第168話 ドラゴンの居場所
「炎竜石はドラゴンの近くでしか見つからないし、炎竜剣にはドラゴンの素材が使われていた。だから俺はガロンがドラゴンの居場所を知っている……もしくはドラゴンを退治したんじゃないかと疑っている」
俺はガロンに正直に打ち明けた。
「ふん。馬鹿らしい。儂がドラゴンを退治したじゃと? 儂ひとりでドラゴンを倒せるはずなかろう!」
「じゃあドラゴンの素材は?」
「あれは偶然拾ったんじゃ。ドラゴンもずっと同じ場所にいるわけではないでな。移動中に落ちたウロコや欠けた爪を拾っただけじゃ」
「ふ~ん。やっぱりね」
俺だってガロンがひとりでドラゴンを倒せるとは思ってなかったから、そんなとこだろうとは思っていた。
「でも……ってことは、ドラゴンの居場所は知っているわけだ」
「おっそろしくて近づけんから、おおよその場所しか分からんがの」
「十分だ。その場所がどこか教えてくれ」
「……お主はドラゴンを探してどうするんじゃ? まさか、フォレストドラゴンのように倒すんか?」
「いやいやいや、そんなことしたら噴火しちゃうじゃん。倒したりはしないよ」
「では何故?」
「依頼主がさ、今回の異変はドラゴンに何かあったんじゃないかって言うんだ。だから……会って話を聞いてみようかと」
「話を? お主はドラゴンの言葉が分かるんか?」
「俺は分からないけど、このティータなら分かるさ」
本当なら俺だって言語翻訳があるから理解しようと思ったからできるはず何だけど……実際どうなんだろ?
「……わたくしもドラゴンと話したことはありませんので、あまり自信はありませんよ」
「えっ!? そうなの? フォレストドラゴンとは?」
「敵対していた際は話しませんでしたし、仲間になってからは他の皆さんと同じですから」
「……ティータは全てのモンスターの言葉が分かると思ってた」
「もちろん全く分からないわけではございません。ですが、鳥類と昆虫類は問題ありませんが、それ以外となりますと、仲間以外は少し不安が残ります」
そういえば仲間以外でティータに通訳を頼んだのは、ソニックイーグルだけか。
「特に爬虫類系のモンスターは苦手ですね」
まぁなんとなく昆虫の天敵みたいなイメージがあるもんな。
元蝶のティータが苦手意識を持っていてもおかしくない。
ってか、確かにドラゴンは爬虫類だな。
「まっ、言葉が分からない訳じゃないなら、ティータに任せるよ」
「……おまかせ下さい」
不承不承といった感じでティータが頷く。
「のぅ……お主達、今フォレストドラゴンを仲間にと言わなかったか?」
あっ、ガロンのことを忘れていた。
「……気のせいだろ」
「そんなわけあるか! じゃあさっき食べた肉はいったい何だったんじゃ!!」
どうやら誤魔化しは聞かないようだ。
「あれは本当にフォレストドラゴンの肉だよ。仲間ってのは、比喩的表現なんだ」
俺は冒険者カードを見せる。
「俺がサマナーって話はしたよな? だから、倒したフォレストドラゴンを召喚することができるんだ」
「確かに最初にサマナーと言っておった気がするが……お主、そのレベルは……」
レベル?
そう言われて改めて冒険者カードを見る。
「はぁ!? レベル31!?」
「……何故お主が驚くんじゃ?」
「いや、俺が以前確認したときはレベル20だったから……そっか。考えたらモンスターを倒しまくってたな」
ライラネートを出てから、鳥狩りをして、樹海では100種以上のモンスターを倒した。
挙げ句の果てにフォレストドラゴンだ。
レベルが上がると貰える経験値が減るシステムになってるとはいえ、ハンババやらフォレストドラゴンは大量の経験値が手に入ってそうだ。
「まぁレベルが上がったところで何の意味もないからどうでもいいけど」
別にレベルで能力が上昇するわけでもないしな。
でもこれで中堅冒険者から上級冒険者になったってことか。
まぁ上級になったところで同じく変化はないけど。
あっ、でも上級冒険者は上級職に転職できるんだっけ?
