第172話 ダンジョン探索
「ええか。今からダンジョンに入るが、魔法には十分に気を付けるんじゃぞ」
「分かってるよ」
「きゅい!」
ガロンの忠告に俺とラビットAが答える。
ダンジョンの中でトルネード等の高威力の魔法を使用してしまったら、ダンジョンが崩れて、下手したら生き埋めになってしまう。
流石にそんな自爆のような間抜けなことで死にたくはないので、ラビットA達には星2までの魔法と厳命してある。
もちろん星2でもダンジョンを傷つけるような魔法は駄目だし、星3でも攻撃魔法じゃなければ許可は出している。
「きゅイト!」
ラビットAのライトの魔法でダンジョン内を照らす。
「……魔法っちゅうんは本当に便利なんじゃな」
「きゅふふ」
ガロンの言葉にラビットAが照れる。
この2人。昨日から本当に祖父と孫のように仲がいいんだよなぁ。
先頭はラビットA、その後ろに道案内のガロン、そして俺とティータ、最後尾をドラゴニュートとクイーンビーに任せて移動を始める。
ラビットAの明かりがあっても、ダンジョンは薄暗く、先が見通せない。
足場だって、整備されてないから、転けないように歩くので精一杯だ。
こんなんでモンスターと戦いながら探索するのか。
確かにレンジャーなどのサポート職がいないと探索なんかできそうもない。
「ガロンはよく1人でダンジョンに潜れるな」
改めてガロンの凄さを実感する。
ガロンは魔法が使えないんだから、この足場の悪い場所をランタン片手に移動する。
その上で察知も戦闘も全てひとりで行わなければならない。
とてもじゃないが、俺なら絶対に潜れない。
「満足いく武器を作るためなら、多少の無茶をせんとな。それに10年も潜っておれば、慣れるもんじゃ」
がははと笑いながら話すガロン。
「この人もマスターと同じく、立派な志をお持ちなのですね」
確かにガロンは鍛冶職人として立派な志があると思う。
けど、俺のはただの趣味。志なんて大したもんじゃない。
俺はティータの言葉に少し引け目を感じながら先へ進んだ。
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しばらくダンジョンを進んでいくと、ひらけた場所に出る。
「儂はいつもこの辺りで採掘をしておる」
ガロンはそう言いながら岩陰へ向かう。
そこにある岩を少しずらすと、穴が出てくる。
どうやら穴を掘って、岩で隠していたようだ。
ガロンが取り出したのは……ツルハシだった。
なるほど。そのツルハシで採掘していたのか。
「お主も慣れない移動で少し疲れたじゃろ。ここで少し休憩するとしよう」
体力的にはまだ余裕はあるが、慣れないダンジョン移動で精神的に疲れた気がする。
なので、休憩に異論はない。
だが、俺の返事を待たずに採掘を始めたガロンを見ると、俺を気遣ってじゃなくて、単純に採掘したかっただけじゃないかと思う。
……まぁいいけどね。
「ここにモンスターは出現しないのかな?」
ダンジョンの中で広い空間があったら、モンスターのたまり場になってそうだけど。
「どうやらモンスター除けがされているようですね」
「モンスター除け?」
「ええ。我慢できなくはないのですが、ここは少し不快な感じがします。おそらく魔道具か何かでモンスターが苦手な魔力を発しているのでしょう」
魔力を糧にしているモンスターでも苦手な魔力の種類があるようだ。
それをガロンが使用しているから、ここにモンスターがいないのか。
「人間で例えると、ゴミ捨て場にいるような感じでしょうか。野生のモンスターも、余程のことがない限り近寄らないでしょうね」
なるほど。確かに理由もなくゴミ捨て場に近寄りたいとは思わないだろうな。
「しかし、その魔道具があればモンスターが近寄らないんなら、もっと奥まで行けそうだけど……」
「マスター。ゴミ袋を持ち歩いても、周りへの影響は広くありませんよね? 同じ場所でずっと発しているから広範囲に広がるのです」
そっか。
確かにゴミ袋を持ち歩いても、その臭いは近づかないと分からない。
この魔道具も、ずっと同じ場所にあり続けるから広範囲に拡がっていくってわけか。
まぁモンスターが近寄らない理由はわかった。
それに、ティータ達も不快な気分になるだけで、悪影響があるわけでは……と、見るとラビットAやドラゴニュートもばたんきゅーしていた。
「お、おい。大丈夫か?」
「きゅぺぇ……きゅート。ここ、やっ!」
……本当に苦手のようだ。
「う~ん。嫌ならカードに戻っておくか?」
流石にある程度採掘が終わらないとガロンは動かないだろう。
こっちも道案内をお願いしている手前、急げとは言いにくい。
というか、俺も採掘された鉱石を貰いたいしな。
「きゅむい~」
ラビットAはカードに戻りたくないのか嫌々と首を振る。
「野生のモンスターが近寄りづらい場所でも、絶対に来ないとは限りません。そんな場所にリーダーはマスターを残しておけないんでしょうね。もちろんわたくしもカードには戻りません」
「……そっか。じゃあガロンに早く切り上げてもらわないとな。ラビットA、手伝ってこい」
「きゅい!」
ラビットAの土いじりの魔法があれば、採掘にも役に立つはずだ。
「マスター。では休憩の間に偵察隊を出されてはどうでしょうか?」
ふむ。偵察か。
確かにこの先にモンスターがいるか確認するためにも、偵察はありかもしれない。
あいにくとバット達はナビ子に託しているので、俺はシャドービーに偵察に行ってもらうことにした。




