第158話 モグラとツグミ
「よし、これで一応全部図鑑に登録したな」
ウイングダブが帰ってくるまで数時間はかかる。
その間、フォレストドラゴンに驚いて途中だったナビ子の戦利品整理を再開していた。
最終的に、樹海に入ってから手に入れた新規モンスターは100種を超えた。
樹海に入る前が100種ちょっとだったから、種類だけで倍は増えたことになる。
これ……管理するだけでも大変だなぁ。
「まさか、また図鑑眺めを始めないよね?」
「……当たり前だろ」
流石にそれをしたら、反省しなさすぎる。
それに、この後もブルーム山のモンスターも増えることだし、依頼が終わって、モンスターにするべきだ。
「でも今回の調査に役立ちそうなモンスターは教えてくれないか?」
「あっ、そうだね。この子とこの子はモンスターにしていいかも」
ナビ子が図鑑の名前を指しながら言う。
「ニードルモグラにセンダンツグミ?」
名前から察するに……ニードルモグラはその名の通りモグラだろう。
ニードルってことは、ヤマアラシみたいに体毛が針なのかな?
センダンツグミの方は……こっちもツグミだから小鳥かな。
「ニードルモグラは地面を移動していたから、デザートトードのサポートに向いてると思うの」
なるほど。地中移動タイプか。
確かに役に立ちそうだ。
「センダンツグミは小鳥のモンスターなの。詳細は分からないけど、ウチはおっきな鳥ばっかりだから、小鳥は役に立つと思うの」
ふむ。確かに小さくて空を飛ぶモンスターも役に……
「あれっ? それってフェアリーやピクシーで代用できないか?」
空を飛ぶ小さいモンスターなら、妖精達で十分だ。
「えっ? えっと……その……」
ナビ子の歯切れが悪い。
別の理由がありそうだ。
「あのね。センダンツグミもアタイが倒したから……」
そういうことか。
役に立つとかじゃなくて、自分が倒したモンスターを出したかっただけか。
まぁ気持ちは分からんでもないし、声を発することができるモンスターは貴重だから、全く問題ない。
「他にナビ子が倒したモンスターはいないのか?」
ちなみに俺は一切倒してない。
「う~。アタイも敵意のなさそうなモンスターしか倒せないから」
どうやらウイングダブとセンダンツグミだけのようだ。
とりあえず、俺はニードルモグラとセンダンツグミの死体を分解して、魔石をモンスターカードにする。
――――
ニードルモグラ
レア度:☆☆
固有スキル:地中移動、再生
個別スキル:硬質化
モグラ系モンスター。
外敵から身を守るために、全身の体毛が針のように鋭くなっている。
針が突き刺さると、なかなか抜けない。
――――
やはり想像した通り、トゲトゲのモグラだった。
「あのね。針は防御だけじゃなく、矢のように飛ばすことも出来るの。その針が油断したラビットAに刺さってね~。威力はそこまでないんだけど、なかなか抜けなくて、ラビットAがきゅわ~んって泣いて大変だったの」
……確かにそれは大変そうだ。
「結局、インセクトクイーンが引っこ抜いたんだけどね。針の扱いは得意みたい」
今は昆虫女王だけど、元は蜂の女王だもんな。
種類は違っても、針の扱いは手慣れているか。
ちなみにインセクトクイーンは、ナビ子と合流した時点で姿が見えなかったが、夜になった時点でナビ子が返還でカードに戻したらしい。
ずっと働き詰めだったから、お疲れだったようだ。
ニードルモグラには、デザートトードに合流して地中探索に加わってもらう。
元からこの場所に棲んでいたのだから、怪しい場所も知っているかもしれない。
――――
センダンツグミ
レア度:☆
固有スキル:収納(小)、木の実サーチ
バード系下級モンスター。
センダンの実だけ食べるため、そう名付けられた。
――――
……3リスの小鳥バージョンかな?
「センダンの実ってなんだ?」
リコとかチコとかと同じようにレアな実なのかな?
「センダンの木は日本でもありふれた普通の木だよ。実は……人間には食べられないかな」
俺が知らないだけで、普通の木なのか……。
あっ、だからレア度がリスと違い、星1なのかな?
う~ん。この子には悪いけど、特別な木じゃないってことは、あまり役に立たないかな。
「この子とダブは、アタイのペットにするから戦わなくてもいいの!」
自分が倒したモンスターだからか、ウイングダブとセンダンツグミは自分のものだと主張するようだ。
……まぁ図鑑に登録してあるし、今回のウイングダブのように、必要があれば借りればいいだけ。
それに、ナビ子にも自由に使えるモンスターがいてもいいだろう。
「じゃあカードを無くさないように気をつけろよ」
「うん! ありがとシュート! よろしくね。つぐみん」
「クィ!」
センダンツグミが小さく鳴く。
……つぐみん。
「じゃあ、つぐみん。この辺りで魔素が溜まっている怪しい場所を知らない?」
「クィクィ!」
センダンツグミが大きく羽ばたかせながら鳴く。
……なんて言っているか分からないが、否定しているようには見えない。
「えっ!? もしかして本当に知ってるの? 知ってるなら右に、知らないなら左に移動してよ」
ナビ子も驚いたのか、ルールを決めてもう一度質問する。
センダンツグミは肯定の右へ移動する。
まさか、怪しい場所を知っているとか……聞いてみるものだな。
****
「ここか……」
あの場所から比較的近いということだったので、案内してもらった。
やって来たのは洞穴の入口。
奥が深そうな……ダンジョンだ。
「こんなとこがあったんだ……アタイも気づかなかったよ」
「ナビ子の気配察知でも分からなかったのか?」
「うん。何だかこの辺りにジャミングみたいなのがあるみたいで、スキルでうまく察知できないの」
「誰かがスキルを使ってるってこと?」
「ううん。断言はできないけど、多分違うと思う。人為的な妨害なら、もっとしっかり隠していると思うんだ。でも、ここはあんまり隠している雰囲気じゃないし……単純に魔素濃度が高くて、狂っているだけだと思う」
この場所自体が察知系スキルを妨害しているってことか。
「アタイでも無理だから、洞窟内では察知系スキルは全滅かも。ううん、それだけじゃなく、魔法や魔力を使うスキルは扱いづらいかも」
魔素が多いから、魔法が暴発したり、察知系と同じようにスキルが狂うそうだ。
「中に入るのは……正直危険かもしれないよ」
中にどんなモンスターが待ち受けているのか。
罠があるのか。
スキルが使えない状態で探索するのは危険すぎる……か。
流石にその状態で探索する勇気は俺にはない。
が、調査しないわけにもいかない。
「こんな時こそ、アイツらの出番だな」
洞窟の探索ならやっぱりコウモリだろう。
俺はワイルドバット、ジャイアントバット、バンパイアバット、ヒュプノスバットのコウモリ系モンスターを召喚する。
「いいか。中の情報を可能な限り正確に調べて来てくれ」
俺は洞窟内に解き放った。
これで少しでも何か分かればいいけど。




