第155話 ナビ子の戦利品
「きゅインドカッター!」
ラビットAのステッキから風の刃が放たれ、ハンババの首が落ちる。
「きゅきゅ!」
そして、ステッキをクルリと1回転させた後にビシッと決めポーズ。
うん、かわいい。
ラビットAだけじゃなく、ティータの方も既に終わっている。
毒のブレスをオベロンがガードしている間に、ティータがサフォケイトの魔法を唱えていた。
毒のブレスを吐いていたのに、空気がなくなったから、すぐに酸欠で苦しみながら絶命した。
毒魔法じゃないのに、毒以上に体に悪いんだから、反則だよな。
今はティータがオベロンに話しかけている。
少なくとも、ここから見る感じでは、ティータの方が立場は上のようだ。
召喚主だからか、元からなのか。
本物のティターニアとオベロンは夫婦のはずだが、この2人は何か関係があるのかな?
そして、一番苦戦していたホブAも何とか勝てたようだ。
まぁホブAも苦戦というより、攻撃するタイミングを見計らっていただけのようだった。
ハンババが攻撃の手を止めた隙をついて、剣で一刀両断にした。
「アタイ、3人を呼んでくるついでに、カードにしてくるね」
そう言って、ナビ子はラビットA達の元へ向かっていった。
ナビ子がいなくなったタイミングでメーブが俺に小声で話す。
「主……先程の話ですが、全てを鵜呑みになさらぬよう」
「どういうことだ? ナビ子が嘘をついてると?」
そういえば、さっきのナビ子の説明とメーブに聞いた話とでは、大筋は同じでも、印象が随分違う。
「嘘ではありませんが、ナビ子どのは自分が悪くないように、リーダーを陥れて印象を操作しております」
メーブはやはり、ラビットAよりもナビ子の方が悪いと思っているようだ。
確かにさっきの話はナビ子に都合がよすぎる。
誤魔化しはナビ子の十八番だし、幾分か盛っていると思う。
だけど、メーブもナビ子には含みがあるようだし、ラビットAが傍若無人なのは今に始まったことじゃないからなぁ。
「まっ、今回は全員が悪かったってことで、お咎め無しにしよう」
本当はラビットAにニンジン抜きの罰を与えるつもりだったが、それも止めてやろう。
「……主は本当に甘いんですから。優しいのは主の美点ですが、上に立つものは、少し厳しい方がよろしいですよ」
「ははっ、肝に命じておくよ」
俺は軽い口調で答える。
上とか下とか……もっと気軽に考えればいいのにね。
****
「きゅきゅ!」
ラビットAが駆け足でやって来て、俺に抱きつく。
「きゅート、ごめんなさい」
珍しくラビットAから謝ってくる。
ナビ子に何か言われたかな?
「別にいいよ。だけど、次同じことしたら、1ヶ月ニンジン抜きだからな」
「きゅぴぇ!? もーぜったいしない!」
よしよし。やっぱりニンジンは効果絶大だな。
まぁ調子に乗るとすぐに忘れるだろうが……少なくとも、しばらくは大人しいだろう。
「そんなことより……あ~もう、せっかくの可愛い衣装が台無しじゃないか」
「きゅぅぅ……」
樹海をひたすら歩き続けた上に、モンスターとも戦って、魔女っ子ワンピースがボロボロだ。
まぁカードに戻れば、ちゃんと新品状態まで戻るけど。
「ほれ。どうせ、しばらくここから動かないから、カードの中で休んどけ」
「きゅ……」
俺がそう言うと、ラビットAは大人しく頷く。
実はかなり疲れているのかもしれないな。
それに、ここから動かないのも事実だ。
元々デザートトードやワイルドホーク、シャドービーが帰ってくる3日間で樹海を探索しようと思っていた。
でも、図らずも今いるこの場所は、樹海のボスであるハンババがいた場所。
つまり樹海の中心とも言える場所だと思う。
わずか1日でここまで来たのなら、残る2日はここを拠点に探索すればいい。
とりあえず、ラビットAや疲れている仲間は休ませて、次の探索に備えて欲しい。
というか、俺だって歩きっぱなしだったから、多少は疲れている。
「きゅやすみなさい」
俺はラビットAをカードに戻す。
後は……ティータも出ずっぱりだな。
「ティータはどうする? ……ついでにそのオベロンも」
「正直申しますと、わたくしも殆ど魔力が残っておりませんので、休ませていただきたいと思っております。この人は……弾除けにでも使って頂ければと」
最初からずっといる上に、召喚まで使っているんだから、魔力切れを起こして当然だ。
にしても、オベロンを弾除けって……扱いひどくない?
