第178話 異変の正体
コボルトバトラーが言うには、今回の異変には魔族が関わっているらしい。
「そもそも魔族って何?」
もちろんゲームや物語などで魔族の存在はよく知っている。
だが、この世界でとなると、モンスターや亜人、妖精や精霊くらいしか聞いたことがない。
……いや、そういえばアラクネの説明文に魔族って書いてあったな。
だが本当にそれだけだ。
もしかして、魔王とかもいるのかな?
「簡単に言うと、妖精や、魔獣、昆虫などと同じ、モンスターの一種です。デーモンなど悪魔族が有名でしょうか」
デーモンか。なんだか契約とかしそうだな。
「他にも半人半魔のモンスターは魔族になりますね。マスターも所持しておりますアラクネがそうです」
やっぱりアラクネは魔族なんだ。
「他にはラミアやアルラウネ、ハーピーなども魔族になります」
なるほど。
確かに上半身が女性で下半身が蛇とか、腕の部分が鳥とか、半分植物とか半人半魔で魔族っぽい。
……それにしても、例えが全員女性なのは偶然なのか、意図しているのか。
いや、俺が知らないだけで、男のラミアとかハーピーもいるかもしれない。
「最後にリーダーも魔族です」
最後にとんでもない爆弾を投下するティータ。
「はぁ!? ラビットAが魔族!? いや、ラビットAはデーモンっぽくもないし、半人半魔というよりはウサギだし……どちらかと言うと、ドラゴニュートの方が魔族っぽいぞ」
「それはまだ幼いからです。リーダーの本当の種族は魔兎族。大人になれば、兎獣人のような見た目のモンスターになります」
そういえば、ラビットAの説明文には魔兎族の子どもと書かれてあった。
魔兎族……確かに魔族っぽい。
しかしラビットAが兎獣人みたいな大人に……か。
想像できないな。
「どの魔族にも言えることですが、魔族はモンスターの能力と、人と同じ知恵を持っております。一番弱い魔族でも、星3以上のモンスターと同程度とお考え下さい」
ようするにめっちゃ強いってことだな。
まぁラビットAを見れば何となく分かる。
「今回現れた魔族の種族は分からないそうですが、黒いコウモリのような翼で、角の生えた女性型の魔族だったそうです。……その容姿ですと、サキュバスが近いかもしれません」
サキュバスか……エロいお姉さんってイメージしか思い浮かばない。
「そのサキュバス(仮)は、このダンジョンで何をしたんだ?」
「その前にそのカッコカリとはなんですか?」
「だってまだサキュバスっぽいだけで、サキュバスと決まったわけじゃないんだろ?」
「そうですが……それならばカッコカリなど付けずとも、魔族でいいではありませんか」
「まぁそうなんだけどさ、本当にサキュバスになら会ってみたいなぁと」
やっぱり男として、サキュバスには会ってみたいじゃん。
そして、あわよくばカードモンスターに……。
「マスター……さいてーです」
俺の考えていることが読まれたのか、ティータにツッコまれる。
おそらくナビ子の代わりなのだろうが……そのツッコミはちょっと嬉しい。
「んで、話を戻すけど、そのサキュバス(仮)は結構前に現れたって言ってたけど、具体的にはどれくらい前なの?」
「結局呼び方は変えないのですね。しかも、話を戻すと言うわりに、違う質問ですし」
あれっ? そうだっけ?
そっか。何したって聞いたんだった。
でも両方聞くつもりだったから、どっちからでもいいんだけどね。
「魔族が現れたのがいつなのかは分からないそうです。流石にコボルトは時計やカレンダーは持っておりませんから」
ティータこそ、あくまでも魔族呼びなんだな。
でも……そりゃあそうか。
コボルトが人間社会のように、時間に追われながら生活しているとか嫌だ。
それに、こんな日の当たらないダンジョンにいたら、時間なんてすぐに狂ってしまう。
現に俺だって、既にダンジョンに入ってどれくらい時間が経ったか分からない。
流石に1日は経ってないと思うが……半日くらいかな?
