第154話 ナビ子の言い訳
「シュート……えとね、あのね」
ナビ子が何か言おうとするが、言葉にできない。
「お前……俺から逃げようとしただろ?」
ハンババのせいで失敗したみたいだけど。
「だって……シュート絶対に怒ってるもん」
「怒るようなことをするからだろ」
「だって……」
ナビ子がまた口ごもる。
……ったく。そんなに怯えるんだったら、最初からしなければいいのに。
「あのね! アタイは仕方ないけど、ラビットAとティータは怒らないであげてほしいの。あの2人はアタイが連れ出しただけだから……」
そして、2人は悪くないって。
本当に……
「あーもう。別に怒る気はないから安心しろ!!」
俺がそう言うと、ナビ子が目を大きく見開いて驚く。
「……怒ってないの?」
「正直言いたいことはあるが、別にそんなに怒ってない。それに……俺も一人で集中して悪かった。だからお互い様だ」
俺はそう言いながらナビ子に手を差し出す。
ナビ子は一瞬戸惑ったようだが、すぐに大喜びで俺の手に掴まる。
「うん。アタイもごめんなさい。ちょっと調子にのり過ぎちゃった」
「んで。何でここまで無茶したんだ?」
「あのね。最初は50メートル以内のモンスターを倒してたの。だけど、ラビットAが魔法ですぐに全滅させちゃって……」
そういえば、爆発音がうるさいから静寂のスキルを使ったんだった。
あんな激しい音を立ててたら、そりゃあ周囲のモンスターは全滅だろうよ。
「んでね。シュートに先に行こうよって言ったんだけど、シュートが集中して聞いてなかったの」
聞いてないというか、多分スキルで聞こえてなかったんだな。
……いや、スキルがなくても聞こえてなかったかもしれない。
「それでね。シュートにナビ子キックを食らわせて、目を覚まさせようか考えたけど……コレクションをイジっているシュートには何をしても無駄だと思ったの」
……否定できない。
それどころか、邪魔をするなってキレた可能性もある。
「だから、仕方なくシュートが落ち着くのを待ってたんだけど……しばらくすると、ラビットAが暇だから1人で先に行くって言い出したの」
発端はあの馬鹿ウサギか。
「まぁラビットAなら1人でも大丈夫だろうけど、逆にこっちはアタイと無防備なシュート。それからティータだけになっちゃうでしょ。この辺りのモンスターは倒したけど、何が起こるかわからないから、ちょっと不安だったの」
まぁ確かにナビ子の気持ちは分かる。
「そこで、メーブとミストを呼び出すことにしたの。彼女たちなら、戦力として申し分ないし、図鑑じゃなくて、シュートのポシェットに入っていたからね。シュートにお願いしなくても、召喚することができたの」
「その時透明になってたって聞いたけど?」
「透明というより不可視のスキルだね。いくら集中しているっていっても、ポシェットを漁ればシュートに気づかれると思ったの」
「何でそこだけ気づかれないようにしてるんだよ」
「だって、ゴソゴソしてたら、邪魔するなって怒りそうじゃない?」
まぁさっきも思ったが、邪魔するなって怒ったと思う。
「でも、勝手に持ち出した方が怒るっての」
「後から思えばそうなんだけどさ。でもあの時は、アタイはここに残るつもりだったの。アタイが残っていれば、シュートに気づかれてもちゃんと説明できるでしょ」
「なのに、ラビットAと出掛けたのか」
「うん。……メーブとミストを取り出す時に、アタイの本体のカードが見えちゃったから」
「本体を持って移動すれば、俺から離れられると思ったんだな」
「そう。ラビットAじゃないけど、アタイも暇だったからさ。少しだけラビットAと一緒に出掛けようと思ったの。だから、メーブとミストに伝言を頼んだの」
「正直に言うと、メーブに伝言を頼んでなきゃ、本気でぶちギレてたかもしれんぞ」
ナビ子が裏切るとは思ってないけど、運営の息がかかっている可能性はあるからな。
だけど、メーブに伝言を頼んでいるから、運営の線はなくなった。
「アタイだって、シュートのコレクションを無断で持ち歩くほど命知らずじゃないよ。だからメーブにしっかり伝言を頼んだし、本当はすぐに戻ってくるつもりだったんだよ」
「じゃあどうして戻ってこなかった?」
「ラビットAがアタイやティータが止めるのを無視して、どんどん先に行っちゃうんだよ。気づいたら、かなり遠くなってて……」
ここでもあの馬鹿ウサギか。
「それでも、今ならまだあんまり怒られないんじゃないかなって思って、引き返す予定だったの。でも、ラビットAがどうせ戻っても怒られるだけだから、いっそのことカードをいっぱい集めれば、許してくれるんじゃないかって言ったの」
「…………それで?」
「その時はなるほどと思ったし、知らないモンスターがいっぱいだったから、アタイも楽しかったの」
そりゃあ楽しかっただろうな。
……俺も見たかったよ。
「そういうわけで、戻らずにそのまま進むことにしたの。それからしばらくしたら、シュートが気づいてこっちに向かってきたのが分かったの。それで、あっこれ絶対にヤバイやつだって気づいたの」
「だから逃げたのか?」
「逃げたと言うより、近くに大物の気配がしたから、この大物を持って帰ればシュートの印象も少しは良くなるって……ラビットAが言ったの」
「よく分かった」
つまり全ての元凶はあの馬鹿ウサギってことだ。
今はその大物と戦っているから、終わったら説教だな。
あっ、でも怒らないって約束しちゃったな。
……まぁいいや。
「ちなみに、ここまでのモンスターの死体は?」
道中死体がなかったから、ナビ子が代理人スキルでカードにしたとは思うけど……
「もちろん全部カードにしてあるよ。じゃないとシュートに怒られるもん」
「本当に代理人スキルって便利だな」
「うん。レベルが上ってから、本当に便利になったよ! シュートも問題なくスキルを使えたでしょ?」
「ああ。登録もちゃんと使えた」
ナビ子の代理人スキルは便利だけど、スキルを借りると元々の所持者がスキルを使えなくなるという欠点があった。
だけど、スキルレベルが上がることにより、スキルレベル1の能力だけなら、所持者もナビ子も同時に使えるようになった。
だから、ナビ子は変化、解放、返還、解除の基本能力は、いつでも使えるようになっている。
もちろんナビ子は勝手にカードを消費するような真似はしない。
カードを消費せずにすむモンスターカードの解放か、カードにする変化しか使わない。
合成や分解など、それ以上の能力を使いたい場合は、俺が絶対に使用しない、意識のない場合……つまり寝ている場合のみ許可している。
「カードは後で確認させてもらうよ。今は……3人の戦いを見守ろう」
おそらくもうすぐ決着が付くだろう。
俺とナビ子はラビットA達の戦いを見届けることにした。




