第174話 ゴーレムVSコボルト
「……とりあえず、その現場に急ごう」
少し悩んだ末、俺は現場に行くことにした。
「何でじゃ? 別に急ぐわけでもないのだろ? さっきの広場に戻って、モンスター同士の戦闘が終わるのを待った方が安全ではないか?」
俺がさっき悩んでいたことをガロンが指摘する。
もちろんガロンの言う通り、広場に戻って戦闘が終わるのを待った方が安全だ。
戦闘が終わった後なら、モンスターはその場からいなくなるだろうし、いたとしても、片方としか戦わなくてすむ。
だが、俺はそれを選ばなかった。
「どうせなら、両方の素材を手に入れたいだろ」
俺の目的はモンスターと戦うことじゃなく、素材を手に入れること。
図鑑のことを考えたら、広場に戻るのは論外だ。
だから、せめて戦闘が見える場所までは近づく。
そうすれば、戦闘が終わった後に残った方を倒せば両方の素材が手に入る。
決着が付きそうになかったり、片方が逃げ出そうとすれば、その時に介入して逃げないようにすればいい。
まぁ本当に危険そうだったら、介入せずに逃がすかもしれないが。
それはその時の状況次第だな。
「お主……そんな考えじゃ長生きできんぞ」
「ははっ肝に銘じておくよ」
心配しなくても、俺もひとりだったら確実に行ってない。
頼りになりすぎる仲間がいるからこそ行けるんだ。
忠告したガロンもこのまま一緒に行動する。
どうやらガロンも忠告だけで、ひとりでこの場に留まる気はないらしい。
そのまま5分ほど歩くと、問題の分岐点へ到着。
ここで俺とラビットAはスキル妨害と魔法妨害のスキルをパーティ全体へと拡げる。
これで向こうの察知スキルには見つからない。
後は……姿を消したり、音が聞こえなくなれば良いのだが、消音も隠密も不可視も全部自分だけ。
一応触れていれば、対象になるけど……俺たち全員がティータに触れて移動するわけにはいかないもんなぁ。
ジャミングはその場に留まらなくちゃ駄目だし、静寂はこっちの音が消えるわけじゃない。
一応、ティータは不可視を使い、羽音が気になるクイーンビーには消音を覚えさせる。
「きっ消えた!?」
「こらガロン。うるさいから叫ぶな」
「うぐっ……すまん。じゃがいきなり目の前から消えると驚くじゃろうが」
「妖精だから姿が見えなくなるスキルが使えるんだよ。大丈夫、俺には見えるから心配するな」
むしろ俺は見えない状態を知りたいよ。
準備ができたところで慎重に進んでいく。
すると、すぐに戦闘音らしき音が聞こえてきた。
「この先にさっきと同じ様な少し広い場所がある。そこで戦っておるんじゃろう」
なるほど。
ってことは、広間に出なければ、バレることはなさそうだな。
ガロンの言う通り、広間が見えてくる。
俺たちは広間に入らずに通路で待機。
俺は通路から広間を覗き込む。
「なんだありゃ……」
溶岩の化け物が3体と、それに立ち向かうコボルトの群れ。
俺は急いで登録して図鑑を確認する。
ガロンのことは気にしない。
今更、図鑑を見られてもそう大差ないだろう。
――――
マグマゴーレム
????×????
――――
マグマゴーレムか。
ゴーレムには違いないんだ。
――――
コボルト
犬系モンスター×人型モンスター
……
――――
――――
ハイコボルト
コボルト×コボルト
犬系モンスター×中級人型モンスター
……
――――
やっぱりコボルトに間違いないようだ。
ハイコボルトの方は、コボルトが図鑑登録されたから、コボルトのレシピが表示されている。
それからハイコボルト以外にも、コボルトナイト、コボルトバトラーにコボルトキーパーにコボルトサーバント?
ナイトはともかく、残りはよく分からないな。
しかし……こうやって見ると、マグマゴーレムが圧倒的だな。
現時点で生き残っているコボルトは10体以上いるが、すでにそれ以上のコボルトの死体が転がっている。
ここまで劣勢なら、コボルトも逃げ出せばいいのに……
「どうやら、あのコボルト達はマグマゴーレムを先へと通さないようにしているみたいです」
なるほど。
この先にコボルトの巣でもあるのかな?
んで、マグマゴーレムが侵略者か。
どんだけ劣勢でも、守らなくちゃいけないってことか。
ただ……ハイコボルトやコボルトナイトの攻撃がマグマゴーレムに直撃しているが、マグマゴーレムがダメージを受けているように見えない。
まぁ物理攻撃が効く見た目じゃないもんな。
魔法攻撃が必要だろうが……あの中に魔法が使えるコボルトはいないのか?
「マスター。……あのコボルト達を助けませんか?」
俺はティータの言葉に一瞬耳を疑った。
助けるってことは、マグマゴーレムを倒した後にコボルトは倒さないってこと。
要するに俺はコボルトをカードにすることが出来なくなる。
しかも、戦闘に介入するってことはそれだけ危険も増すってことだ。
カードモンスターは俺のことを一番に考えるから、基本的に俺に不利益な提案しない。
だから、いつものティータなら、ここで戦闘が終わるまで待機すると言うはずだ。
これがラビットAなら可哀想だからって言いそうだが、ティータだからそれもないだろう。
「理由を聞いてもいいか」
「マグマゴーレムとは意思疎通が図れそうにありませんが、コボルトとは対話が可能です」
「つまりコボルトを助けて情報を得ようってことか」
その通りだとティータが頷く。
「しかし、それなら倒した後に聞き出せばいいだけじゃないか?」
カードモンスターにしてしまえば、情報は聞き放題だ。
「それだと今後に響きます。あのコボルトが生きているということが大事なのです」
「どういう意味だ?」
「ここから聞こえたコボルトたちの会話によりますと……あのコボルト達はドラゴンの関係者のようです」
「……本当か?」
「事実かどうかは実際に聞いてみませんと分かりません。ですが、もし本当にドラゴンの関係者なら、コボルトを殺すより、助けた方が交渉しやすいかと」
確かに。
それなら、カードが手に入らない以上のメリットがある。
「分かった。マグマゴーレムを倒して、コボルトを助けよう」




