番外編3 スライムマスター
次の日、ギルドの前に一人の男性が待ってた。
年は……20代中頃だろうか。
肩に紫色のスライムを乗せているのが特徴的だ。
「アンタが見学者か?」
「はい。サマナーのシュートって言います。来てくれたってことは、見学してもいいってことですか?」
「ああ。スライムを使った下水道掃除のコツを知りたいんだろ? 別に構わんよ」
「ありがとうございます! え~っと……」
「ああ、俺の名前はシオン。そして、こっちがスーラだ」
《スーラなの! よろしくなの!》
「えっ!? 今声が……」
いきなり頭の中に直接声が聞こえてきた。
「んっ? 念話は初めてか?」
「……念話?」
「ああ、コイツはちょっと特殊なスライムでな。声を発っさずに、直接語りかけることが出来るんだ」
《ふふーん。そこら辺のスライムとはわけが違うの!》
……見た目はどこにでもいそうなありふれたスライムだ。
あっでも、紫色のスライムは始めてみるな。
「そのスライム……普通のスライムっぽいですけど、種族はなんですか?」
「ああ。アークスライムって種族だ」
「へぇ。聞いたことのない種族ですね」
《当たり前なの! アークスライムはスライムの女王様なの! とっても偉いの!》
……王じゃなくて女王なのか。
というか、スライムにも性別はあったんだな。
珍しいなら、とりあえず登録……っと。
後で確認しよう。
「それで、アンタ――シュートって、呼ばせてもらうな。俺のこともシオンでいい。シュートのスライムはどこだ?」
「あっ、俺のスライムは下水道で紹介しますね」
一応サマナーって知られているから、召喚はするのだが、流石にここでは召喚を見せたくない。
「そうか、じゃあ早速移動しようか」
「あっ、よろしくお願いします」
俺は移動前に握手を求めた。
ついでにこのシオンって人のスキルも確認したい。
「ああ。よろしく」
シオンは快く握手に応じてくれた。
よし、多分登録出来たはずだから、後でスキルを確認しようっと。
****
道中でシオンは自分の冒険譚を語ってくれた。
吸血鬼と戦ったり、海の中に潜ったり……天使と戦ったこともあるそうだ。
まぁ冗談めかしていたし、荒唐無稽すぎるから、作り話だろうが……看破スキルは発動しなかったんだよなぁ。
少なくとも、シオンの話が面白くて、気がつくと友達のように意気投合していた。
「相変わらず、下水道は汚いし臭いし……さっさと終わらせよう」
シオンの言うように、下水道は思わず顔をしかめたくなるような悪臭を放っていた。
こちゃあナビ子が来たくないのも理解できる。
俺もさっさと終わらせたかったので、トリックスライムを召喚する。
もちろんカードはシオンに見えないように気をつけた。
「へぇ。トリックスライムか。中々レアなスライムを持っているんだな」
《トリックちゃん。あの子以外で初めてみたの!》
下水道で俺のスライムを見たシオンは感心したように言う。
もっとトリックスライムのことを知っている……というか、見たことあるようだ。
「……見たことが?」
「ああ。実はあんまり知られていない場所に、スライムばっかりが住む島があってな。そこにいるんだ」
「スライムだらけの島に行ったことが?」
図鑑説明文にあったスライム島だ!
まさか知っている人に出会えるなんて……
「まあな。スーラはそこのボスだから、定期的に足を運ばないと、スライム達に怒られてしまうんだ」
《ボスって言うななの! ちゃんと女王って言うの!》
どうやら女王はネタではないようだ。
というか、それ以上に気になることがある。
「……お前、なにしてんの?」
俺のトリックスライムがスーラの前でプルプルしている。
ちょっとかわいい。
「はぁ。やっぱりこうなるか」
シオンには何をしているか分かるらしい。
「どういうことだ?」
「さっきも言ったが、スーラの種族であるアークスライムは、スライム族の頂点に位置するから、全スライムがひれ伏すんだ」
《面をあげていいの》
スーラの言葉でトリックスライムが震えるのを止める。
……あれ、頭を下げた行為だったんだ。
「要するにアークスライムってのは、ゴブリンキングみたいなものか」
《あんな下等なモンスターと一緒にするななの!》
俺がそう言うと、スーラに怒られた。
ゴブリンはスライムよりも劣る種族……と。
「それで、掃除の仕方はシュートに教えればいいのか?」
シオンの質問はサマナーの召喚能力が使い捨てってのを知ってるからだろう。
「いや、俺のスライムは特別製だから……このスライムにやり方を教えてくれればいいよ」
「……ふ~ん。まぁそうじゃなきゃ、こんなところでトリックスライムなんか出さないか」
