第164話 鍛冶職人
「マスター。向こうから仕掛けてくる前に、こちらから仕掛けますか?」
「きゅきゅ!」
「いやいや、なに物騒なこと言ってんの!?」
2人とも好戦的過ぎるだろ。
「そもそも、勝手に家に上がり込んでいるこっちが百パー悪いんだから、仕掛けちゃ駄目だろ」
向こうが警戒しているのは、中にいる俺達が賊、もしくは野生のモンスターだと思っているからだ。
いや、モンスターなら小屋が壊されている可能性が高いから、賊だと思われているだろう。
なら、こっちに敵意がなく、無害だと伝えればいいだけのこと。
……まぁそれが難しいんだけど。
「別に敵対するつもりはないんだ。だから……いいか。絶対に敵意を向けるなよ」
「マスター。確かに今回の件では、完全にマスターに非がありますが、それでもマスターに害を及ぼしそうでしたら、容赦いたしません」
「きゅい!」
……俺が悪いってことは認めちゃうのね。
それでも関係ないと。
献身的と言うか……こうなったら、向こうが早まらないでくれることを祈るのみか。
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バンッと勢いよく扉が開かれる。
「くぉら! 儂の作品になにし……や……」
入ってきたのは、背の低い、髭もじゃのむさ苦しいオッサンだった。
おそらくドワーフだろう。
ドワーフは武器を構え、勢いよく扉を開けたが、俺たちを見て、言葉がしりすぼみになる。
まぁ賊かと思って扉を開けたら、待っていたのは、頼りなさそうな若造と、ウサ耳魔法幼女、それから妖精だ。
その3人が、両手を上げてホールドアップ状態。
「なっ、なんじゃ貴様らは!?」
最初の勢いはどこへやら。
ドワーフが一転して動揺する。
……どうやら俺たちが未知の存在過ぎて、逆に怖いみたいだ。
「あっ、俺達は怪しいものじゃなくて……ちょっと通りかかっただけなんですよ! ほら、何も盗ってないですし、この通り抵抗しないんで……」
とりあえず無害アピール。
武器も素材も……地面の穴もすっかり元通りだから、パッと見では無くなったものはおろか、触った形跡すらない。
ドワーフは言葉が通じることで、先ほどまでの恐怖はなくなったようだが、今度は胡散臭そうな目を向ける。
「通りかかったじゃと? ふん。下手な言い訳をしおって。こんな場所を通りかかるものなぞおるはずなかろう!」
ドワーフが眉をひそめる。
流石に通りかかったは無理があったか。
まぁ冒険者すら殆ど寄りつかない山だしなぁ。
ただ……事実なんだよなぁ。
「ええ。ちょっと依頼でこの辺りの調査をしていまして……」
「調査だと?」
「ええ。最近山のモンスターが平地に出るようになりまして。それで、冒険者支援ギルドから依頼を受けまして、調査にやってきました」
「お主が……1人でか?」
「俺はサマナーなんで、1人のほうが気楽なんですよ。それに、この子達がいますからね」
「きゅっ!」
ティータは無言で、ラビットAが元気に挨拶する。
が、ドワーフは一瞥しただけで、すぐに俺に向き直る。
「そういうことで、調査に来たんですが、そしたら小屋があるじゃないですか。調査をするなら、そこに住んでいる方から話を聞くのが一番だと思って、訪ねたのですが、不在でしたので、待たせてもらいました」
「なら、さっさと出ていけ。礼儀知らずに話すことなんぞ何もない」
礼儀知らずってのは、勝手に中に入っていたことだろう。
「許可なく中に入ったことは謝罪します。ですが……そこにある武器が、あまりにも素晴らしい物だったので、思わず見入ってしまいまして……」
「ふん。お主に何が分かる?」
「えっと……例えばこのフランベルジュ。炎魔石だけじゃなく、ヘルハウンドの牙も使っていますよね? 多分、魔獣系のモンスターに、よりダメージを与えられるんじゃありませんか?」
俺は一番手前にあった剣の性能を語る。
もちろん、さっきカードにした際の説明文をそのまま言っただけだ。
「……少しは物の価値が分かるようだな」
ドワーフは悔しそうに言う。
おそらく牙に関しては、隠し素材だから、アザレアの観察眼でも分からなかったんじゃないかな。
カード化か鑑識眼レベルじゃないと見抜けなかったに違いない。
「実は俺も少しばかり心得がありまして……そうだっ! この剣を見てもらえます?」
「きゅい!」
俺はラビットAから武器を預かって、ドワーフに見せた。
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ボーパルソード【武器】レア度:☆☆☆☆
別名ラビットソード。
使用者よりも体格の大きな相手に対して、急所に当たりやすい。
――――
ラビットAが魔法じゃなくて物理でも戦いたいとゴネたため作った、もう一つのラビットA専用の武器だ。
ソードって書いてあるが、長剣ではなく、少し長いナイフだと思う。
ラビットステッキ同様、ウサギのしっぽを素材に合成したら、完成した。
幸運だから急所に当たりやすいんだろうな。
俺がボーパルソードを渡すとドワーフの目つきが変わる。
「――悪くはない。だが、それだけだ」
それだけ……か。
一応星4で、かなり強い武器なんだけどな。
「お主……心得があると言ったが、それは嘘であろう? この武器には魂がこもっとらん。おそらく鍛えたものではなく、錬金系のスキルで作ったものだ。そうであろう?」
スゴいな。
そんなことまで分かるのか。
「ご推察の通り、これは俺のスキルで作りました」
「ふん。スキルなんぞに頼っている奴なんぞに話すことなんて何もない! さっさと出ていけ!」
あちゃあ……こりゃあ失敗しちゃったかな。




