆け引きができるんだが、コボルト相手に駆け引きは通じない。

 なので、俺は素直にコボルトバトラーにお願いした。

 が、当然ながら、コボルトバトラーは首を振る。

 結局最初からずっと怯えていたもんな。

 信用できるはずがない。


 もちろんコボルトを無視してドラゴンに会いに行くのは可能だ。

 だが、間違いなくコボルトが邪魔をする。

 そしてコボルトを倒すと、もれなくドラゴンが敵になる。

 ドラゴンが敵になっちゃダメなんだよなぁ。


 このコボルトバトラー……いや、コボルト達のドラゴンへの忠誠心は本物だ。

 絶対に勝てないマグマゴーレムに逃げずに立ち向かい、今も怯えながらでも絶対にドラゴンのことは話さない。

 俺のカードモンスターに匹敵するかもしれない。


 というわけで、まずは怯えと警戒を解いてもらうことから始める。

 俺達が本当に無害だということを証明しなくては。


「なぁ。さっきのマグマゴーレムとの戦いで怪我した仲間はいるか? よかったら俺達が治療をするけど」


 安易だが、効果的だと思う。

 少なくともここからでも奥で待機しているコボルトナイトやハイコボルトは明らかに怪我している。

 怪我の治療はヒールでもポーションでも何でもいい。

 だけど魔法となるとラビットAかケリュネイアになる。

 コボルトの一番の恐怖対象であるラビットAを近づけさすわけにはいかない。

 今回はポーションの方がいいだろう。


 俺はハイポーションのカードを解放(リリース)してコボルトバトラーの前に置く。


「ハイポーション……上級の回復薬だ。怪我や火傷程度なら、これを使えばすぐに治る」


 突然のことに戸惑うコボルトバトラー。

 まぁいきなり警戒している相手からポーションを渡されても困るよなぁ。


「飲むのが怖かったら、直接振りかけても効果はある。なんだったら、毒味として俺が先に飲んでもいいけど?」


 コボルトバトラーは少し悩んでティータに伝える。


「ありがたく受け取るそうです」


 どうやら少しは信用してくれているみたいだ。


「おおっ、じゃあ準備をしないと」


 俺は次々にポーションを解放(リリース)する。

 流石にハイポーションだけだともったいないので、ミドルポーションも準備する。


「軽傷者はこっちのポーション。重傷者にはこっちのポーションな。もし、これで治らなかったら言ってくれ。魔法や別のポーションも試すから」


 一応ハイポーション以上の回復薬もなくはない。

 コボルトバトラーは次々と出てくるポーションの瓶に目を丸くする。


「あっ、こんなに出しても持てないか。……どうする? 持っていくの手伝った方がいい?」


 俺がそう言うと、コボルトバトラーは慌てて首を振る。

 遠慮……というより、俺を仲間の元へ近づけさせたくないみたいだ。


「仲間に運んでもらうから、問題ないそうです」


 コボルトバトラーは控えていたコボルトを呼び出し、ポーションを持って仲間の所へ戻っていく。

 この場に2人になったところで、ティータが俺に話しかける。


「マスター。これからどうされるおつもりですか?」


「しばらくコボルト達の動向を見守る感じかな」


 コボルトが回復して……あと、話し合いもするだろう。

 とりあえずそれを待てばいい。

 幸いここは広間になっているから個室を出せる。

 一晩くらいはここで休んでもいいだろう。


 そういえば、さっきも気になったけど、ダンジョンに入ってどれくらい時間が経過したんだ?


 俺は懐中時計を取り出し時間を確認する。

 この世界では腕時計ってまだ無いんだよなぁ。

 それに電池も無いから、基本はゼンマイ式の置き時計。

 それから、電池の代わりに魔力で動く魔道具の置き時計。

 携帯できる時計はゼンマイ式の懐中時計しかない。


 今度ナビ子が日本に戻ったら腕時計を頼むか?

 いや、文字が違うから困ったことになるな。

 合成で自分で作るか……アズリアに頼んでファーレン商会で作ってもらうのもありだなぁ。


 現時刻を確認すると……やはりダンジョンに入って半日ほど経過していた。

 うん、俺の体内時計も大したもんじゃないか。


「……お腹が空いてきたな」


 今までは全くそんな気はしなかったけど、時間を気にした途端、お腹が空いてきた。


「お~い。ガロン! ラビットA! 飯にしよう」


 俺は採掘していた2人に呼びかける。

 飯と聞いた瞬間、2人は急いでこちらへやってくる。

 2人ともお腹が減ってたっぽいな。

 ついでに待機していたドラゴニュート達にもこっちに来るように伝える。


「この嬢ちゃんは本当にスゴいの! ほれ、炎竜石がこんなに手に入りおった!」

「きゅしし!」


 興奮したガロンと照れ笑いを浮かべるラビットA。

 どうやらガロンの小屋のとき同様、嗅覚のスキルで炎竜石を発見したらしい。


「この辺りで炎竜石が採れるのか?」


「儂が以前手に入れたのはここよりも先じゃったが……どうやらこの辺りでも採れるようじゃな」


 ってことは、ドラゴンはここから意外と近いかもしれない。


「それで話し合いはどうなったんじゃ?」


「うん。それも飯を食いながら説明しよう」


 とりあえず説明よりも今すぐに飯が食いたい。



 ****


「ふむ。魔族……それに魔素を発生させる魔道具のぅ」


 食事しながら、コボルトバトラーから聞いた話をガロンに聞かせた。


「ガロンは魔族って見たことある?」


「バカ言うな。魔族なんぞ見ておったら、今頃生きてはおらん」


 実はここにも1人魔族がいるって知ったらどういう顔をするだろう?

 まぁ面倒なことになるから言わないけどね。

 というか、本人は全く自覚がなさそうだし。


「魔道具の方は? 心当たりある?」


「いや、儂もそのような魔道具は聞いたことない」


 やっぱりガロンも知らないか。


「その壊れた魔道具はここには無いんか?」


「あっ、そうだな。ティータ、もしコボルトが壊れた魔道具を回収していたら、貸して……いや、譲ってもらえないか聞いてくれないか?」


 壊れていたとしても、カードにすれば何か分かるかもしれない。


「はい。確認して参ります」


 俺の言葉にティータはコボルトの元へ飛んでいく。


「どの魔道具も必ず加工された魔石が使われておる。それを調べれば何か分かるかもしれん」


 おおっ流石職人。

 じゃあカードにするより先にガロンに確認してもらおうかな。


 数分待つと、ティータが魔道具を持ったコボルトを連れて帰ってきた。

 魔道具はティータと同じくらいの大きさだったから、ティータでは持てなかったんだろう。

 コボルトは魔道具を置くと、さっさと戻っていった。


「マスター。ひとつだけ譲ってもらえました」


 壊した魔道具は3つだから、あと2つコボルトが持っているわけか。

 本当は3つとも欲しかったけど……まぁひとつだけでも手に入ってよかったと思おう。


「それからポーションですが、非常に喜んでおりました」


「そうか」


 どうやらちゃんとポーションも効果があったみたいだ。

 本当ならコボルトバトラーが感謝を伝えたいそうだが、今は治療で忙しいので、治療が終わったら、改めて礼に来るそうだ。

 魔道具も譲ってくれたし、少しは距離が縮まったと思っていいだろう。

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