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第17話 アンブロシア

 次の日。

 前日の筋トレの所為で全身が筋肉痛……なんてことはなかった。


「シュートのことだから、遅れて明日か明後日くらいに筋肉痛になってたりして」


 ナビ子が茶化すように言うが……ありうる。

 俺ももう若くないもんなぁ。


「って、冗談なんだから落ち込まないでよ!!」


 俺がガチ凹みしたからだろうか、ナビ子が慌てて冗談だという。


「いや、冗談になってないような気がして……」


「大丈夫だから!! 筋肉痛がでないのはアタイがちゃんとケアしているからなんだよ!!」


「……ケア?」


 何かされたっけ?


「そう。だって筋肉痛なんかで動けないのは時間の無駄でしょ。だから……シュートが寝ている間にちょちょいっとね」


「ちょちょいって……何したんだ?」


 すごく気になるんだが……


「具体的な方法は教えれないけど、シュートの身体の悪影響になりそうなものだけ取り除いたんだよ。今回は筋トレの苦痛を取り除いたって感じかな」


「……そんなことが出来るのか?」


「うん! アタイはシュートのナビゲーションだからね。シュートのサポートなら任せてよ」


「ちなみに筋肉痛を治す以外で何が出来るんだ?」


「それは教えられないかな。サポートって言っても、それを頼りにしてもらっちゃ困るからね。だから本当は筋肉痛を治したことも話しちゃ駄目だったんだよ!」


 要するに俺がナビ子のサポートを計算に入れて行動しないように秘密ってことか。

 確かにナビ子がサポートしてくれるって言ったら、それに頼ってナビ子なしじゃ生活できない……ってなっても困るもんな。


「分かったよ。ありがとな」


 だからこれ以上は詮索せずに、筋肉痛を治してくれたことだけ素直に感謝した。


「どういたしまして。それよりも、今日はどうすんのさ?」


「うん。今日はアンブロシアを採りに行こうと思うんだ」


 昨日ラビットAが持って帰った星3のアンブロシアはかなり貴重な品のようだ。

 幸いラビットAが場所を知っているのなら、是非とも手に入れたい。


 新しく仲間になったキラービーや3リス達には、昨日のラビットAのように素材やモンスター集めをお願いした。

 3リスはそれぞれの実を、蜂は花や蜜を、それ以外のメンバーにも各特色の素材を集めてもらう。


 それにしても……蜘蛛やらカエルやらミミズやら……

 仮にモンスターテイマーのような冒険者がいたとしても、絶対にテイムしないモンスターだろう。

 俺は一体どこに向かって行ってるのか?

 まぁ強そうなモンスターはこれから仲間にしていけばいいし、今いる仲間もそれぞれ得意分野があるから、きっと役に立ってくれると思う。



 ****


「きゅっきゅきゅっきゅきゅ!」


 ラビットAが実に楽しそうに俺とナビ子を先導する。

 俺と一緒に森を歩くのがそんなに嬉しいのだろうか?

 うん、本当に可愛い。


 しかし……結構山を登るんだな。

 かれこれ1時間は歩いている。

 道中ではキラービーに何回か襲われたが、それも全てラビットAが倒した。

 予想以上にラビットAは優秀なのかもしれない。

 因みに襲ってきたキラービーは既に全部モンスターカードにしてある。

 キラービーは何匹いても問題ないもんな。


 そうやって順調に山登りをしていたが、突然ナビ子が大声を上げた。


「待って! この先……ちょっと危険かも」


「危険って……」


 もしかしてナビ子の危険察知に何か引っかかったのか?


