第147話 ケフィアへの疑惑
「それで……たったひとりでどんな調査をするんだい?」
ケフィアの質問にどうしようか本気で悩む。
ねっ。どんな調査をすればいいんだろ。
「まだ話を聞いただけですからね。現場を見ないとなんとも……」
そう言って誤魔化すことにした。
実際に山に行かないと分からないと思う。
「そもそも、ひとりで樹海を抜けて山にたどり着けるのかい?」
「それは簡単ですよ」
「ほぅ。凄い自信じゃないか。樹海にも厄介なモンスターはいるんだよ?」
確かに樹海のモンスターは気になるけど……
「樹海なんて、空を飛んでいけばいいだけじゃないですか」
別に歩いて樹海を抜けなくても、空を飛んでいけば簡単に樹海を抜けられる。
「言っておくけど、あの子はもう貸し出さないよ」
ソニックイーグルは貸してくれないようだけど、別に問題ない。
「俺だって飛行モンスターは持っているから大丈夫ですよ」
「あきれた。飛行モンスターを持ってたのに、あの子を借りたのかい?」
「……ソニックイーグルほど速くないし、この場所も知りませんから」
流石に昨日寄り道して手に入れたとは言えない。
「本当なら、樹海から安全に山へと抜ける道を案内するつもりだったんだけど……必要ないみたいだね」
どうやら道案内役を用意するつもりだったようだ。
「そういうわけで道案内は大丈夫です。でも……空を飛ぶのは手段のひとつで、基本は樹海を抜ける予定ですよ」
「わざわざ樹海を抜けるのかい!?」
ケフィアが驚く。
「一応樹海も調査しないと。樹海に異変がないとも限りませんからね」
まぁそれは建前で、本当は樹海のモンスターに興味があるだけだけど。
「だから、安全な道では意味がないんですよ」
「樹海も奥に入れば危険なモンスターは山ほどいる。ひとりでは危険だよ!」
「俺はサマナーですからね。ひとりじゃないですよ」
「……この支援ギルドでは、最低限の経費は出すけど、サマナーの消費した分までは補償できないよ」
サマナーが金が掛かるのはどこでも共通か。
「心配しなくても、魔石代とか請求しませんよ。それに、仮に請求するなら、ウチのギルマスにします」
俺がそう言うと、ケフィアが豪快に笑った。
「はははっ。そりゃあいい。あの男にたっぷり請求するといい」
「……ウチのギルマスとケフィアさんってどういう関係なんですか?」
少なくとも、ただの同僚って感じではなさそうだ。
そもそも、ライラネートが大都市って言っても、あの街には他にも支援ギルドがあるんだから、西の地区にだけ相談ってのは、よっぽど親しくないとできないと思う。
「ん? 気になるかい?」
「まぁ多少は……」
別にどうしても聞きたいってわけじゃないけど……恋人とか言われたらどうしよう。
「あの男とアタシは昔パーティーを組んでたのさ」
「パーティーって冒険者の?」
「他に何があるんだい?」
ケフィアが少しだけ目を細める。
これ……恋人とか聞いたらぶん殴られそうだな。
「いえ。ウチのギルマスってオッサンじゃないですか。ケフィアさんのような若い人と同じパーティーとは思わなくて……」
「そうかいそうかい」
ケフィアは満足そうに頷く。
やはり女性相手に若いって単語はどこの世界でも、種族が違っても効果覿面だな。
「あっ、経費の請求はしませんが、もし樹海の地図があれば頂けませんか? ついでにブルーム山の地図も」
基本はナビ子頼りになるから、なくても困らないが、参考にはなるはずだ。
「樹海にしろ、ブルーム山にしろ、完璧な地図はない。それでもいいかい?」
「もちろんそれで問題ありません」
「じゃあ準備するよ」
流石に今すぐは無理らしい。
どのみち出発は明日の予定なので問題はない。
その後、ケフィアにもう少し詳しい話を聞いて、ギルドを後にした。
****
今日の宿はケフィアが用意してくれた。
冒険者御用達の安宿じゃなくて、風呂トイレ付き、一泊金貨1枚のかなり豪華な宿だ。
一応この宿代も経費で賄うらしいから、俺が払う必要はないとのこと。
サマナーの経費を払わないと言ってたから、ケチなのかとも思ったが、そうではないみたいだ。
単純にサマナーが金食い虫なだけのようだ。
「ふぅ」
俺はベッドに腰を下ろして一息つく。
同じようにナビ子もベッドに横になる。
「そういえば、今日は大人しかったな」
いつもは自己紹介くらいは自分でするのに、今日は終始黙ってた。
「う~んとね。あの人がちょっと怖かったの」
「あの人って……ケフィア?」
そんなに怖い人だったかな?
「うん。多分だけど、あの人アタイが妖精――生物じゃないこと気づいてたと思う」
「ええっ!?」
俺は思わず立ち上がる。
「そんな様子は全然なかったけど?」
ナビ子が妖精じゃないって気づいたんなら、普通その場で言わないか?
「アタイも確証があるわけじゃないけど……シュートが自己紹介した時に、一瞬だけあの人がアタイを見たけど、まるで道具を見るような冷たい目だったんだよ」
俺にはそんな目を向けなかったが……
「スキルで見破られたのかな?」
流石にケフィアには登録出来ていない。
触る機会なんて全く無かったもんな。
しかし……握手くらいはしておくべきだったかもしれない。
「とりあえず、あの人と会話をする時はアタイは身を隠すことにするよ」
「ああ。その方がいいかもな」
どのみちこの街にいる間しか顔を合わさない。
明日からは調査でこの街を離れるし、少しだけ身を隠せばいいだけのことだ。
ただ……俺の頭にアズリアの顔がよぎった。
もしかして、ケフィアも偵察機を見つけて日本の存在を知っている?
だからナビ子が妖精じゃないと気づいたとか。
そうだとすると、少し話を聞いてみたい気もする。
……まぁ危険すぎて、こっちからは絶対に話せないけどね。




