第175話 マグマゴーレム戦
「それじゃあラビットA、マグマゴーレムを。ティータがコボルトの説得と死なないように護衛を頼めるか?」
「きゅきゅ!」
「おまかせ下さい」
2人とも大丈夫だと頷く。
しかし……ティータの方はともかく、マグマゴーレムは3体いる。
ラビットAひとりでも倒せないことはないだろうが、ダンジョン内で魔法が制限されている状態なら、倒すのに時間が掛かるだろう。
せめてマグマゴーレムと同じ数を用意すべきだな。
ドラゴニュート……はアイスジャベリンを持っていても、物理攻撃だし、ブレスなどの火属性は効かないだろう。
それに、俺の周りから護衛がいなくなるのはマズい。
クイーンビーは戦闘向きじゃないし、昆虫だから、火属性のマグマゴーレムには弱い。
というか……ナビ子にゴブリンを渡しているから、こっちの仲間は昆虫ばっかりなんだよなぁ。
考えてみたら、火属性に弱いモンスターばかり。
やはり水系のモンスターも用意しないと。
そういうわけで、今回召喚したのは星4ウサギのホーンドヘアと星5鹿のケリュネイア。
どちらも進化してからだと初戦闘になる。
「また新しいモンスター……しかも、なんじゃその神々しい鹿は?」
背後でガロンが驚いているようだが……まぁガロンのことは後回しだな。
「ノルマは各自1体ずつってことで。行って来い!」
「きゅつじんー!」
ラビットAの号令でホーンドヘアとケリュネイアが出撃する。
「ではわたくしもコボルトの元へ参ります」
不可視を解除したティータがコボルトのもとへ向かう。
「さっ、俺達はここで見学だ」
俺は背後にいたガロンに声をかけるが、先ほど無視したせいか、ガロンは不満そうにしている。
……仕方ないな。
「ホーンドヘアは見たとおりウサギだ。ケリュネイアは鹿の聖獣だ」
「せっ聖獣じゃと!?」
「言っとくが、これ以上は説明しないからな。何処にいたかなどは全部秘密だ」
何処にも何も合成なんだが。
「ぐぬぬ……お主、実はわざと見せつけておるだろ?」
まぁ半分は。
だってさ。せっかくのコレクションを誰にも見せられないのは寂しいもんな。
絶対に秘密が漏れないような……こういう機会に見せびらかしたいじゃんか。
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突然現れたラビットA達に驚くコボルト達。
マグマゴーレムは……特に変化はない。
ただ目の前の敵を倒すだけって感じだ。
まずはティータがコボルト達の前に出て防御魔法を唱える。
併せてコボルト達に話しかけているようだが……ここからは聞こえない。
もしかしたらコボルト達から攻撃を受けるんじゃないかと心配したが、どうやら杞憂だったようだ。
動揺していたコボルト達はティータの言葉を受けて後方へ下がる。
そのまま離脱してくれたら守る必要がないんだが……流石に広間から出ていくつもりはないようだ。
うん。ティータの方は問題なさそうだ。
肝心のラビットA達は……マグマゴーレムが3体ともホーンドヘアに攻撃を仕掛けている。
ホーンドヘアはデコイのスキルを持っていたからな。
囮になっているのだろう。
マグマゴーレムが溶岩の塊をホーンドヘアに向かって投げる。
それをホーンドヘアは雷の槍で相殺する。
星3のサンダーランスの魔法だろう。
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サンダーランス【雷属性】レア度:☆☆☆
中級雷魔法。
雷の槍で対象を貫く。
サンダーよりも貫通力があり、高い殺傷能力を誇る。
――――
今回は貫かず、相殺していたから、威力を落としていたに違いない。
貫通してダンジョンを傷つけたら大変だからな。
これなら星3の魔法でも問題なさそうだ。
ってか……各自ノルマは1体ずつって言ったのに、何でホーンドヘアが3体まとめて引き受けているんだ?
まぁ別に1体ずつ戦うんじゃなくて、協力するならそれでもいいんだけど。
マグマゴーレムがホーンドヘアに集中している間に、ラビットAがアクアの魔法を唱える。
なるほど。水で一気に冷やそうってことだな。
だが、ラビットAの放ったアクアがマグマゴーレムに当たると……
「きゅわわ!?」
その場に大量の水蒸気が噴出した。
慌ててアクアを止めるラビットA。
「馬鹿もん! マグマゴーレムに直接水を掛ければそうなるに決まっておろうが!」
ガロンの怒号が響き渡る。
確かに溶岩に直接水をかければそうなるわな。
幸いそこまで水に当たらなかったようで、すぐに水蒸気は収まった。
「もしもっと大量の水を浴びておったら、今頃大爆発を起こしておったかもしれんぞ」
水蒸気爆発ってやつだな。
そんなのがダンジョン内で起こったら……考えただけでもゾッとする。
「ラビットA! 水魔法は禁止だ! 別の方法で冷やすんだ!」
俺はラビットAに聞こえるように大声を出す。
危険だから近づかないが、マグマゴーレムはこちらを攻撃する気配はないし、コボルトに見つかっても問題ないから、隠れる必要はない。
というか、さっきのガロンの怒号でバレバレだから今更だ。
「きゅい!」
俺の叫びにラビットAが敬礼で答える。
だが、すぐに腕を組んで考え始める。
おそらく、きゅむむ~とか言ってるに違いない。
物理攻撃は効かず、水魔法は使えない。
どうやって倒すか考えているんだろうが……どうする気だろう?
ラビットAが考えている間も、ホーンドヘアがマグマゴーレムの攻撃を一手に引き受けている。
そしてケリュネイアは光のレーザー、レイの魔法をマグマゴーレムに当てていた。
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レイ【光属性】レア度:☆☆
初級光魔法。
熱光線を放射する。
――――
レイの直撃を受けた部分が爆発して欠ける。
……が、それも一瞬だけで、すぐに再生して元通りになる。
う~ん。再生して元通りか。
でも、もう少し威力の高い魔法で一気に倒せば?
ケリュネイアも光の極意スキルを持っているので、レイよりも強力な魔法を持っている。
上限解放で星5までが合成できるようになって、魔法も一応星5までは作っているからな。
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ヘブンズレイ【光属性】レア度:☆☆☆☆
上級光魔法。
非常に強力な熱光線を放射する。
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星2のレイがレーザー光線だとすれば、ヘブンズレイはレーザー砲だ。
レイよりも数倍デカい熱光線を放射する。
そしてそれ以上に威力の高い光魔法もある。
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セレスティアルレイ【光属性】レア度:☆☆☆☆☆
最上級光魔法。
天から幾多もの光線が降り注ぐ。
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怖くて確かめていないが、空から雨のようにレイが降ってくるのだろうと予想する。
閉鎖されたダンジョン内では使えないが……外でも地形が変形しそうで使えない。
今回はヘブンズレイで十分勝てそうだが、ヘブンズレイでも結構な爆発が起こりそうだ。
他に手段がなかったら、ヘブンズレイしかないだろうが……。
「きゅまー!!」
突然ラビットAが叫びながら地団駄を踏む。
……どうやら何も考えつかなかったようだ。
「きゅリザード!!」
と思ったら、自棄になったラビットAが思いっきりステッキを振る。
「おいっ!? こんな場所でブリザードなん……」
止める暇すらなく、広間は吹雪に包まれた。