これも名誉だけで特に意味はないけと……サマナーって肩書きよりはいいかも。
帰ったらアザレアに相談してみよう。
「まっ、まぁ俺のレベルはともかく、サマナーだと言うことは分かったよな。いざとなったら、フォレストドラゴンを召喚できるってことだ」
「のぅ。試しに今ここで……」
「できるわけないだろうが! サマナーの召喚デメリットを知らないわけじゃないだろ?」
まぁ俺にはデメリットはないけど。
「ううむ。まっ、仕方あるまい。しかし……では、嬢ちゃん達も召喚されたモンスターかいの?」
「……そう見えるか?」
「全く見えん」
普通のサマナー召喚は言葉なんか話さないからな。
「まぁこの2人はまた違うってことだ。これ以上は話さないからな」
今までのは口を滑らしたからサービスだ。
「マスター。わたくしのせいで申し訳ありません」
「別にいいさ。だから、落ち込むな」
話の流れ的に仕方ないし、致命的でも何でもないしな。
「さて、ドラゴンと話せることは分かったと思う。別に倒したりしないから、ドラゴンの居場所を教えてくれ」
俺の言葉にガロンは逡巡する。
ここまできたんだから、悩まずに教えてくれてもいいだろうに。
「あいわかった。儂がちゃんとドラコンの場所まで案内しよう」
「はっ? いや、別に場所だけ教えてくれたら、案内は必要ないんだけど……」
まさか案内すると言われるとは思わなかった。
「お主……地図もないのに、どうやって道案内しろと言うんじゃ」
「いや、ダンジョンの入口までと、ダンジョンの注意点だけ教えてくれたら、後は何とでも……」
「あまいっ! お主はダンジョンを舐めておる。あのダンジョンは本当に危険なんじゃ。儂が口頭で教えたくらいではどうにもならん」
むぅ。
確かにガロンがいたら、道案内だけでなく、罠など危険な場所も回避できるかもしれない。
ナビ子がいないから、それは非常にありがたいが……
問題はガロンがいることで、自由にカード化スキルを使用できないことだ。
収納くらいはともかく、モンスターを次から次に出すようなことは出来なくなる。
「それに儂がおれば、鉱石の在りかも教えてやれる。お主達もいくらか持ち帰ってはどうじゃ?」
それは魅力的な話だな。
メリットはたくさんある……か。
「……分かった。案内を頼む……が、ひとつだけ条件がある」
「何じゃ?」
「俺達の秘密を探らないこと。スキルや能力を見ても、見て見ぬふりをしてくれ」
「そこは絶対に見るなではないんじゃな」
「見ないってことは不可能だからな。それから、絶対に口外しないこと」
「ふん。元々口外する相手がおらんわ」
だから、譲歩出来るんだけどね。
これがケフィアだったら、絶対に一緒には行動しなかったと思う。
「よし、じゃあ道案内を……」
「マスター。口約束だけでは不安です」
そこにティータが待ったをかける。
確かに口約束だけだけど……かといってどうするの?
「何じゃ? この娘は、儂が約束を破ると思っとるのか?」
「別にガロン様を疑っているわけではございません。ですが、数年後などに、お酒の席でポロっと話してしまう恐れは否定できません」
確かに。
普段は話さなくても、お酒の席で……ってのは考えられる。
実際に、アズリアはそうやって俺の情報を仕入れたしな、
さっきの酒盛りでも、ガロンは結構おしゃべりだった。
もし、今回ドラゴンと会うようなことがあれば、武勇伝として鉄板話になりうる。
「ではどうしろと言うんじゃ?」
うん。どうするんだろ?
「はっ!? まさか、儂の作品を担保にする気か!?」
「おっ、それはいいな。炎竜剣にしよう!」
「ふざけるな! あれを完成させるのに儂がどれだけ苦労したか……」
「だから担保に丁度いいんだろ。対価としては丁度いい」
うん。
これなら話されても得した気分になる。
「おふたりとも……そうではありません」
……どうやら違うらしい。
「担保では、一度話されてしまうと、その後際限なく話されてしまう恐れがあります。ですから……契約してもらいます」
「「けいやく?」」
俺とガロンは揃って尋ねる。
「リーダーが丁度いい魔法を覚えております。ガロン様さえ宜しければ、その魔法で契約したいのですが……」
「うむむ……なにやら怖いんじゃが」
「大丈夫です。マスターのことを口外しなければ、何の問題もありません。それとも……やはり口約束だけで、話すおつもりでしたか?」
「そんなことはない! よし、その契約を受けてやろう!」
なんだか勝手に話が進んでいるんだが……本当に大丈夫なのか?




