第145話 ブルームの街
「案外すんなり街の中に入れたね!」
「やっぱり中堅冒険者って凄いんだな」
元々冒険者は街に入るための審査も入市税も必要ない。
でも、今回は珍しい妖精を連れて、しかもデカいコンテナを抱えている。
普通に考えたら、門でしつこく取り調べを受けてもおかしくない。
だけど、俺が冒険者カードを提示したら、驚くほどあっさりと中に入れた。
ただこれが初心者冒険者だったりしたら、話は変わっただろう。
実際に門番も、最初は胡散臭そうな顔をしていたが、俺のレベルを見て態度が一変した。
コンテナも輸送依頼としか言ってないのに、中身改めすらなかった。
これが商人の荷物なら、関税とかあるから中身改めがあったはずだ。
これ……俺としては楽でよかったけど、防犯面としてどうよ?
まぁ依頼品だから、勝手に中を開けたら駄目だから、中身改めとか言われたら困ったけど。
「もしかしたら、ライラネートから輸送が来ることは伝わっていたかもしれないね」
なるほど。その可能性はあるな。
じゃないと、流石に中身の確認もなしに入れるのおかしい。
「それに……そのコンテナは目立つから、悪さは出来ないしね」
うん。現時点で非常に目立っている。
幸いギルドの場所は門番から聞いた。
俺はこの大荷物を処理するために、ギルドへと急ぐことにした。
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「では少々お待ちください」
無事にギルドで納品を終わらせると、ギルマスを呼んでくるから待ってろと応接室に通された。
う~ん。この応接室なら、ライラネートの方が立派だな。
まぁライラネートは帝国4大都市のひとつで、この街は辺境の一都市だから、比べる方がおかしいが。
でも、規模こそ違うものの、支援ギルドとしては何も変わらないようだ。
しばらく待つと、応接室の扉が開かれた。
「待たせたね」
そこに現れたのは……褐色の肌をしたエルフの女性だった。
もしかして、ダークエルフか?
「ん? どうしたんだい?」
「いえ……女性がやって来るとは思わなかったので……」
「女性が……ついでにダークエルフがギルドマスターをやっちゃおかしいかい?」
そう言いながら、ギルマスが睨みを効かす。
おそらく今までに何度も言われ続けたことなんだろう。
俺は慌てて言い訳する。
「そうじゃなくて……ウチのギルマスとのギャップに驚いただけです。ウチのギルマスは無駄に厳ついですからね。良かったらウチのギルマスと代わりません?」
俺がそう言うと、ギルマスが意表を突かれたように目を丸くする。
どうやら思っていた切り返しと違ったようだ。
そして堪えきれなくなったのか、吹き出した。
「ふっははは。たっ、確かにあの男は厳つい。しかし、いきなり口説かれるとは思わなかったよ」
いや、別に口説いたわけじゃ……まぁ悪い印象は持たれなかったようなので、それでいいか。
「アタシはケフィア。このブルームの街のギルマスをやってるよ」
ケフィアか……見た目は20代後半っぽいけど、エルフは長寿だし、仕草や口調から考えると、かなり年上かもしれない。
「俺はシュート。こっちはナビ子。普段はライラネートを拠点に活動をしています」
「聞いてるよ。凄腕のサマナーなんだってね」
そういえばギルマスが腕利きのサマナーで調査のスペシャリストって説明したって言ってたな。
「凄腕かどうかはともかく、サマナーなのは間違いないですね」
「あの子に乗って何事もなくここまでたどり着いたんだろ? 十分凄腕じゃないか」
ん? 今の言葉……少し引っかからないか?
「あの……それってソニックイーグルのことですよね? 何事もなくってどういうことでしょうか?」
「あの子は気に入らない人間は平気で振り落とそうとするからね。アンタは気に入られたってことだろうよ」
……俺が聞いた話とぜんぜん違うんだが?
気に入られたのは、きっとティータのお陰だろう。
マジで危なかったな。
「本当はあの子の主人も一緒に行くはずだったんだけどね。あの男が『ウチのサマナーは凄腕だから、必要ない』って言ってね」
あのギルマス……帰ったらタダじゃおかねぇ。
「そういえばソニックイーグルの主人は? ここにいるって聞いてたんですけど」
「ああ。あの子が戻ってきたって聞いたら、急いで戻っていったよ」
さっき受付でソニックイーグルは巣に戻った旨を報告し、証拠の羽根を見せたから、それを聞いたようだ。
「あの子が羽根まで渡すなんて、よっぽど気に入られたんだねぇ。サマナーじゃなくて、テイマーの方が性に合ってるんじゃないかい?」
「どうでしょうね。まぁ俺はサマナーで満足しているんで」
別にどの職業でも補正があるわけじゃないんだから、何だっていいんだけどさ。
ケフィアもこれ以上薦める気はないようだ。
「それから物資の確認をさせてもらったけど、まさかあんなにたくさん送ってくれるなんてね。非常に助かるよ」
「……お礼はウチのギルマスに言ってください。俺はただ運んだだけですから。それに、本当の依頼は別にありますよね?」
「ブルーム山の調査だね。危険だけど……本当にやってくれるのかい?」
「まぁそれが依頼ですから。詳しい依頼内容を聞かせてくれます?」
俺はブルーム山について詳しい話を聞くことになった。




