第150話 樹海のモンスター
俺はモンスター図鑑で新規モンスターを確認する。
とはいっても、まだ魔石状態で、モンスターカードにはしていない。
だけど、襲いかかってきた際に登録しているので問題ない。
モンスター説明文は読めなくても、名前とレシピだけは確認できる。
説明文とかは、落ち着いてからゆっくり確認すればいい。
まずは図鑑を未入手のみにする。
これで、表示されるのは、持ってなかったリザードマンと、今回遭遇したモンスターだけになるはずだ。
未入手のモンスターの名前が50音で表示される。
これじゃ、よく分からないから、さらにソート機能を利用する。
ソートは五十音、入手順、種別に並び替えが出来るから、今回は種別で並べ替えてみよう。
種別は動物種、昆虫種、植物種などで分けられているから、まずは動物種から確認することにした。
カソ
キラーリンクス
コアティ
パームキャット
ハイドキャット
ファングジャガー
フォレストデビル
フライングパンサー
ブルームモモンガ
ブルームラット
ブルームリンクス
動物系のモンスターだけで、これだけの名前が増えていた。
中にはブルームという地名がそのまま名前になっているモンスターもいる。
まさか地名がそのまま名前につくなんて考えもしなかったから、非常に驚いたが……考えてみたら、地球でも地名が名前になっている動物がいるんだから、全然おかしくない。
だけど、この地名モンスターは合成で作ることが出来ないようだ。
登録済みの詳細を開くと、合成レシピが存在してなかった。
やはりご当地だけの限定モンスターだから、合成は無理なんだろうなぁ。
図鑑をコンプするためには、世界中を旅する必要があるということだ。
いったいコンプするのに何年かかることやら。
全くコレクター泣かせの仕様だよ。
「ラビットA! あっち!」
「きゅきゅっ!」
……後ろが騒がしい。
俺は何も気にせずゆっくりと図鑑を楽しみたいのに。
時折爆発音も聞こえている。
全く……もう少し静かにできないものか。
そうだっ!
先日、ちょうどいいスキルを手に入れた。
え~っと……これだ。
――――
静寂
レベル1
レア度:☆☆
発動すると使用者の周囲を無音にする。
どんな物音がしても聞こえないので、発動させる際は注意が必要。
――――
消音やジャミングなんかはこっちの音を外に漏らさないようにするのだが、このスキルは外の音を聞こえなくするスキルだ。
外の音が全く聞こえなくなるメリットともデメリットともいえる能力だからか、強力なスキルのわりにはレア度は低い。
用途としては、密会をするときや、集中したいときに使うといいだろう。
というわけで、図鑑に集中したい俺は早速このスキルを覚えて発動させる。
……先程までの喧騒が嘘のように静かになった。
よし、これで図鑑に集中できるぞ。
え~っと、とりあえず動物系のモンスターの魔石まで確認したな。
次は昆虫種のページを確認する。
新規に増えた名前は、動物種以上に多い。
30種くらい増えている。
さすが樹海といったところか。
いや、そうじゃなく、単純にインセクトクイーンのお陰だな。
おそらくスキルのインセクト召喚だろうが、次から次に昆虫型モンスターがインセクトクイーンの前に現れた。
もちろんやって来たモンスターに敵意はなく、完全にインセクトクイーンの支配下にあった。
そのモンスター達を、支配の魔眼と女王の号令のスキルで次々と自害させていく。
本当は自害なんかさせずに、生きたままカードに出来れば一番だったが、残念ながらそれは無理だった。
たとえインセクトクイーンが支配しても、命令しても、深層心理で少しでも反抗する意思があればカード化は無理ってことだ。
以前、養殖産のスライムを買ったことがあるが、単細胞生物で自我のなさそうなスライムですら、一旦殺さないとカードに出来なかった。
ともあれ、昆虫型モンスターは苦もなく手に入れることができた。
カイザーバグズ
ギガスコーピオン
キラーマンティス
デスパラサイト
ドラゴンフライ
パウダーモス
ブラックマンティス
ブラッドスネイル
マッドビートル
ミルメコレオ
とりあえずパッと目についた名前を抜き出したが……うん。
どれも一癖も二癖もありそうなモンスターだ。
これでまだ樹海の入口ってんだから、奥はどうなってるんだろうか。
昆虫種はまだまだいるが……植物種も気になる。
アメーバゴケ
デビルフルーツ
ブルームツリー
マジックマッシュ
マンイーター
う~ん。流石に植物系は少ないな。
だけど、苔やら果実やらキノコやら種類は豊富だな。
ここから合成で進化させていくと……うん。面白いことになりそうだ。
さて、次はモンスターの素材を確かめようかな。
きっと、いい素材がたんまりあるはずだ。
****
「ふぅ~面白かった」
俺は大きく伸びをする。
一通り図鑑を確認したので、ある程度は満足した。
本当なら魔石からモンスターに変化をさせて、モンスター説明文も読んでみたいところだけど、それをすると更に時間がかかりすぎる。
それに、俺が勝手に変化とか使ったら、流石にナビ子に怒られる。
「……そういえば、静寂のスキルを使ったんだった」
やけに静かだと思ったら……というか、何も考えずに思わず静寂のスキルを覚えてしまった。
正直覚える気はなかったんだが……どうしよう。
「勝手に覚えてナビ子に怒られるかな?」
というか、ナビ子はどこだ?
