第144話 到着
ソニックイーグルに乗り、空の旅を再開する。
コンテナを持ってないから、ライラネートを出発した時よりも、さらに速い。
……らしいのだが、魔力で覆われて風すら感じない。
景色も空と曇しかないから、昨日との違いはほとんど分からない。
「このペースですと、昼過ぎには到着するそうです」
通訳係のティータが言う。
やはり言葉が分かるって素晴らしい。
「昨日1日ゆっくり休んで英気を養ったから、元気一杯のようですね」
考えてみたら、このソニックイーグルは一晩かけてライラネートに来てたんだよな。
そして、すぐに俺を運んで移動。
疲れていたに決まっている。
昨日、俺たちが狩りをしている間、ソニックイーグルには自由にさせていたけど、十分に休めたようだ。
「とりあえずこのソニックイーグルを作るところから始めるか」
さっき図鑑を確認した鳥モンスター。
コウモリは別にして、ワイルド3種とナイトホークとロック鳥。
種類はあまり多くないけど、魔石の数はたくさんある。
本当にあの山の鳥モンスターを狩りつくしたんじゃないかと思うくらいだ。
まぁ俺が倒したのはビーナイトが生け捕りにしたロック鳥のみだけど。
ソニックイーグルのレシピは隼系モンスターと中級風魔法。
……隼系?
「何でイーグルなのに、鷲系じゃないんだ?」
隼ならファルコンだろ。
「多分、猛禽類なら何でもいいんだよきっと」
何でもいいって……
「そんなに適当じゃないだろ」
「いやいや、そもそも鷹や鷲の定義って、大きさだけって話だから、多分一番速い隼がレシピの一番上に出ただけだよきっと」
へぇ、大きさの違いで鷹とか鷲とか区別しているのか。
なら、確かにどのモンスターからでもソニックイーグルは誕生しそうだ。
いや、それならソニックファルコンとか、ソニックホークとかもいるんじゃね?
どのモンスターを使っても風魔法の中級で合成すればってとこだろう。
ちょっと試したいけど……空の上での合成は危険だな。
合成だけならともかく、確かめるために解放ができない。
どうせあと数時間の辛抱だから、それまで合成は待つことにした。
****
「ピィィ!」
「どうやら近くまで来たようです」
ソニックイーグルの鳴き声をティータが通訳する。
そっか。本当に早かったな。
「じゃあアタイはまたポケットの中だね」
着陸時には少し揺れるから、ナビ子が俺のポケットに収まる。
着陸も今回で3回目なので、手慣れたものだ。
「ではわたくしも失礼して……」
ティータは俺の背にしがみつく。
流石にナビ子より大きいティータは俺のポケットには収まらなかった。
しかし……小さい妖精と言えども、美しい女性に背中からしがみつかれると、少しドキッとする。
俺たちの準備が完了したことを確認すると、ソニックイーグルは地上へと降下していく。
少し揺れるが、流石に俺も慣れてきたので、景色を見る余裕もある。
……少し離れた場所に街が見える。あそこが目的の街かな?
そして、その先には山が――あれがブルーム山か。
かなり大きな山だな。
富士山と比べても遜色ないんじゃないか?
……まぁ九州育ちの俺は本物の富士山なんか知らないけど。
麓には富士の樹海のように森が拡がっている。
この森からモンスターがやって来ているのか?
上空から見た感じ、今の所、噴火しそうな気配はない。
「はい。無事とうちゃく~っと」
「お疲れさまでした」
ナビ子が勢いよくポケットから飛び出す。
同時にティータも背中から離れる。
本当、対称的な2人だな。
「まだ到着じゃないぞ。少し歩かないと」
門までは歩いて30分くらいか?
少し遠いけど、コンテナをカードから戻さないといけないから、人通りの少ない場所に降りる必要があった。
俺はコンテナを解放する。
……もしかしたら、カードになっている間に魔法の効果が切れているかも? と心配したがどうやら杞憂だったようだ。
コンテナは出発時と変わらずに、重さを感じない。
「無属性の重力魔法だっけ? この魔法も便利だよなぁ」
なんとかして手に入らないだろうか?
帰ったらアザレアに聞いてみよう。
「んで、ソニックイーグルは本当にここでいいのか?」
俺はティータに尋ねる。
ティータによると、ソニックイーグルとはここでお別れらしい。
「ええ。ここからすぐ近くに、巣があるそうです」
流石にこの巨体じゃ、街中で飼えないか。
「しかし、ギルマスにはギルドでテイマーに返すようにって言われてたんだけど……」
「ピィィ……」
俺がそう言うと、ソニックイーグルはティータに話しかける。
話を聞き終わったティータはソニックイーグルから羽根を1枚抜く。
「こちらの羽根が証明となるそうです」
証明……か。
「そっか。じゃあここでお別れだ。助かったよ」
本人がそう言うなら大丈夫だろ。
「ピィィ!」
ソニックイーグルはひと鳴きして飛び立つ。
初めて乗った時は怖いと思ったし、たった1日だったけど、もう乗れないとなると、少し寂しいな。
「ではわたくしはカードに戻らせていただきます」
「ああ、助かったよ」
「マスターのお役に立てて何よりです」
ニコリとティータが微笑む。
どこかのなんちゃって妖精と違い、街中をふらついていたら駄目なことは理解している。
それに、ティータは妖精女王だから、もしかしたら容姿を知っている人がいるかも知れない。
妖精女王がこんなところにいるってなったら、それこそ大騒ぎになってしまうもんな。
ティータがカードに戻ると、残ったのは俺とナビ子だけ。
結局いつもどおりだ。
「さっ、じゃあ街へ行こうよ!」
「そうだな」
ナビ子の元気の良い掛け声とともに、俺は街へ向かった。




