第160話 選択肢
結局、ダンジョンへは入らなかった。
やはり気配察知のスキルが使えない時点で、危険すぎる。
入るとしても、準備万端でなければならない。
とにかく他の仲間の報告を待つべきだ。
そう思って、このまま待機することにした……のだが、最初こそ平和だったこの場所も、半日くらい経つとモンスターの襲撃が再開した。
新しくリポップしたモンスターか……それとも、単純にこの辺りを縄張りにしていたハンババやフォレストドラゴンがいなくなったからかは分からない。
魔石や素材が手に入るので、このまま倒し続けても良いのだが、これ以上モンスターを倒し続けて、魔素に悪影響が出ないとも限らない。
それに、このまま無駄に体力を消耗し続けるのも問題だ。
というわけで、対策を立てる。
具体的には、この縄張りの主をもう一度呼び出すことだ。
――――
フォレストドラゴン
レア度:☆☆☆
固有スキル:竜、土の素質、自然の加護、大地の加護、強者のオーラ
個別スキル:自然回復、無尽蔵
中級ドラゴン。
竜種の中でも耐久に優れている。
――――
「……確かにデカい」
「ねっ。おっきいでしょ」
事前にナビ子から聞いていた通り、見た目はステゴサウルスのような、剣竜タイプのドラゴンだ。
まぁ剣竜の特徴である背ビレは、骨盤ではなく、植物が生えている。
これ……抜いたらどうなるんだろう?
大きさはざっくり換算で10メートル。
全長でいえば、グランドワームの方が長いが、総合的なデカさでいえば、フォレストドラゴンの方がデカい。
「……竜ってスキルが気になるな」
いったいどんな性能なんだろう。
気にはなるが、使ってみてとは言いにくい。
何故なら、絶対にとんでもないスキルに違いないからだ。
「というか、星3なんだな」
思ったよりもレア度が低いことは驚きだ。
まぁモンスターのレア度は種族の中でのレア度なので、フォレストドラゴンは、ドラゴンの中で中級ってことだ。
種族じゃなくて、モンスター全体のレア度でいえば、星4か5レベルなんだろうけどな。
まっ、今はレア度よりも存在感が大事だ。
これでモンスターの襲撃が少しでもなくなればいいのだが……。
――しばらく様子を見ていたのだが、フォレストドラゴンを召喚してから、モンスターの襲撃は嘘のようになくなった。
やはりドラゴンってのは偉大だな。
ってことで、溜まっていた疲れを取るため、俺は個室を召喚し、偵察モンスターが帰ってくるまで、ゆっくりと休むことにした。
****
一晩経って、真っ先に戻ってきたのはデザートトード達、地中探索組だった。
「――そうか。何もなかったか」
「ええ。地中には地響きや異変に関係しそうなモンスターはいなかったそうです」
通訳のティータが答える。
彼女もカードの中で十分な休息が取れたようだ。
「グランドワームのような大物のモンスターはおらず、地響きの原因となりそうなものもなかったそうです」
ってことは、地中は関係なかったってことか。
「モンスターは? 大物はいなかったけど、ちっちゃなモンスターが大量発生とかなかった?」
ああ、それも聞かなくちゃな。
だけど、ナビ子の質問にデザートトードは首を振る。
「大量発生どころか、殆ど見かけることはなかったそうです」
ブラッドワームが口から僅かばかりの魔石を吐き出す。
どうやら遭遇したモンスターはこれだけのようだ。
アーマーアントの魔石
スパイククロウラーの魔石
パラサイトワームの魔石
ブルームマーモットの魔石
ワームイーターの魔石
う~ん。
確かにどれも今回の異変とは関係がなさそうだ。
まぁ地中を移動できるモンスターが手に入ったのは収穫だな。
「うん。ご苦労さん。今日のところは休んで、明日からまた働いてもらうよ」
俺はデザートトード達を労う。
今回は何も見つからなかったけど、次はダンジョンの地中やブルーム山の地中など、まだまだ調査をしてほしい場所はたくさんある。
新しく仲間になったニードルモグラと、今回手に入った地中モンスターにも頑張ってもらおう。
地中探索組の次は、ワイルドホーク達ブルーム山探索組だ。
「――上空から目撃した限りでは、山のモンスターに異変は見当たらなかったようです」
ティータの言葉に俺は驚く。
樹海以上に異変があるだろう山に異変がない?
「見当たらないって……平地に移動しているモンスターとかいなかったのか?」
「ええ。山を下りる気配もなかったそうです」
う~ん。
どういうことだ?
「別に山から毎日モンスターがやって来るわけじゃないんだし、たまたまじゃない?」
そっか。
ケフィアも毎日モンスターが現れるとはいっていない。
というか、毎日現れていたら、隠れて調査どころの話じゃないか。
なら、たった数日で異変が確認できなくてもおかしくないか。
「ちなみに山のモンスターは多かったか?」
これも大事なことだ。
「決して少なくはないようですが、この樹海に比べると異常というほどではないそうです」
ってことは、モンスターが溢れているのは、樹海だけってことか?
「ただ、あくまで上空からの調査ですので、死角になっている場所にモンスターがいる可能性は否定できないそうです」
樹海よりも視界が悪くないとはいえ、岩陰などにモンスターが隠れている可能性は十分にあるらしい。
やはり地上からも調査が必要だな。
最後に報告するのは、樹海を探索していたシャドービー。
「――どうやら、マスターが見つけた洞窟以外の洞窟を見つけたそうです」
「マジか……」
まさか他にもダンジョンがあるとは……
「しかも、そこからモンスターが次々と出てきたそうです」
「えっ!?」
ってことは、そこがモンスターのリポップ地点……今回の異変の中心じゃないのか?
「奥には入ったのか?」
「少し入ったそうですが、かなり奥が深いようだったので、すぐに切り上げたそうです」
もし奥まで調査に行っていたら、まだ帰ってきてなかったかもしれない。
そう考えると、良い判断だったかもな。
「もしかしたら、他にも洞窟があるかもね」
ナビ子が冗談交じりに言う。
「……怖いこと言うなよ」
本当にありそうだ。
「んで、報告は終わったみたいだけど、シュートはどうする?」
最初のダンジョンを探索しているコウモリ達はまだ戻ってきていない。
コウモリ達に関しては、調査を始めたのが他の連中よりも後だったので、仕方がない。
俺が取れる行動としては……現状4択か?
ひとつ目は引き続き樹海の探索をする。
新しいダンジョンが見つかるかもしれないし、選択肢としてはアリだろう。
ふたつ目は樹海の探索を中止してブルーム山へ向かう。
やはり上空から異変が見つからなかったのが気になる。
みっつ目は最初のダンジョンの探索。
よっつ目がシャドービーが見つけた新しいダンジョンの探索だ。
最初のダンジョンはナビ子のスキルが発動できないくらい魔素が溜まっている。
新しいダンジョンは、モンスターがリポップしている可能性が高い。
この中で優先度が高いのは……




