第153話 ナビ子を追いかけて
ナビ子達に追いつくためにペースを上げて、さらに2時間が経過した。
変わらずに同じペースで移動できることに、自分でも驚きだ。
しかも、モンスターの襲撃率が驚くほど少なくなっていた。
多分、先にこの道を通ったナビ子達が倒して、時間が経っていないのだろう。
追加のモンスターが現れる前だってことは、かなり近づいている気がする。
「主。ティータの動きが慌ただしくなっております。どうやらナビ子どのもこちらが近づいているのに気づいているようです」
5キロくらいの距離なら、ナビ子なら気配察知で最初から気づいているだろうがな。
でも、合流が現実的な距離に近づいたってことかな。
「向こうからこっちに近づいて来たりはしないのか?」
「それどころか、慌てて逃げようとしております」
「なんでだよ!?」
思わず叫んでしまう。
ってか、逃げる意味が分からない。
「おそらくナビ子どのは、主に会うのが怖いのではないでしょうか?」
「はぁ? 何で怖がっているんだ?」
意味が分からない。
「今回のナビ子どのの行動は、少々逸脱した行為のように思われます」
言葉は丁寧だが、メーブの口調には少しトゲがあった。
「……もしかして怒ってる?」
「当たり前です! いくら妾とミストどのを護衛に付けたとはいえ、ナビゲーターが許可なく主の元を離れるなど言語道断。あまつさえ、主が最も大切にしているコレクションを持ち出すなどと……万死に値します!」
うわ~。めっちゃキレてる。
「主も主です。何故このような愚行をお許しになるのですか!」
あっ、こっちに飛び火した。
「いや、今回は流石に俺も時と場所を考えるべきだったと、反省する部分が多くてだな」
流石に樹海でコレクション鑑賞はやり過ぎた。
思えばこれも、ナビ子やラビットAがいるからと、安心しきっていたせいだ。
「まぁ逃げるってことはナビ子も負い目を感じてるんだろうし、ちゃんと話してみるよ」
「お願いします。そうでないと、妾達は今回のように、意にそぐわないこともしなくてはなりません」
「どういうことだ? 別に嫌なら断ればいいだけだろ」
「序列で言えば、主の次がナビ子どのとなります。主の命令がなければ、ナビ子どのの命令に逆らうわけには参りません」
「別に俺の命令もナビ子の命令も、気に入らなければ聞く必要はないぞ」
「主の命令を気に入らないなどありえません!」
……コイツらの中で、俺はどれだけ神格化されているんだろうか。
正直俺は命令とか主従関係よりも、仲間とか家族とかになりたいんだけど……難しいよな。
****
「主。そろそろティータと合流しそうです」
「本当!? 逃げてるんじゃなかったのか?」
「その様子でしたが、どうやら強敵と戦っているようでして」
強敵……。
「苦戦しているのか?」
「申し訳ございません。妾では、そこまでは分かりません」
「いや、それだけ分かれば十分だ。邪魔にならないように近づこう。タム・リンをいつでも援護にいけるようにしといてくれ」
「畏まりました」
気配察知で俺たちの位置はバレているだろうが、戦っている最中に気が散ったらまずいので、出来るだけ隠れて近づく。
……少し先から戦闘音が聞こえてきた。
獣の叫び声に、金属のぶつかる音。
ナビ子達に金属音のするような心当たりはない。
いったいどんな戦いをしているんだ?
「主……あそこ」
メーブが指した方向にはティータがいた。
隣には見たことのない妖精の姿もある。
「オベロン王……」
「オベロン!?」
メーブの呟きに思わず声を張り上げる。
しまった……と、思ったときにはもう遅い。
ティータに気づかれてしまった。
「マスター!!」
「えっ!? シュート!?」
「きゅきゅっ!?」
「ゴガっ!!」
別の場所からナビ子とラビットA。それからホブAの声も聞こえてきた。
俺が声の下のした方向を振り向くと……
「げぇ!? 本当にシュートだ」
心底驚いた様子のナビ子。
ラビットAとホブAは、こちらを振り向かず、モンスターと戦っていた。
モンスターは3体。
牛――バッファローのような体で二足歩行のモンスターだ。
ホブAとラビットAで2体。
ティータとオベロンらしき妖精が1体を相手にしていた。
「あのモンスターは?」
モンスターはこちらに来る様子はないので、登録で確認してみる。
牛系の二足歩行モンスターと言えば、ミノタウロスが定番だが……
――――
ハンババ
????×????
――――
これがハンババか!
地図によると、この樹海のボスっぽいが……3体もいるのか。
戦闘を見てみると、ハンババの攻撃方法は爪と角。
クマのようなゴツい腕と硬そうな爪。
力任せに振り回した腕をホブAの盾が受け止める。
「ゴグ……」
ホブAはなんとかその場に踏みとどまるが、ゴブリンジェンラルのホブAじゃなかったら、簡単に吹き飛ばされそうだ。
ハンババは巨体の割に素早いようで、ホブAは防戦一方で、中々攻撃ができないようだ。
「主。タム・リンを行かせましょうか?」
「……いや。ホブAに任せよう」
今助けると、ホブAのプライドを傷つけそうだ。
だから、ナビ子も何もしないんだろう。
そしてラビットAは……。
「きゅきゅ!」
ハンババ攻撃を器用に避けていた。
うん。こっちは心配なさそうだ。
すぐに片付けないのは、ホブAを気遣ってか。
そしてティータとオベロンは……
「なぁ、あれって本当にオベロンなのか?」
「ええ。ティータの妖精王召喚のスキルで呼び出したのでしょう」
確かに妖精だし、男だし、それっぽい服装もしているが……なんというか、タム・リンのようにイケメンでもなければ、ティータやメーブのような王の品格ってのも感じられない。
「なんというか……普通の妖精だった」
同じ召喚スキルでも、タム・リンとオベロンじゃこうも違うのか。
と、そこにハンババが口からブレスを吐き出す。
紫色の……まさに毒ガスって感じのブレスだ。
だが、ハンババのブレスは、見えない壁にぶち当たったかのように、ティータとオベロンの目の前で分散する。
「あれはオベロンの魔法ですね。ああ見えてオベロンは防御魔法の使い手です」
なるほど。
オベロンは補助魔法の使い手なのか。
そしてティータが攻撃魔法で仕留める……と。
うん、このチームも大丈夫そうだな。
苦戦しているのはホブAだけ。
そのホブAも決して負けてはいないから……戦いが終わるのは時間の問題だろう。
一安心した俺は、どうしていいか分からず、オロオロしているナビ子の元へと向かった。




