第15話 ラビットAの初めてのお仕事
「それで? 今日はどうするの?」
昨日は初めての仲間――ラビットAが加わった。
今日も新しい仲間を求めて森の中へ……と言いたいところだが、そうではない。
「うん。それなんだけど……正直、今の俺が森に入っても、効率が悪いと思うんだ」
昨日の収穫は薬草とキノコと木の実が少し。
それからラビットAだけだ。
ラビットAにしたって、ナビ子に手伝ってもらわないと仕留めることは出来なかっただろう。
今の俺が森に入っても同じ目に遭うだけだ。
「せめてベレッタくらいは一人で扱えるようにならないと……」
「ア、アタイはもう絶対に手伝わないよ!」
どうやら昨日のことはナビ子にも少しトラウマになっているようだ。
「分かってるよ」
俺だって昨日みたいに痛がっているナビ子は見たくない。
「じゃあどうすんの? 図鑑集めはお休み?」
「いや、今日は新人君に頑張ってもらおうと思うんだ」
「きゅっ!」
新人のラビットAは元気に返事する。
相変わらず敬礼のポーズが可愛い。
「さてラビットA君。キミはこの森に住んでいた。だから……木の実や果実が何処にあるか知ってるね?」
「きゅきゅ!」
今のは知っている鳴き声だと思う。
「ではラビットA君。キミの今日のミッションは、珍しい木の実や果実を集めてここに持って来てもらう。出来るかね?」
「きゅっ!」
ラビットAは自信たっぷりだと言わんばかりに鳴く。
そういえば、このラビットAは嗅覚のスキルを持っている。
もしかしたら探すのは得意分野なのかもしれない。
「うん、いい返事だ。だが、油断はするな。森の中は危険だ。自分より強いモンスターに出会ったらすぐに逃げること」
たとえモンスターに殺されたとしても、明日になったら復活する。
だけど、出来るだけそんな目には遭わせたくない。
まぁホーンラビットの性質上、自分より大きなモンスターに出会ったら、すぐに逃げるだろう。
「逆に自分より弱いモンスターに出会ったら、出来るだけ倒すこと。もし倒したらモンスターの死骸……は持ち帰れないだろうけど、せめて魔石だけは持ち帰ること」
「きゅきゅっ!」
ホーンラビットはほぼ最弱と言っていいモンスターだが、それでも勝てないモンスターがいない訳ではない。
ゴブリンなど人型モンスターは無理だろうが、自分より小さい魔物……リスやネズミのモンスターなら勝てる可能性がある。
まぁそれらを仲間にしたいか……といえば話は変わって来るが、現状よりはマシである。
俺はラビットAの首に巾着袋を付ける。
意外と器用なラビットAならこの巾着袋を自分で開け、魔石や木の実などを入れることが出来るはずだ。
「よしいけラビットA!」
「きゅっきゅきゅー!」
ラビットAは元気よく森の中へと走って行く。
うん、可愛い。
「……それで? ラビットAに任せてシュートはどうするの?」
「俺は……銃の練習と筋トレかな」
せめて足手まといにならない程度に力を付けないと……な。
****
「もう駄目ー!! ギブアーップ!!」
俺はその場に倒れ込む。
「なに? もう終わり? 根性ないわね」
「ナビ子……お前……」
……少し辛辣過ぎやしないか?
俺が筋トレすると言ったら、効率的な筋トレの方法を知っていると言って、ナビ子が教官に名乗り出た。
先日のホーンラビット解体の時といい、先生や教官の真似事が好きなようだ。
もちろん効率的な筋トレなど知らない俺はナビ子に任せることにした。
だが……ナビ子は鬼教官だった。
こちとら日本では思いっきりインドア派だったんだ。
いくら身体が若返ったといっても限度がある。
この身体……もう少し身体能力があってもいいんじゃね?
何で元の体とそんなに大差ないんだよ!!
