第138話 ブルーム山の事情
「ドラゴンの棲む山だってぇ!?」
俺は思わず大声を出す。
ドラゴン……数多のモンスターの中で最も有名で、最も強いモンスター。
ゲームで育った人間にとっては憧れのモンスターだと言えるだろう。
俺としても、この世界で是非とも会ってみたいモンスターナンバーワンだ。
しかし……
「それってさ。かなり危険なんじゃないか?」
だってドラゴンだぞ。
ゴブリンの比じゃないくらい強いに決まっている。
「実際にドラゴンに遭遇すればな。だが、実際の目撃情報はそんなに多くない」
……目撃情報が少ないってことは、少なくとも、いることは確かなんじゃないのか?
「それに、別にドラゴン退治が依頼ではない。あくまでもブルーム山の調査が依頼内容だ」
「その調査って何すればいいんだ?」
「最近山がおかしいと、ブルーム山の近くにある支援ギルドから報告があった」
そういえば、支援ギルド同士で電話みたいなやり取りが出来るって言ってたな。
「どんな風におかしいんだ?」
「普段は山から出ないモンスターが平地に現れたり、小さな地響きが多発したりだ」
「山からモンスターが下りて、地響きが……って!?」
何となく予想がつく。
「恐らく噴火の兆候であろう」
やっぱり。
「そんなの調査よりも、避難する準備が先だろ!!」
調査なんて暢気なことを言っている場合じゃない!
「慌てるな。兆候があったからといって、今すぐに噴火するか分からん。明日かも知れんし、1ヶ月後かもしれん。1年後……いや、実は噴火の兆候ではないのかもしれん」
「しかし、そんなことを言って、もし間に合わなかったら……」
「貴様はそう言うが、その場に住む者にとってはそう簡単にいかん。いつ噴火するか分からん状態で、いつまで避難し続ければいい? その間の生活はどうする? 畑は? 家畜は? 実際に噴火をすると確定できん限り、そこに住む者が逃げることはない」
まぁ日本だって、避難しろって言っても、ウチは大丈夫だと思うと避難しない人は多いらしいからな。
予想だけじゃ動かないってことか。
「……だから調査が必要なのか」
「そうだ。噴火をするのか、それとも他の要因があるのか。その調査を頼みたい」
「地元の冒険者はどうなんだ?」
「地元の冒険者は山から下りてきたモンスターの討伐をせねばならん」
「そんなに多くのモンスターが山から下りてきたの?」
「いや、現時点ではそこまで多くはないようだが、大量に発生した場合に備えて、防衛の準備は万全にせねばならん」
そこに気をつけるなら、やっぱり避難する準備をしたほうがいいと思うけど……
「ちなみにどんなモンスターがいるんだ?」
「蛇や蜥蜴など、爬虫類型モンスターが多いな。当然属性は火が多い」
なるほど。
流石はドラゴンが棲む山だ。
それっぽい感じのモンスターが多いんだな。
「ちなみにドラゴンはどんな種類なんだ?」
ドラゴンと言っても形は様々だ。
定番の恐竜のようなドレイクタイプや、ワイバーンのような飛竜タイプ。
願いを叶えてくれそうな細長い龍タイプに、複数の頭を持つヒュドラタイプ。
他にも蛇や蜥蜴、ワームが巨大化したようなのもいるだろう。
外皮だって硬い鱗タイプ、毛並みのあるモフモフタイプ、ウナギのようなヌルヌルタイプだっていそうだ。
「種族までは分からんが、目撃証言では翼のあるドレイクタイプのドラゴンだそうだ」
翼のあるドレイクタイプか。
一番ありふれた形のドラゴンっぽいな。
「正直ドラゴンを相手にするのは止めておけ」
「……やっぱり強いの?」
「そりゃあ強いだろ。だが、それだけでなく、昔からそのドラゴンが噴火を抑えていると言い伝えられておる。もしそのドラゴンを倒した場合、本当に噴火してしまうかもしれん」
……そんなこと言われたら、遭遇しても倒せないじゃん。
でもまぁ爬虫類系モンスターを手に入れるチャンスだし……本当にドラゴンが欲しかったら、そこから合成で作ればいいか。
「ちなみに場所はどこだ? ブルーム山なんて、このあたりの地図には載ってなかったと思うけど?」
「そりゃあここら辺の地図には載ってないだろうな。ここからなら、馬車で1ヶ月以上掛かる」
「1ヶ月!? そりゃあ遠すぎるだろ!」
それから調査とかいくらなんでも遅すぎるだろ。
「心配するな。依頼を受けるなら、最速で最寄りの支援ギルドまで届けてやる」
「……どうやって?」
俺がそう尋ねるとギルマスがニヤリと笑った。
「空を飛んでだ」