いや、ナビ子以外にも、ラビットAやインセクトクイーン、ティータまでいない。
今俺の隣りにいるのは……
「何でミストが外に出てきてるんだ?」
何故かミストがカードから出てきていた。
もちろん俺が召喚した覚えはない。
俺の言葉にミストは困ったように苦笑いを浮かべる。
「主よ。妾から説明いたします」
そこで俺に声をかけたのはメーブだった。
メーブまで外に……どういうことだ?
「ナビ子どのとティータ達は樹海の奥へと進んでいかれました」
「はぁ!? 奥って……えええ!?」
なんでなんで!?
「ナビ子どのから伝言を預かっております。『シュートがいつまでも無視するから先に進むね!』だそうです」
無視って……確かに静寂のスキルを使って集中してたけど、少しくらい待ってくれてもいいじゃんよ。
「というか、ナビ子は何で俺から離れても平気なんだ?」
俺から50メートル以上離れられないだろ。
「ナビ子どのは旅のしおりの原本を持ち出して行かれました」
んな!?
でも……それなら、ナビ子が俺から離れても平気なのは納得だ。
ナビ子が本当に離れられないのは、俺じゃなくて本体である旅のしおりだからだ。
だから、旅のしおりの原本を持ち出せば、俺から離れてもナビ子が消えることはない。
しかし、旅のしおりは俺が肌身離さず身に付けているよく使うカードのポシェットに入って……って、ポシェットのファスナーが開いてるし。
ナビ子が勝手に開けたんだな。
そして中から旅のしおりやミストやメーブを取り出したのか。
「しかし、ポシェットを開けてカードを取られたことにも気づかないなんて……」
俺が集中していたにしても、体に身に着けている物を取られるまで気づかないものか?
「ナビ子どのは不可視のスキルで身を隠しておりました。それに静寂のスキルが発動中でしたし……主が気づかないのも仕方ないことかと」
ナビ子は不可視のスキルを持ってな……代理人スキルでティータから拝借したな。
そこまでして、勝手に先に行ったのか。
ミストとメーブは俺の護衛兼伝言役か。
「ナビ子達が行ってからどれくらい経ったんだ?」
「すでに5,6時間は前かと」
「そんなに前なの!?」
てっきり30分くらいかと思ったのに……って、ライトの魔法が使われているから気づかなかったけど、辺りはもう真っ暗だし。
「このライトの魔法は誰が唱えたんだ?」
メーブもミストも光属性は使えないはず。
「この魔法は主が自ら唱えておりましたが……」
……全く覚えがないんだが?
確かに暗かったら図鑑も読めないから、思わず無意識でライトの魔法カードを発動させたんだろうけど……俺は何時間くらい図鑑を見てたんだ?
「主が図鑑を読み始めて半日は経過しております」
半日!?
そりゃあナビ子達が呆れて先に進むのも分かる。
というか、ナビ子達が出発して5、6時間ってことは、同じ時間ここで待ってたってことだよな。
「……急いで追いかけて謝らなくちゃな。ナビ子達が進んだ方向は分かるか?」
「ええ。妾にはティータの居場所がわかりますゆえ」
「そっか。じゃあ悪いが道案内をよろしく」
俺はメーブとミストを連れて、急いでナビ子達を追いかけることにした。




