第159話 ケフィアの手紙
「おかえり! ちゃんと返事をもらってきた?」
「クルッポー!」
俺達がダンジョンの入口から戻ってしばらくすると、ウイングダブが戻ってきた。
数時間で街と樹海を往復できるんだから、大したもんだ。
俺はウイングダブの足に結ばれていた手紙を拡げて読み始める。
「何て書いてあんの?」
「……前半は殆どがお小言だな」
出発するときに無視して行ったことを根に持ってたみたいだ。
それから、ウイングダブを伝言役として差し向けるのなら、事前に話しておけと書かれてある。
ケフィアの部屋の窓をつついているウイングダブを見て、かなり驚いたようだ。
まぁ無害とはいえ、知らないモンスターが窓から呼び掛けていたら驚くだろうな。
そんな小言を適度に読み飛ばし、半分が過ぎた辺りでようやく本題に入った。
どうやら、モンスターの種類が増えているわけではないそうだ。
地図に載せていたモンスターは、よく見かけるモンスターや、要注意モンスター。
それから、素材など獲物として価値のあるモンスターだそうだ。
「でも、載ってなかったモンスターも普通にいるっぽいな」
ブルームの名前が付くモンスターなどは、いて当然ってことで書いていない。
また、小動物系などの危険度が低いモンスターも、あえて書く必要がない。
あと、あまり見かけないレアなモンスターも書かないそうだ。
「レアなモンスターは書けばいいのにな」
「書いちゃうと、シュートみたいに見つかるまで帰らないとか、無茶して奥の方まで探しちゃう冒険者がいるからじゃない?」
書くことによって、デメリットの方があるってことか。
ともかく、俺がケフィアに教えたモンスターで、ケフィアが知らなかったモンスターはフォレストドラゴンだけだったみたいだ。
「……フォレストドラゴンに関しての詳細を求むってさ」
ドラゴンの大きさや種類、樹海のどの辺りにいたのか、巣はどんな感じなのか、いたのは1体だけなのか。
どんな些細なことでも全て教えろと書いてあった。
……俺だって知りたいよ。
これ、帰ったら絶対に話すまで逃げられないだろうな。
教えたのは失敗だったか。
俺はドラゴンの部分を飛ばして先を読む。
フォレストドラゴン以外は樹海に生息しているモンスターだから、いてもおかしくないそうだ。
が、普段見つからないようなレアなモンスターがたった1日で、大量に見つかるっていうのは明らかに異常なのだそうだ。
これに関して、最近森に入った冒険者に聞き取り調査したそうだ。
今は日中なので、あまり冒険者はいなかったそうだが、聞き取りできた範囲では、全員が入口付近でいつもより多くのモンスターに遭遇したそうだ。
だが、それに関してギルドに報告した冒険者はいなかった。
理由としては、珍しいモンスターではなかったし、たまたま入口付近にいてラッキーだとしか思わなかったからだそうだ。
そもそも冒険者が樹海に行くのは、冒険のためではなく、モンスターを狩って、お金を稼ぐため。
魔石や素材など、自分達のノルマを達成したら、街へと戻る。
だから、モンスターがいてもラッキーぐらいにしか思わなかったらしい。
「何て言うか……危機管理がなってないよな」
ラッキーで済ますとか、何考えてるんだ?
「でもさ、元々樹海にいたモンスターが入口付近にいただけだったら、別に不思議に思わないんじゃ? これが普段樹海にいない、ゴブリンの群れだったり、オークの群れだったら、絶対に報告してたと思うよ」
「それでも、ノルマを達成できるくらいなんだろ?」
「あのね。シュートみたいに無尽蔵に持てるわけじゃないんだから、ノルマだってたかが知れてるよ」
確かに収納系スキルが無いと、持てる荷物に限りがあるだろうけどさ。
「それでも、森に入って気配察知とかしたら、モンスターの多さに驚くんじゃないか?」
流石に樹海に入るなら、察知系スキルを持つ冒険者がグループに1人はいるはずだ。
ナビ子だってめちゃくちゃモンスターがいるって興奮してたし、モンスターが異常に多いって気づくはずだ。
「シュートはアタイの基準で考えてるかもだけど、アタイは優秀だから数キロ先まで確認できるけど、普通の冒険者のだったら、数百メートル先が限界じゃないかな」
……確かにナビ子基準で考えていた。
数キロと数百じゃ、察知に大きな差がある。
それだと、モンスターの多さに気づかないかもしれないな。
「だから、奥に入らない限り、異変だとは思わないかもね」
「それでもさ、樹海の外――山のモンスターが平地までやって来てるんだから、樹海の入口でモンスターにあったら、平地に出ようとしていたのかもとか関連付けない?」
「それは調査しているアタイ達視点の話だよ。現にあの人だって、最初は樹海を抜けて山の調査をしてくれって言ってたじゃない」
確かに樹海を安全に抜けて山に行くルートを教えるって言ってたもんな。
「そもそもシュートだって、いっぱいモンスターが出たって満足して、異変って考えなかったじゃない」
……それを言われると弱いな。
でも……そっか。確かに異変とは考えないかもしれない。
これ以上、ナビ子に論破されないように、俺は続きを読む。
「え~っと。樹海も異変が起きているようだから、引き続き調査を頼むって……これだけかよ!?」
手紙はこれで終わりだった。
結局、魔素に関しての心当たりとか、樹海の怪しそうな場所とかは何も書かれてなかった。
「書いてないってことは、知らないってことだよ。それに、怪しい場所は見つけたしね」
うう……やっぱりあのダンジョンを探索するしかないのか。




