第163話 竜の素材
ラビットAとティータに冷ややかな目で見られようとも、こういったチャンスを逃すことは出来ない。
俺は家主が居ない今のうちに、武器や素材をカードにすることにした。
だが、決して盗んだりはしない。
コレクターとして、盗みや迷惑行為はご法度だ。
さっき炎魔石をカードにしたから……このまま素材からカードにしていこう。
「マスター……家主の許可無く勝手なことをされるのは……」
「だって家主が居ないんだから仕方ないだろ。それに、絶対に迷惑はかけないって」
全く……ティータはちょっと真面目すぎる。
ナビ子ならむしろカードにすることを推奨するんじゃないのかな。
「きゅート! こっち!」
見ると、ラビットAが作業場の地面を掘り起こしている。
「ちょっ!? 何やっ……何だそれ?」
早速迷惑行為を働いているラビットAを咎めようと近づくと、掘った場所に赤い鉱石があった。
さっき見た炎魔石とは違うようだ。
「なるほど。レアな素材だから、隠していたってことか。でかしたぞ」
流石、嗅覚のスキル持ち。
もの探しに関してはプロ級だな、
俺はラビットAにいい子いい子してやる。
「きゅへへ」
うん、かわいい。
「あの……マスター。迷惑行為は禁止だったのでは?」
俺がラビットAを誉めたことで、ティータが疑問に思ったようだ。
「まぁそんな固いこと言わずにさ。ほら、家主が戻ってくる前に元通りにしておけば、迷惑行為にはならないって」
そう。
バレなければ迷惑行為でもなんでもない。
だが俺がそう言うと、ティータが先程以上に冷ややかな目を向ける。
いかん。俺の株がどんどん暴落している気がする。
だけど……せっかくだしね。
ってことで、俺は急いでラビットAの見つけた鉱石をカード化してみる。
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炎竜石【素材】レア度:☆☆☆☆
炎の魔力を宿した鉱石。
炎竜の魔力を受け続けた場所でしか見つからない。
――――
おおっ! 星4!
しかも、炎竜石だって。
ドラゴンの魔力を受け続けた場所でしか見つからないなんて……この山にドラゴンがいることは証明されたな。
この素材で武器なんか作った日には、量産型なんか目じゃないくらいの武器が作れそうだ。
というか、そこら辺にある武器にも使われているんじゃないか?
よし、次は武器を……ってとこで、ティータから待ったが掛かる。
「マスター。カードの登録は済んだのでしょう。早く元通りにしてください」
むぅ。
もう少し持っておきたかったけど、仕方がない。
……ティータに促されて、仕方なく解除する。
掘った穴はラビットAが責任をもって元に戻す。
「きゅっきゅきゅっきゅきゅい」
ラビットAが鼻歌混じりに魔力を流し込むと、地面は一瞬で元通りだ。
「……なぁ。今何したんだ?」
俺はラビットAが今何をしたか理解できなかった。
「きゅい! あたらしーまほー」
新しい魔法?
そんなのを教えた覚えはない。
「今のは【土いじり】ですね。リーダーのオリジナル魔法です」
土いじり……そのままの魔法だな。
というか、魔法ってオリジナルで自作できるの……って、以前、似たようにオリジナル魔法を使ってた人物がいたな。
その人物にはもう会うことはないだろうけど……そう考えると、魔法って自作できるのかもしれない。
「リーダーは他にもたくさんのオリジナル魔法をお持ちですよ」
「きゅふふ」
俺はどや顔のラビットAにちょっとイラッとする。
ならちゃんと教えろと言いたい。
これは……今度じっくり問いたださなくちゃ駄目だな。
でも今は武器の登録が先だ。
「さっ、片っ端からカードにしていくぞ」
「きゅきゅ!」
「はぁ……もう知りませんからね」
色々と諦めたティータを尻目に、俺とラビットAはノリノリでカードにし始めた。
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さて、これからどうしよう?
ここにある素材や武器は、一旦全部カードにして登録も完了したし、元通りにした。
このままこの小屋を出たら、俺達が侵入したことすらバレないだろう。
だが、俺はこの小屋に住んでいる人物と話をしてみたい。
武器もカードにしたから分かるけど、ここに住んでいる人は、かなり優秀な職人だと思う。
単純に興味があるし……この山に住んでいるってことは、異変のことも知っている可能性が高い。
仮に異変のことは知らなくても、ドラゴンのことは間違いなく知っている。
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炎竜剣【武器】レア度:☆☆☆☆
火属性の剣。
流れてくる溶岩すら斬ることができる。
炎竜の爪が利用されており、ドラゴン系モンスターに対して威力を発揮する。
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炎竜石だけでも、ドラゴンの棲みかの近くでしか採れないのに、さらに炎竜の爪て……。
もしかして、ドラゴンを退治して、この剣を作った?
んで、ドラゴンが居なくなったから今回の異変が起きている。
うん。可能性は十分にある。
だから、話をしてみたいと言うよりも、絶対に話を聞かなくてはならない。
問題は、ここの住人が何処にいるかだ。
すぐに戻ってくるのか、それとも遠出をしているのか。
それが分からなければ、待ちようがない。
だけど……他人が勝手に家に侵入していたら、普通に考えたら怒るよな?
……この中で待っててもいいものか?
「ってことで、どう思う?」
ひとりで考えても分からないので、ラビットAとティータに相談する。
……こういうとき、ナビ子がいたら、的確なアドバイスをしてくれるんだけど……2人はどうかな?
「きゅみ~……」
だが、ティータは無言で、ラビットAは申し訳なさそうに鳴く。
「どっ、どうしたんだ?」
「マスター……残念ですが、家主と思わしき人物が、すでに外にいます」
「ええっ……どういうことだよ」
思わず大声を出しかけ……外に聞こえたらマズいと、抑え気味に言う。
「どうもこうも、そのままの意味です。すでにマスターの気配を捉えているようで、警戒されております」
「きゅみぃ……きけん!」
警戒済みって……
「なんで早く教えてくれなかったんだ」
「ですから。どうなっても知りませんと言ったではありませんか」
確かに言ってたけど……そういう理由なら言ってくれよ。
とにかく……現時点では強盗と間違われても仕方がない。
俺は敵対しないで済む方法を必死に考えた。




