第141話 寄り道
ギルマスの用意したソニックイーグルの背に乗ると、大きく翼をはためかせて、大空へと舞い上がった。
「おおおおおっ!?」
重力に逆らう……上から押しつぶされそうな感覚だ。
「シュート! 舌噛んじゃうから、黙ってしがみついてないと駄目だよ!」
俺の胸ポケットにいるナビ子が声をあげる。
いつものように飛んでたり、肩にいるだけじゃ、不安だと言って、ポケットに隠れている。
俺はナビ子に従い、口を閉じ、ソニックイーグルにしがみつく。
ギルマスは魔力でガードしているから振り落とされないって言ってたけど、油断したら普通に落ちてしまいそうだ。
もしかして、このまま明日まで踏ん張らなくちゃ……と思ってたら、急に穏やかになる。
「上昇が終わったみたいだね」
落ち着いたところでナビ子が言う。
そっか。飛行機と同じように、離陸だけ揺れるって感じか。
確かに考えてみれば、飛行機の離陸と似たような感じだったかもしれない。
……こっちの方が圧は強かったけど。
現時点で俺には風も何も感じない。
景色が動いているから、別にソニックイーグルが止まっているわけでもない。
それこそ飛行機の中にいるみたいだ。
「だけど……壁がないだけでこんなに怖いとはな」
飛行機みたいに機内にいるわけじゃない。
外にいる状態だから、立ち上がったり……少しでも動いたら、ここからまっ逆さまに落ちてしまうだろう。
まぁ揺れないし、風もないから、動きさえしなければ落ちることはないと思うが。
「怖くて下は見られないな」
別に高いところが苦手ではなかったが、今日から苦手になりそうだ。
「情けないよ! そんなんじゃ鳥モンスターを手に入れても乗れないじゃん!」
……そういうナビ子だって、俺のポケットから出ようとしない。
もう安定しているんだから、出てもいいと思うけどな。
「鳥モンスターは後回しにしようか?」
いくら便利でも、こう怖くちゃ……ねぇ。
「なに甘えたこと言ってんのさ! どのみち帰りまでに手に入れなくちゃいけないんでしょ!」
そう。
あのギルマスが出発前にふざけたことを言いやがった。
『このソニックイーグルは高いからな。行きはともかく、帰りは自腹だ。もしくは別の手段で自力で帰ってこい』
だとよ。ケチ臭いにも程がある。
「ったく。俺が帰らずに居着いたらどうするんだろうな」
「……帰らないの?」
「……帰るけどさ」
別にライラネートが嫌いなわけじゃないし、色々と繋がりもできたからな。
「んじゃあ、頑張って帰り用のモンスターを捕まえないとね。それに、自分のモンスターなら、怖くないかもしれないよ」
ふむ。
確かにそうかもしれない。
別にこのソニックイーグルが信頼できないわけじゃないけど、やはり身内との差があると思う。
「んじゃまぁ、まずは登録の確認を……と」
俺は慎重に図鑑を取り出す。
落としたら大変だ。
まぁブランクカードから返還すればいいだけだが。
……ブランクカードも含めて全部落としたら取り返しがつかないな。
――――
ソニックイーグル
隼系モンスター×中級風属性魔法
……
――――
ふむ。
やはり予想通りのレシピだな。
隼系のモンスターか。
そんなに種類がいるのかな?
「ナビ子……ソニックイーグルと会話って出来る?」
「……出来ると思う?」
「思わない」
「分かってるなら、聞くだけ無駄だよ」
ナビ子に聞いたのが間違いだった。
そもそも、カードモンスターの言葉すら完全には分からないもんな。
なので次にティターニアを召喚する。
「お呼びでしょうかマスター」
相変わらず優雅で美しい。
どこかのなんちゃって妖精とは違い、空の上でも落ち着いている。
「ティータ。そこのソニックイーグルと会話ができるか?」
本人の希望もあって、ティターニアのことはティータと名付けた。
ちなみにもうひとりの女王のメーブはそのままメーブでいいらしい。
「お安い御用ですわ」
おおっダメ元で聞いてみたけど、本当に会話ができるようだ。
流石本物の妖精は違う。
「……なによ」
「なんでもない」
俺がチラリとナビ子を覗き込むと、目があったナビ子が不機嫌に答える。
少し拗ねているようだから、そっとしておこう。
「じゃあティータ。ソニックイーグルに……」
俺はティータにソニックイーグルにこちらからの要望と、返答を聞いてもらった。
****
「じゃあまずはカードにしてと」
一旦地上に降りた俺はコンテナをカードにする。
出発時はギルマスがいたからカードにできなかったが、ここなら誰も見ていない。
ティータ経由でソニックイーグルに確認してもらったが、重さは感じなくても、中身はポーションなどの割れ物。
慎重に取り扱うように言われていたらしい。
そして、このコンテナがなかったら、目的地までは今日中にたどり着くことが出来るらしい。
元々の到着予定日は明日。
つまり、今日一日自由に過ごしても、十分に間に合う計算になる。
次にこの辺りに鳥モンスターが生息していそうな場所を尋ねた。
そこで鳥モンスターを狩って、魔石を手に入れようと思う。
ソニックイーグルにとっては、同族を狩るって言っているようなものだから、いい気はしない……かと思ったが、そうではないらしい。
モンスターにとって、家族ならともかく、それ以外は別に同族意識はないらしい。
考えてみたら、ラビットAや他のモンスターも平気で同族を狩っていたし、そういうものなのかもしれない。
そういうわけで、俺たちは少しだけ寄り道して鳥モンスター狩りをすることにした。