「なぁナビ子。楽して強くなる方法ない?」
「そんな甘い方法があると思う?」
「だよなぁ」
「まぁないこともないけど」
「本当か!?」
ガバッと飛び起きる。
「何よ。まだ元気じゃない」
「そんなことはいいから! それよりもその方法って?」
「簡単よ。スキルを手に入れるの。身体能力向上系のスキルがあれば今よりマシになるよ」
身体能力向上系のスキルか……
『グローリークエスト』では確か現在の身体能力を補正するタイプと、成長を促進するタイプの2種類があったはずだ。
この世界でも似たようなスキルがあるのだろう。
「ってことは身体向上スキルを手に入れれば、こんな辛いことはしなくてもいいと……」
「そんなわけないでしょ。元々の能力が高ければ、よりスキルでのアップが見込めるんだから……だから頑張ってトレーニングするよ!」
どうやらナビ子教官のスパルタ筋トレはまだまだ続くようだ。
****
「きゅきゅー!!」
――ん。
鳴き声と共にペチペチと頬に何かが当たる。
目を開けるとラビットAが心配そうにこっちをみていた。
「……あれっ?」
俺……何してたんだっけ?
「きゅきゅー!!」
俺と目が合うとラビットAがガバッと俺の顔に張り付く。
「んがっ!?」
息が出来ない!
俺は慌ててラビットAを顔から剥がす。
「一体何なんだ」
懐いてくれているのは素直に嬉しいが、流石に顔に張り付くのは勘弁してほしい。
「シュートが全然起きないから、ラビットAが心配してたのよ」
全然起きないって……俺、なんで家の外で寝てたんだ?
「ナビ子……俺、何してたんだっけ?」
「シュートは筋トレの途中で『やっぱ無理ー!?』って、バタンキューしちゃったの」
「……思い出した。確かに筋トレの途中で無理って倒れ込んだ気がする」
確か筋トレを再開して、それからまた少しして倒れこんだんだっけ。
んで、そのまま寝ちゃった……というか意識を失ったのか。
「まさかシュートがあの程度で気絶するくらいひ弱だと思わなかったわ。今度からはもう少し加減するよ」
……筋トレが易しくなるのは大歓迎だが、なにか腑に落ちない。
俺がひ弱ってよりも、絶対にナビ子がスパルタなだけだと思う。
ったく、俺はプロスポーツ選手や高校球児じゃないっての。
「それでラビットAは心配してくれたのか。ありがとな」
「きゅう!」
俺が撫でてやるとラビットAは鼻をヒクヒクさせて喜ぶ。
うん、可愛い。
「ラビットAが帰ってきたってことは……ミッションは成功したのか?」
頼んでいた木の実や果実は手に入れたのだろうか?
俺はラビットAの首の巾着を開けるが……中は空っぽ。
うーん、やっぱりラビットAには荷が重かったか。
まぁ無事に帰ってきただけで十分か。
「あのね。ラビットAってば凄いのよ!!」
「きゅーきゅー!!」
ラビットAが俺から離れる。
どうやら付いてこいと言いたげな感じだ。
ってことは巾着じゃなくて、別の場所に集めたのかな。
ナビ子が凄いっていうくらいだから、結構集めてきたのかもしれない。
ラビットAの案内でその場所へ行くと……
「おおっ!? マジか!!」
そこには果実や木の実。
それからいくつものモンスターの死骸があった。
「きゅふぅ」
ドヤ顔で戦果を誇るラビットA。
うん、これは誇ってもいいと思う。
正直、日本で死骸の山を目撃したら、その場からすぐに逃げ出すだろう。
しかし……今の俺には宝の山だった。
「よくやったな!!」
俺はラビットAを抱き抱えて腹をわしわしと撫でまくる。
「きゅう~ん」
うんうん。
喜んでいるようで何よりだ。
「ラビットA。何か欲しいものはあるか?」
ラビットAの働きに報いるためにご褒美をあげないとな。
「きゅっ!!」
……なにやら自己主張しているが、何がほしいのか全くわからない。
「あれじゃない? 昨日食べさせたニンジン」
「きゅきゅ!」
どうやらナビ子の言うとおりニンジンで間違いないようだ。
俺は一旦この山をカードに変えて、ラビットAにニンジンを食べさせることにした。