「まぁ日付に関してはいいや。結局サキュバス(仮)は何をしたんだ?」
「その魔族はドラゴンに危害を加え、更にダンジョンに魔道具を設置。その魔道具を守るようにマグマゴーレムを置いて去ったそうです」
……本当にダンジョンを荒らしまくってるじゃないか。
「ドラゴンに危害って……ドラゴンは大丈夫だったのか?」
「一応生きているようですが、詳しくは教えてくれませんでした」
流石に現状は教えてくれないか。
「その置いていった魔道具って?」
「それが今回の異変の元凶のようでして。その魔道具は魔素を過剰に発生させるとのことです」
「なんだって!?」
俺は大声を上げて立ち上がる。
向こうでラビットAとガロンがビックリしているが……俺は何でもないと身振りで誤魔化す。
魔素を発生させる魔道具って……間違いなく樹海で起こっていた異変じゃないか。
「それがダンジョンの至るところにだって?」
「はい。ですが、この付近の魔道具は、コボルトによってすでに破壊済みなのだそうです」
なるほど。
だからブルーム山やこのダンジョンのモンスターは多くないのか。
でも、樹海方面の魔道具までは壊されていないから、樹海でモンスターが大量発生していると。
「魔道具はマグマゴーレムが守っていたんだよな? その時はどうしたんだ?」
まさかさっきのがそれじゃないよな?
今破壊したってんなら、この辺りにもモンスターが大量発生していておかしくない。
「コボルトではマグマゴーレムは倒せなかったそうですが、ゴーレムですので賢くはないようで……事前に準備した落とし穴などで罠に嵌めて、その隙をついて魔道具を破壊したそうです」
知恵で勝ったってことか。
中々賢いじゃないか。
「ですが、罠に嵌めただけで、マグマゴーレムを倒したわけではありません」
「……つまり、罠から抜け出したと?」
「その通りです。罠から抜け出したマグマゴーレムは、守る魔道具が無くなったため、魔道具を壊したコボルトを狙うようになったそうです」
そして、ついにここまでやって来たということらしい。
3体だったのは3ヶ所の魔道具を壊したから。
マグマゴーレム同士が合流したのか、偶々なのかまでは不明なのだそうだ。
流石に罠の準備もしてなかったので、攻めてきたマグマゴーレムに対して何も出来ずに……って時に、俺達の登場。
マジで神がかったタイミングだったんだな。
「コボルトバトラーが話してくれたことは以上となります」
「よし、一旦整理してみようか」
こちらの知っていることと憶測も交えて整理する。
まず、ケフィアが異変に気づいたのは1ヶ月前。
なので、サキュバス(仮)が現れたのは、それより前になるだろう。
異変の内容は平地に山のモンスターが出現することと、地揺れが頻繁に起こること。
そして、認識していなかったが、樹海にモンスターが大量発生していた。
樹海の大量発生は、サキュバス(仮)が置いていった魔道具の効果。
平地に山のモンスターが出現したことと、地揺れに関してはまだ答えが出てない。
だけど、予想はできる。
平地と山を繋ぐドラゴン専用の通路。
そこに魔道具が設置されているんじゃないか?
ただ、それだともっと平地にモンスターが出現してもいいが、そこまで多くないということは、コボルトに破壊された魔道具がそれだったのかもしれない。
これに関しては、確認が必要だな。
そして地揺れ。
これも答えは出てないが、ケフィアの話を思い出せば予想はつく。
ドラゴンだ。
火山エネルギーはドラゴンが取り込んでいた。
そのドラゴンにサキュバス(仮)が危害を加えた。
その危害がどの程度か分からないが、怪我をして火山エネルギーを十分に吸収できてないんじゃないか?
もしくは、魔道具の効果。
魔道具で魔素が過剰に増えているなら、同じく魔素が関係している火山エネルギーが増えていてもおかしくない。
つまり、異変を抑えるためには何をすればいいか。
「最優先は魔道具の破壊だな。それから……ドラゴンの治療」
やることは明確になった。
だけど……それをするためには、コボルトの協力が不可欠だ。
さて、どうやって説得すればいいのか。




