第151話 妖精騎士
俺は急いでナビ子を追いかけることにした。
「メーブ。ナビ子達はどのくらい先にいるんだ?」
「このまま真っ直ぐ……5キロほど先でしょうか」
5キロ先か。
かなり進んでいるな。
平地なら1時間も掛からないが、足場も視界も悪い夜の樹海だと、どれくらい時間が掛かるか。
しかも、ナビ子も止まっているわけでなく、どんどん先に進んでいるそうだ。
ったく。夜くらい行動を控えろって話だ。
ちなみにポシェットに入れていた、よく使うモンスターカードとして、ホブAなどの古参……じゃなくて、幹部だったな。
幹部のカードも結構持っていかれた。
残っているのは図鑑に入れていたカードだけ。
「主。夜のモンスターは凶暴と聞きます。お気をつけ下さい」
ナビ子達がモンスターを倒しながら進んでいるんだから、同じ場所を進んでいたらモンスターは出てこない……って言いたいが、ナビ子達が行ったのは何時間も前。
しかも、昼間の移動で、今は夜。
出現するモンスターも、夜行性のモンスターへと変わっている。
移動中はモンスターの襲撃を受けると考えた方が良さそうだ。
そしてメーブの言う通り、夜行性のモンスターは危険ってイメージがある。
気配察知のスキルを持つナビ子がいなくて、暗くて視界も悪いから、油断していたらモンスターに奇襲を受けてしまうだろう。
う~ん。
改めてナビ子に頼りっきりだったと実感する。
とりあえず、図鑑からダークネスアウルとナイトホークを召喚する。
2羽ならスキルの夜目があるから、夜でもハッキリと敵を捉えることができる。
ついでに気配察知のスキルを覚えさせ、周囲を探らせれば、モンスターから奇襲を受けることはないだろう。
それから、戦闘要員がメーブとミストだけじゃ少し不安だな。
人数的にはラビットAとティータだった昼と変わらないんだが……なんのかんの言っても、ラビットAって戦力的には頼りになるんだよなぁ。
う~ん。誰を呼び出すか。
樹海ってことを考えると、蜘蛛系のアラクネか土蜘蛛か?
しかし、両方ともデカいから、急いで追いかけるのは向いていない。
移動を考えると、飛行系で、小さめ、そして強いモンスターが望ましい。
その条件に一番合うのはナード達――ビーナイトなんだけど、残念ながらナード達はナビ子の手にある。
ここは量産したピクシーとフェアリーを召喚するべきか。
と、そこでメーブから声が掛かる。
「主。お許し頂けるのであれば、護衛として妾の守護騎士を召喚したいのですが」
そういえば、ティータとメーブには召喚のスキルがあったな。
確かティータは妖精王で、メーブは妖精騎士召喚だった。
うん。興味があるし、是非ともお願いしたいところだ。
「詳しく説明してくれ」
合成祭りの時は、ナビ子をからかった罪で、カードに戻したから、詳細は聞けなかった。
だから、後日話を聞こうとしたんだが、ティータとメーブには、実際に使うまでお楽しみにって断られた。
騎士っていうくらいだから、ピクシーやフェアリーよりも強そうではある。
「召喚には妾の魔力を半分消費します。一度の召喚で半日程度は活動できます。もちろん、やられればその時点で消滅してしまいますが。それから、一度召喚しましたら、次に召喚できるようになるまで1日の休養を要します」
う~ん。
一度召喚したら、次に召喚するまで、1日必要なのか。
いざってときに使えなくなるのは嫌だなぁ。
「カード化のクールタイム短縮を使っても駄目なのか?」
あれも1日1回だけだが、完全に回復することが出来る。
「妾の魔力の問題ではなく、騎士の魂の問題ですので、残念ながら難しいかと」
なるほど。
メーブじゃなくて、召喚先の問題か。
召喚先は俺のカードじゃないから、メーブを回復させても無駄ってことか。
「……うん。じゃあ召喚してくれ」
別にこの後1日使えなくなっても、今よりも困る場面はないだろう。
とりあえずナビ子達に追いつきさえすれば、後はどうとでもなるはずだ。
「では召喚します」
メーブはそう言うと、召喚の準備に入る。
メーブが魔力を練ると、地面に魔法陣が浮かび上がる。
その魔法陣が光ったかと思うと、次の瞬間……。
「はっ? ちょ、ちょっと待って!?」
俺は思わずそう叫んでしまった。
魔法陣から現れたのは……エメラルドグリーンの鎧とマントを身に着け、真紅の槍を持った、人間の姿をしたイケメンだった。
身長は180以上ありそうだ。俺よりもかなり高い。
……妖精の騎士だよね?
俺はてっきり妖精サイズの騎士が現れると思ったんだけど。
「主。こちらが妖精の騎士タム・リンでございます。残念ながら召喚ですので自我はありませんが、戦力になることは保証いたします」
タム・リン!?
ゲームで聞いたことある。
確か元々人間だったけど、妖精女王にさらわれて、妖精の国で森の番人をしていたとか、そんな感じだったはず。
「ねぇ。タム・リンってさ。カードに出来ないかな?」
「主……」
メーブが呆れたような顔をする。
「このタム・リンは、妾の魔力で一時的に具現化しただけの存在です。元々ここには存在しておりませんし、体内に魔石もなければ、肉体もございません。諦めてくださいまし」
うう……やっぱり無理か。
じゃあ、せめて登録だけでも出来ないものか。
同じ召喚のリザードマンは登録出来たんだから、タム・リンだって登録できるはず。
俺はタム・リンに向かって登録してみる。
そして早速図鑑の確認。
――――
妖精騎士タム・リン
????×????
――――
……登録できちゃったよ。
しかも合成元は分からないけど、合成で作れるし。
どんな素材で作れるんだろう?
妖精騎士だから妖精と……あっ、でも元は人間だから、妖精は関係ない?
いやいや、人間ならそもそもモンスター図鑑に登録はされない。
う~ん。想像つかないな。
「主。考え込んでいる余裕はないはずですが?」
はっ!? そうだった。
急いで追いかけなくちゃいけないのに、また時間を使うところだった。
「ではタム・リンを先頭にナビ子どのを追いかけます。タム・リンは森で生活しておりましたし、移動に差し障りはございません」
それは頼もしいな。
俺たちはタム・リンを先頭に、急いでナビ子を追いかけることにした。




