第148話 樹海へ
「おはよう。昨日はよく眠れたかい?」
次の日の朝、昨日と同じ応接室でケフィアが待っていた。
「ええ。お陰さまで。まさか温泉に入れると思いませんでした」
さすが火山に近い街。
温泉が沸いていると聞いて、客室の風呂を使わず、大浴場を使ってしまった。
しかも大浴場には蒸し風呂まであった。
サウナなんて久しぶりだから、思いっきり堪能してしまった。
これで金貨1枚は非常に安いと思う。
……流石にカード化スキルでも、ライラネートの自宅に温泉を用意することは出来ないよな?
「そうかい。そりゃよかったよ」
ケフィアは俺の言葉に満足そうだ。
……やはりナビ子の言うような怖いイメージはない。
「そういや、今日はあのちんまいのは連れてないのかい?」
「よっぽど温泉が気持ちよかったんじゃないですか? この中でまだ寝てますよ」
正確には背中のリュックの中で寝た振りをしているだけだけど。
ったく、隠れるくらいならしおりの中に入ればいいのに、それは頑なにしないんだから。
「ふ~ん。あの子は普通の妖精じゃないだろ? いったい何者なんだい?」
ケフィアの目がさっきまでと打って変わって鋭くなる。
なるほど。ナビ子の言う通り、本当に疑っていたのか。
「さぁ? どうなんでしょう?」
もちろん正直に言うことはしない。
「答える気はないってことかい。まぁ冒険者の秘密を暴くのはご法度だから、アタシからはこれ以上追求しないよ」
そうは言いつつも、ケフィアからは説明しろって気配を全面に出している。
その雰囲気は、なんと言うか……圧力というか、一種の脅迫に近いものがある。
意思の弱い人なら、すぐに白状してしまいそうだ。
「そんなことよりも、地図を下さい」
俺が話を変えると、ケフィアが虚をつかれたような表情になる。
それと同時にさっきの雰囲気が霧散した。
あれっ? 今のってもしかして……
「へぇ。流石にアイツが推薦するだけのことはあるね」
やっぱり……どうやらスキルを使われていたようだ。
感覚的にはゴブリンジェネラルにくらった威圧みたいな感じだったが……強制的に自白させるスキルか?
「本当、油断も隙もありませんね。いったい何をしたんですか?」
「教えてほしいかい? なら……」
「別に聞かなくてもいいんで。早く地図を下さい」
俺はケフィアの言葉を遮る。
どうせ教えて欲しかったら、ナビ子の秘密を教えろって言うに決まってる。
「……ほら。これだよ」
ケフィアは不満げに地図を取り出す。
俺はそれを受け取り、確認してみる。
「あっ、モンスターの生息地も書いてあるんですね」
地図には道だけでなく、モンスターの縄張りや採取できる植物まで書かれていた。
これは結構役立ちそうだな。
「ありがとうございます。じゃあ早速調査に出掛けますね」
「あっこれ。待ちな!」
俺はケフィアの制止を無視して部屋を出る。
これ以上留まっていたら、何をされるか分かったもんじゃない。
幸い、今の所ケフィアは部屋から出てくる気配はない。
でも追いかけてくる可能性や、ギルド職員の妨害も考えられるから、俺は足早にギルドを出て……このまま街を出た。
「ふわぁ~。ようやく自由だよ!」
街を出た所でナビ子が伸びをしながらリュックから飛び出す。
……本当に寝てたりしないよな?
「やっぱりナビ子のことを疑ってたな」
「だから言ったっしょ! アタイはもう絶対にあの人の前には出ないかんね!」
「まぁ次に会うのは依頼の報告の時だし、それが終わったら会うこともないだろう」
個人的にはナビ子がいない時に本音で話してみたいけど……それはアズリアに相談してからだな。
「んじゃま、とりあえず樹海へゴー?」
「そうだな。まずは樹海でモンスター集めをしようか」
まずは樹海でモンスター集め。
それからついでに調査をすることにしよう。
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「ここが樹海の入口か」
「ねぇねぇシュート! 森の中はモンスターでいっぱいだよ!」
ナビ子が興奮しながら叫ぶ。
「まだ入口だから、強そうなモンスターじゃないけど……これは期待できそうだね」
「えっと……貰った地図によると、入口付近はマッドビートルやコアティ、キラーリンクスなんかが危険なモンスターらしい」
俺が持っているホーンラビットやキラービーなんかも書かれているが、この3種が初心者が気をつけるべきモンスターらしい。
う~ん。名前だけじゃ、よく分からないな。
マッドビートル……ビートルってカブトムシとかクワガタのことだろ。
そういえば昆虫系のモンスターは結構持っているけど、甲虫類は持ってなかったな。
強そうだけど……昆虫だから、全ての昆虫の女王であるインセクトクイーンがいれば無効化できそうだ。
コアティとキラーリンクスは……リンクスは山猫のことだった気がする。
コアティは分からんな。
「入口付近の危険モンスターってことは、奥にも危険なモンスターがいるんだよね?」
「ああ。奥にはグリズリーやコカトリスなんかがいるって書いてあるな」
この辺りはゲームでは定番のモンスターだから、楽しみだけど……俺自身は勝てそうもないから、油断しないように気をつけないと。
「それから、ハンババがこの樹海のボスっぽい」
ハンババか……ゲームで聞いたことはあるけど、どんなモンスターだっけ?
「なんかいっぱいモンスターがいそうだから、図鑑集めが捗りそうだね!」
俺はナビ子の言葉に頷く。
この世界に来て、ようやく本当の冒険が始められそうだ。