「この先……多分ゴブリンがいる。それも複数……かなり多いわね」


 ナビ子の言葉に息をのむ。


 ――ゴブリン。

 ゲームでは最弱の雑魚モンスターなのだが……


「今のシュートがゴブリンの集団に遭遇したら絶対に死んじゃうわよ」


 そう。

 今の俺は最弱の雑魚モンスターよりもさらに弱い存在だ。

 図鑑の説明文によれば、ベレッタがまぐれ当たりをすれば辛うじて倒せるって感じか。

 だが今回は相手がかなりの人数だという。

 一体ならともかく複数いるなら勝ち目はない。


「ラビットA、アンブロシアはゴブリン達の近くにあるのか?」


「きゅうん……」


 ラビットAは力なく頷く。

 どうやらラビットAはゴブリンがいたことを知っていたらしい。

 なら教えてくれよ……と思わなくもないが、ラビットAは喋れないもんな。


「ちなみにラビットAはゴブリンに勝て……」

「きゅんきゅんきゅん!」


 ラビットAは俺の言葉の途中から全力で首を振る。


「……るわけないよな」

「きゅ」


 まぁそれは分かり切ってたことだ。

 しかし、アンブロシアの近くにゴブリンか。


「もしかしてアンブロシアはゴブリンの食料なのか?」


 それだとゴブリンが食べきってしまう前に、少しでも回収したいんだが。


「普通のゴブリンは肉食だから、果物なんか食べないはずだけど……」


 ナビ子はそれを否定する。

 だけどアンブロシアの近くにいる。

 そこにいるゴブリンが普通じゃないのか、もしくは肉食のゴブリンが食べるくらい美味しいのか?


「きゅぅぅ……」


 ラビットAが何か言いたげなんだが、流石に分からない。


「そういえばラビットAはゴブリンがいるのに、どうやってアンブロシアを持ち帰ったんだ?」


 ゴブリンの目を盗んで採ってきたのか?

 そもそもアンブロシアの場所を知ってるってことは、普段から食べてたのだろうか?


「ラビットAはアンブロシアはいつも食べていたのか?」

「きゅうん」


 ラビットAは首を振る。

 いつもは食べてないと。


「アンブロシアは好きなのか?」

「きゅ」


 今度は肯定。

 どうやら食べたことはあるらしい。

 それに好きだと……でもいつもは食べてない。

 ゴブリンがいるから食べれないんだろうな。


「じゃあ昨日のはゴブリン達の隙をついてアンブロシアを採ってきたのか?」

「きゅぅぅ」


 おや、肯定とも否定とも違う反応だ。

 ラビットAはその場でキョロキョロと辺りを見渡すと、草場にスポッと入る。

 ……少し待つとラビットAがアンブロシアを持って戻ってきた。


「えっ!? ここにアンブロシアがあるのか?」

「きゅうん」


 今度は否定。

 ここにないのに何で持ってきてるんだ?


「なるほど……」


 ナビ子が呟く。

 どうやらナビ子はラビットAが何を言いたいのか気づいたみたいだ。


「ナビ子、分かったんなら教えてくれ」


「あのね。アンブロシアってね。結構高い木の上に実っているんだよ」


 アンブロシアは洋ナシみたいな見た目をしていたから、木の上に実るんだろうなとは思っていた。


「ここからじゃ見えないけど、多分もう少ししたら頭一つ高い木があるから、多分それがアンブロシアの木ね」


「ふむふむ、それで?」


「多分ラビットAが持って来たアンブロシアは風で飛ばされたり、鳥が落としたアンブロシアじゃないかしら?」

「きゅきゅ!」


 どうやら正解らしい。

 今貰ったアンブロシアを確認する。

 ……確かに地面に叩きつけられて少し傷んでいるように見える。

 昨日のもそうだったような……それでも星3の性能なのか。


「まぁそう何個も落ちていないでしょうけど……ラビットAは嗅覚のスキルを持っているからね。鼻が利くんでしょ」


 なるほど。

 こういうところで嗅覚のスキルが発揮するのか。


「多分ゴブリン達は、アンブロシアを狙ってきた動物やモンスターを待ち構えてるんじゃないかしら」

「きゅきゅ!」


 大正解のようだ。

 そっか、自分たちはアンブロシアを食べないけど、それを狙っているのを狙っているのか。


 ラビットAもアンブロシアは好物のようだし、おそらく草食系のモンスターの殆どが好物なんじゃなかろうか?

 そしてラビットAのように嗅覚のスキルがないと、アンブロシアを食べようと思ったら、木の下に行くしかない。

 貴重な果実なので、もしかしたら人間も採りに来るのかもしれない。

 ……今の俺のように。


 それをゴブリン達が待ち構えているのか。


「……ってことは、俺達は格好の標的ってことか」


「そういうことね。どうするの?」


 どうするって……普通に戦っても勝てないのに、相手は準備万端で待ち構えている。

 それでどうしろというんだ。


「仕方がない。一旦戻るか」


 俺は対策を立てるために一旦帰還した。

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