と、そういえばオベロンを登録してなかった。
登録だけはしておかないと。
――――
妖精王オベロン
????×????
……
――――
やはり登録は出来ても、レシピまでは不明か。
だけど、ティータやメーブのことを考えると、王の素質みたいなスキルと男性妖精って感じかな。
スキルさえ手に入れば、全く予想がつかないタム・リンよりは作りやすそうだ。
「主。妾も魔力を使いすぎたので、休ませていただきとうございます」
メーブもタム・リン召喚で魔力を半分消費しているから、休みたい気持ちはわかるが……メーブまでいなくなると通訳もいなくなる。
あっ、いやホブAがいるな。
2人に比べると喋りは得意ではないが、話せないことはない。
「そっか……分かった」
ってことで、メーブにもカードに戻ってもらうことにした。
「ティータと同じく、タム・リンは残しておきますゆえ、こき使って下さい」
タム・リンは召喚時に説明があったように、半日は持つそうだ。
合流するまでに数時間要したけど、まだ数時間はいるはずだ。
タム・リンの強さは移動中に十分見せてもらったので、護衛として頑張ってもらおう。
最終的にはホブAとミストだけが残ることになった。
ミストはまだ元気だし、ホブAもまだまだやれそうだ。
「ボス。そこの御仁に稽古をつけてもらってもいいゴブか?」
ホブAがタム・リンを横目に俺に確認を取る。
「見張りの仕事も忘れずにこなすんだったら、許可する」
まぁナビ子もいるし、モンスターの襲撃は問題ないだろう。
2人はさっきまでハンババと戦っていた場所まで移動し、模擬戦を開始する。
ミストは2人が無茶をしないように近くで見守っている。
結局まともに見張りをしているのはオベロンだけか。
まぁいいけど。
「さてナビ子。カードを見せてもらおうか」
ハンババ以外にも、ここに来るまでにたんまりカードを手に入れているはずだ。
「分解はしてないから、死体ばっかだけど……」
そう言いながら、ナビ子はさっきのハンババのカード3枚と、別途1枚のカードを取り出す。
ナビ子がそのカードを解放すると……カードの束が出てきた。
「……もしかして、カードをカード化したのか?」
「うん。そうだよ」
そんな事ができたのか。
って、死体を合わせて1枚のカードに出来るんだから、カードの束だってカードに出来るか。
まぁ俺には図鑑があるから、ほとんど使うことはないか。
「はい、これ」
俺はカードを受け取り、1枚ずつ図鑑に挟んでいく。
キラーカマーの死体
グリズリーの死体
グリポンの死体
コカトリスの死体
サンドマンの死体
ツリーマンの死体
バルーンフェアリーの死体
マンティコアの死体
ラフレシアの死体
なんか気になるモンスターばかりだな。
グリポンって……グリフォンとは違う生き物なのかな?
それにコカトリスとか、マンティコアとか……実際に生きている状態で見てみたかったな。
この後も1枚1枚確認しながら図鑑へ挟んでいく。
「えっ……」
そのカードが見えた時、俺は思わず固まってしまった。
そのカードにはフォレストドラゴンの死体と書かれていた。




