第156話 樹海の異変
「お、おいナビ子。ど、ドラゴンって……」
今回の最重要モンスターじゃないのか!?
何で倒しちゃってんの!?
「シュート落ち着いて。それ、ドラゴン違いだから」
「えっ? ドラゴン違い?」
「そう。だってここは樹海でしょ。火山じゃないもん」
確かにそうだけど……
「火山にいたドラゴンがここまで来ていた……って、わけじゃないか」
言いながら違うことに気がついた。
だって名前がフォレストドラゴンだ。
間違いなく樹海に棲んでいたドラゴンだろう。
「そゆこと。ちなみにドラゴンの見た目も、話に聞いていたのと全然違ったよ」
ナビ子によると、フォレストドラゴンはステゴサウルスのような剣竜類タイプだったようだ。
「すっごく大きかったんだよ。アタイ達も最初はモンスターじゃなく、苔の生えた大岩かと思ったもん」
ナビ子は思い出して興奮しているみたいだ。
手を大きく広げて大きさを表現する。
「倒すのも大変だったんだよ。ホブAやオベロンを出したのも、フォレストドラゴンを倒すためだもん」
「……ハンババのためじゃなかったのか」
「さっきのハンババは、フォレストドラゴンを倒した後にやって来た普通の敵だよ。シュートに追いつかれる前に、大物のフォレストドラゴンを退治しようと思って、ハンババの巣を無視してここまで来たんだけど、フォレストドラゴンとの戦いで気づかれちゃったみたい」
ってことは、ここでハンババと戦っていたけど、本当はここはフォレストドラゴンの巣で、ハンババの巣はもっと手前だったのか。
貰った地図によると、この樹海のボスはハンババだったようだが……ブルームの街の冒険者達は、ハンババに防がれて、ここまで来れてなかっただけのようだ。
「でね。フォレストドラゴンはね、ホブAの攻撃が全然効かないくらい堅いし、ラビットAやティータの魔法でもすぐに回復しちゃうくらい再生力もあってね……どしたの?」
俺の表情を見てナビ子が尋ねる。
きっと俺は不服そうな顔をしていたに違いない。
「ナビ子。やっぱりさっきのはなしで、怒っていいか?」
「えええっ!? なんでさ!」
「何でって……言わないと分からないか?」
コクンと頷くナビ子。
「じゃあ、初めて日本から帰ってきたときの自分の言葉を思い出せ」
まだ山に住んでいた頃だ。
ナビ子がいない間に驚かせようと合成しまくって、ナビ子に怒られたっけ。
俺の今の心境はまさにそれだ。
楽しそうに話しやがって……大物で手柄を取ろうとするのは分かるけど、俺だって参加したかったよ。
その上、そんなに楽しそうに話されたら……こりゃあ怒りたくもなるってもんだ。
これでナビ子が気づかなければ、本当に怒ろうかと思ったが、ちゃんとナビ子も思い至ったようだ。
「そういえばアタイが驚くよりも一緒に楽しみたいって言ったんだったね。シュート、本当にごめんね」
「まぁ、これもあの時とお相子ってことでいいさ。それに……どっちみち報告自体は聞く必要があるし」
「そうだね。えっと……フォレストドラゴンが火山のドラゴンと関係ないって話だよね」
「ああ。種族が違うから、別のドラゴンということは分かったが……こんな近場にドラゴンが何匹もいるものなのか?」
もしかして、俺が思っているよりも、ドラゴンってありふれているモンスターなのか?
「ここはドラゴンが発生する条件が揃っているの」
「ドラゴンが発生する条件って?」
「えとね。モンスターが発生する条件は、魔素って話はしたよね?」
「ああ。魔素が一定値を超えたらモンスターがリポップするんだろ」
「うん。それで、生まれるモンスターは土地柄にあったモンスターなの」
「……この場所がドラゴンの土地柄に合ってるのか?」
「その前に、魔素の補足をするね。例えば、一定値の基準を100とするね。んで、魔素が101になったら、溢れた1の分、モンスターが生まれるの」
「それは分かる」
「んじゃあ次ね。モンスターは生きてるだけで魔素を消費するの」
「それも知っている。体内にある魔石が魔素を必要としているからだろ」
「そう。だから、魔素を101にしようとしても、モンスターがいたら、魔素が溜まらなくって、いつまでたっても101にならないの。魔素の生成と消費を考えると、通常は80くらいを維持し続けるのが普通だよ」
今回は俺達が倒しまくったから、魔素の消費が少なくなっただろう。
だから、しばらくすると、魔素が溜まって、モンスターがリポップする。
そういう仕組のはずだ。
「でもね。この樹海はそこが変なの」
「どう変なんだ?」
「明らかにモンスターの数が多いの。シュートだっていっぱい倒したんでしょ」
「倒したのはタム・リンがだけど……でも、確かに結構たくさんのモンスターと戦った」
「アタイ達もいっぱい倒したけど……こんだけモンスターが多いと魔素の消費も半端ないはずなの。それに、強いモンスターは魔素の消費も多いし……なのに、魔素が無くなってないの。これがどういうことか分かる?」
「単純に、消費と同じくらい、魔素が生成されてるってことじゃないのか?」
さっきの基準で考えると、生成も消費も200って考えればいいだけだろ。
プラマイ0だから、ちゃんと維持できている。
「そうなんだけど……問題はどうやって魔素が生成されているかだよ。これだけの魔素を生み出すのは自然の力だけじゃ無理だと思う」
「自然じゃ無理ってことは、もしかして人工的ってこと?」
「もしくは偶然の産物だね。方法はアタイにも分からないよ。でも、このことは今回の異変となにか関係があると思う」
「魔素が地響きと関係があるかもってこと?」
「地響きよりも噴火の方だね。あの人も言ってたでしょ。ドラゴンが火山エネルギーを食べて噴火を抑えてるって。噴火エネルギーに魔素は必要不可欠だから、魔素が増えることで、ドラゴンが消費できないくらいの噴火エネルギーになったのかも」
「じゃあ、とりあえず魔素が生成されている出処を探すのがよさそうだな」
うん。なんとなく調査の方向性は決まったかな。




