第170話 ダンジョンへ出発
「よし、じゃあ出発しようか」
朝食を食べ終わり、個室を片付けた俺はそう告げる。
「のぅ。別に追求するわけではないが、さっきから気になって仕方がないので、ひとつだけよいか?」
俺と同じシリアル食品を食べ終わったガロンが言う。
食べながらもずっと聞きたそうにしていたもんなぁ。
追求するわけではないってのは、契約を破るつもりはないって意思なんだろうな。
「なんだ?」
「そこにおる2体じゃ! 昨日はおらんかったではないか!」
2体とは、ガロンは俺の背後で待機しているクイーンビーとドラゴニュートのことだろう。
「今回のダンジョン探索で役立てようと召喚したドラゴニュートとクイーンビーだ。命令は聞いてくれるけど、ラビットAやティータのように話はできない」
「ふむ。普通の召喚ということじゃな」
普通の召喚とは違って、何度も召喚できるけど、実際に言葉を発せないから、ガロンから見れば普通のサマナー能力と変わらない。
突然いたから驚いたけど、普通のサマナー能力なら深く追求する必要もない。
契約魔法も発動してないようだし、どうやら本当に確認したかっただけみたいだ。
俺がこの2人を呼び出した理由は簡単だ。
ドラゴニュートは元々ウチの残念トカゲなので、進化しても今ひとつ頼りなさそうな気がするんだが……今回は出現モンスターがトカゲ系が多いらしいし、是非とも活躍してもらわねばならない。
クイーンビーは元々ナビ子達の動向を調べるために必要だから、本来なら昨日のうちに召喚しておきたかった。
だけど、ロック鳥を降り立ってすぐにガロンと出会ってタイミングがなかった。
そして昨日の夜、ナビ子達の動向を調べようと呼び出したんだが……調べることができなかった。
クイーンビーがインセクトクイーンと感覚共有ができなかったのだ。
今までそんなことがなかったから、昨日の夜は大騒ぎだった。
こっちの探索を止めてナビ子達の元へ向かうかって話もした。
まぁ結局残ることにしたんだが。
クイーンビーがインセクトクイーンと繋がらなかった可能性は3つ。
1つ目は、ナビ子がインセクトクイーンを呼び出していなかった場合。
基本的に俺達と繋がっているから、召喚しっぱなしにしているはずだが、怪我や体力回復、そもそも夜だからってことでカードに戻していた可能性もある。
2つ目は、単純にスキルの範囲外だった場合。
ダンジョンの中は、ナビ子の気配察知スキルすら上手く作動しない可能性があるって言ってたから、クイーンビーのスキルが届かなかった可能性は大いにある。
そして3つ目だが……考えたくないが、ナビ子達が全滅していた場合だ。
全滅した場合でも、ナビ子の方にカードがあるから、俺の方に戻ってくることはない。
したがって、ナビ子がやられた時点でその場にカードが散らばることになる。
この場合、急いでカードを回収しないと、カードを紛失した時点で、ナビ子達は本当に死んだことになる。
ティータやラビットAとも話し合った結果、全滅は考えにくいと判断した。
なので、可能性が高いのが2。
1だとしても問題ないと思い、ナビ子達の元へ向かうのを止めた。
だから俺は俺が出来る探索をして、終わってからナビ子達に合流をする。
「さっ疑問も無くなったことだし、さっさと行こう」
俺はガロンを促しながら出発した。
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「マスター。そこの岩場の影からモンスターがやってきます。ニュートさんは右を! リーダーは左を頼みます」
「きゅい!」
ティータが言い終わったと同時でモンスターが岩場から飛び出してくる。
現れたモンスターは、ティータの指示通り、ラビットAが右を、ドラゴニュートが左を相手にする。
襲いかかってきたのは2匹の犬型のモンスター。
ユニコーンがいるので、重要度は低くなったが、それでも待望の犬型モンスターだ。
「ガロン。あのモンスターは?」
登録して図鑑を確認するわけにもいかず、ガロンに尋ねる。
「へ、ヘルハウンドじゃ!」
ヘルハウンド!
定番のモンスターじゃないか!
いきなり出会えた犬モンスターがヘルハウンドとか運がいいな。
……ヘルハウンドを合成したらケルベロスにならないかな?
あっ、でも頭が3つ必要だから、ヘルハウンド3匹の複数枚合成が必要かな?
「お、お主……何を呑気にしておる。あのままでは嬢ちゃんが食われてしまうぞ!」
「まぁ見てろって」
ガロンにも、この程度のモンスターで慌ててもらっては困るので、今回はラビットAとドラゴニュートの実力をしっかりと見てもらおう。
「きゅしし」
自分に向かってきたヘルハウンドにステッキを向ける。
「きゅイスニードル」
ステッキから氷柱が飛び出してヘルハウンドへ突き刺さる。
「あの一瞬で、あの威力の魔法の発動じゃと!?」
ラビットAはマジックバニーになってから、魔法の威力と発動スピードが段違いに上がった。
さらにステッキを持つことによって、命中精度まで伸びた。
魔法じゃもう誰も敵わないんじゃなかろうか。
いや、今のヘルハウンドのように、近づくことすらできない。
それに近づいたところでボーパルソードもある。
「ここに来る前はハンババだって1人で倒しているんだ。今更ヘルハウンドなんかに負けないさ」
ヘルハウンドがどれくらい強いかは知らないが、せいぜい星2か星3だろう。
ラビットAの敵ではない。
問題はドラゴニュートの方だが……こちらも問題ないようだ。
ずっと夢見ていた念願のブレスをドラゴニュートがヘルハウンドに向けて吐く。
ヘルハウンドが炎に包まれるが……流石に炎耐性があるのか、ほとんどダメージはなさそう。
だが、動きが止まった瞬間に、ドラゴニュートの槍がヘルハウンドを貫く。
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アイスジャベリン【武器】レア度:☆☆☆
水属性の鉄槍。
ダメージを与えると、傷口が凍る。
また、魔力を流すことでアイスジャベリンの魔法を唱えることが出来る。
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俺がドラゴニュート用に作った魔槍だ。
本人が火属性だから、対なる属性を装備すれば相手の弱点を突きやすいと思ったが……ちゃんと使いこなせているようだ。
魔法のアイスジャベリンは星3の氷魔法。
アイスニードルの氷柱が更に長く、槍のようになっている。
「どうだ? 中々やるだろう?」
俺はヘルハウンドの死体を回収しながらガロンにドヤる。
もちろんガロンには収納スキルで片付けたように見せるため、カードになる瞬間は見せないようにする。
そのガロンは……唖然としていた。




