第139話 出発準備
結局、俺は依頼を引き受けることにした。
「ねぇねぇ。楽しみだねっ!」
家に帰ると感情を爆発させたかのようにナビ子がはしゃぐ。
今までずっと我慢してたんだろうなぁ。
まぁ俺だって同じ気持ちだ。
なにせドラゴンの棲む山に、移動は空って……楽しみすぎるだろ。
「ドラゴンかぁ……きっと、おっきぃんだろうね」
うん。間違いなく大きいだろう。
まぁ会えるかどうかは分からん……というか、退治したら噴火するかもしれないんだったら、会わないほうがいいかもしれない。
「ナビ子はドラゴンを見たことはないのか?」
「当たり前だよ! というか、アタイはシュートとおんなじ景色しか見てないよ」
「実際に直接はないかもしれないけど、偵察していた映像とかは知っているんだろ? その中にドラゴンとかいなかったのか?」
「あっ、そういうことね。う~んと、映像でもないかなぁ。ドラゴンが棲んでいるのは基本的にダンジョンとか山奥とかだからね。偵察カメラを送っても、壊れて帰ってこないんだよ」
「ふ~ん」
俺は曖昧に頷いた。
その壊れた偵察機を見たことがあるからだ。
それをナビ子に気取られるわけにはいかない。
ナビ子も別に何も疑問に思った様子はない。
「もしその辺を歩いていれば、映っていたかもしれないけどね」
「……そこら辺を普通に歩いていたら、この世界はもっととんでもないことになっていると思うぞ」
そんな世界は嫌すぎる。
「あっでも、ワイバーンのような飛竜タイプは映ってたことがあるよ。もしかしたら、今回はワイバーンに乗って現地に行くかもね」
「……流石にそれはないだろ」
ギルマスは空を飛んで移動すると言ったが、それ以外は何も言わなかった。
勿体ぶっていたが、この世界に飛行機なんてないんだから、残された空での移動なんて考えられる選択肢はひとつしかない。
おそらくテイマーのモンスターを使った簡易航空便ってとこだろう。
人を乗せるくらいの大型飛行モンスターか。
流石にワイバーンのような大物じゃないだろうけど……楽しみだな。
「とりあえず、旅の準備をしなくちゃな」
ギルマスも手配の準備があるようで、出発は3日後に決まった。
だから俺の方もそれまでの間に準備をしなくてはならない。
とりあえず、ミランダばあさんの店に行って、月一の納品と役立ちそうなアイテムの購入。
それからアズリアにも、少し多めに属性武器の納品をしておいた方がいいだろう。
ついでにファーレン商会でも買い出しをしないといけない。
……調査に必要な道具ってなんだろ?
アザレアに聞いてみるしかないな。
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「わたくしも行ったことはありませんが、かなり険しい山だとは聞いております。まずは歩きやすい靴選びから始めましょう」
なるほど。
確かに自分の足で歩くとなると、防御力とかより、歩きやすい登山の靴を選ぶ必要がある。
「幸いシュートさんは荷物の心配はいりませんから、平地用の靴や登山用の靴、ダンジョン用の靴など数種類準備をしたほうが良いでしょう
他の冒険者は靴で荷物を圧迫できないから履いている靴しか準備できないらしいが、俺の場合はカード化スキルを使えば荷物の心配はいらない。
状況に応じて最適な靴を選んだほうが良さそうだ。
うん。やっぱりアザレアに相談して正解だったようだ。
「それから装備に関しては、耐熱性で動きやすい軽装がよろしいでしょう」
耐熱性の服か。
ギルマスも火属性のモンスターが多いって言ってたし、耐熱装備は必需品か。
というか、火山ってことは暑いんだろうなぁ。
……着るだけで涼しくなるような装備って作れないかな?
「後は迷わないようにコンパスや白地図が必要ですが……これはナビ子さんがいるなら不要ですかね」
普通の冒険者はマッピングしながら移動をする。
じゃないと確実に道に迷うだろうからな。
マッパーは主にスカウトやレンジャーが行うようだが……アザレアの言う通り、俺にはナビ子がいる。
「うん! アタイのスキルがあれば問題ないよ!」
ナビ子が胸を張って言う。
確かにナビ子はダンジョンゲームの自動マッピング並の性能を持っているから、俺がマッピングする必要はない。
それにナビ子は俺と離れることが出来ないから、俺が一人で迷うことはない。
だけど……一応買うだけは買っておこうかな。
「後はランタンなどですか。ですが、これもライトの魔法が使えるウサちゃんがいれば必要ないでしょう」
……別にラビットAじゃなくても、カードでライトくらい使えるんだが?
というか、ラビットAは火山は大丈夫なのか?
暑さでばたんきゅーしてそうだ。
う~ん、一応有事に備えてミニランタンくらいは買っておくか。
「それから野営の準備ですね。テントや寝袋は必須と言えるでしょう」
「一応個室はカードに戻して持っていくつもりだけど?」
本当は家ごと持っていきたいが、アザレアとアズリアに猛反対された。
俺がいない間、キッチンや風呂、トイレを使いたいんだそうだ。
まぁ便利なのは認めるけどさ……俺だって使いたいのになぁ。
「個室だとしても、それなりの場所を取りますから、難しい場合もあります」
そう言われれば確かにそうだ。
テントや寝袋くらいは必要かもしれない。
他にもロープやストックなど、普通の山登りに必要な道具を買い漁った。
ゲームじゃダンジョン攻略前は、せいぜい回復薬や、そこに売っている装備品を買うだけだ。
だけど、ここでは装備品は防御力だけじゃなくて、行動しやすさを重視する。
回復薬だけじゃなく、ゲームの道具屋に売ってないような道具も準備する。
ゲームのようなファンタジー世界だけど、改めてここが現実世界なんだと認識させられた。