シオンは少し訝しむけど、深くは追求しなかった。
詳しい能力の秘密は探らないのが冒険者のマナーだからな。
まっ、さっきまで話したイメージだと、シオンなら周りに言いふらしたりはしないだろう。
《それなら、まとめて面倒見るから、この子以外にも持っているなら皆だすの。下水道は広いから、皆で一気に終わらせるの》
確かにスーラの言う通り、下水道は広い。
俺は言われた通り、全スライムを召喚する。
《凄いの! スノーちゃんにレオンちゃんもいるの!》
「ああ、他にもシャドースライムやバードスライムもいるぞ。……流石にデモンスライムはいないようだが、よくこれだけ集めたなぁ」
俺の自慢のスライム達の種族が簡単に当てられていく。
しかも、シオンはこれ以外にも、別のスライムも知っているようだ。
つーか、ウチのスライム達、全員スーラにひれ伏してるし。
アザレアの言ったとおり、ウチのスライムよりも凄いスライムだったよ。
「よし、じゃああっち側はスーラに任せた。ソイツらを鍛えてこい。……いいよな?」
「あ、ああ……お願いする」
シオンの言葉に頷くことしか出来ない。
《がってんなの! じゃあ皆、お掃除するから、まずは大きくなるの!》
そう言うと、スーラが大きく膨らむ。
「いやいやいや! 大きくって……ええ?」
ウチのスライムはそんなスキルは持ってないぞ。
案の定、戸惑うウチの子達。
《やったことないなら、気合いでやるの!》
スーラの気合いのこもった念話にウチの子達にピシッと緊張が走る。
そして、次々と巨大化していく。
おいおい、どうなっているんだ?
《ほら、ちゃんと出来るの! じゃあシオンちゃん。行ってくるの》
スーラは触手のような手を生やして、元気に振る。
元気に手を振りながら移動する巨大なスライムと、その他大勢の巨大なスライム。
ものすごくシュールな光景だ。
「おお。早めに帰ってこいよ」
シオンはその光景を何でもないかのように見送る。
……いかん。何もかも、向こうの方が上だ。
「さっ、こっちも早く終わらせてしまおう」
シオンはそう言いながら、ポケットから何か取り出す。
「……魔石?」
「魔石じゃなく、魔道具だな。これは中に魔法を封じ込めることができるんだ。自分じゃ使えない仲間の魔法を封じておくと便利なんだ」
最近覚えたブランクカード作成と似たような魔道具だな。
俺には必要ないけど、確かに便利そうだ。
「それ、どこかで売ってたりする?」
「う~ん。この魔道具は仲間のお手製だから、非売品なんだ」
そりゃそうか。
というか、そんな便利な魔道具があったら、アザレアが既に話しているはずだ。
「ちなみにその中にはどんな魔法が入ってるんだ?」
「仲間のオリジナル魔法【キレイキレイ】が入ってる」
「はっ? キレイキレイ?」
なんともふざけた名前の魔法だ。
「ああ。見てろよ……」
シオンがそう言いながら魔道具に魔力を込めると、魔道具から光が放たれる。
俺が眩しくて、思わず目を閉じる。
目を閉じていたのはほんの一瞬。
だが、目を開けた時、下水道は見違えるように綺麗になっていた。
さっきまでの悪臭は無くなり、壁もワックスがけしたように輝いている。
それどころか、水まで透き通っているんだが!?
「なっ、何をしたんだ!?」
「だからキレイキレイの魔法を使ったんだ。この魔法は、汚れという汚れをキレイに洗い流す効果がある。……ちょっと試してやろう。別に溺れないから心配するな」
溺れる?
どういうことか尋ねる前に、シオンは俺に向かってキレイキレイを使う。
さっきとは違い、光を放つことはなく、代わりに水の塊がでて、俺を包み込む。
……確かに溺れない。それどころか、濡れていない?
考えている間に、水の塊は俺から離れ……消滅した。
「うわぁ……なんだこれ!?」
全身マッサージ、アカスリ、サウナ、温泉、ありとあらゆる癒やしを経験した後の爽快感。
まるで生まれ変わったかのような感覚だ。
「なっ、気持ちいいだろ。これさえあれば、風呂も洗濯も必要ないんだ」
シオンはそう言ってニヤリと笑った。
****
「……それでどうなったのさ?」
ナビ子が先を促す。
「スライムたちが戻ってくるまでシオンと駄弁って解散した」
本当はキレイキレイの魔法が欲しかったが、あれっきりシオンは使ってくれなかった。
魔法の覚え方や魔道具を売ってくれなど、色々と交渉したが、はぐらかされて終わった。
「しかも、シオンと別れる時、どうやって別れたと思う?」
「はぁ? 普通に別れたんじゃないの?」
「それがさ、シオンにはスーラ以外にもう1匹モンスターがいてさ。それに乗って街から出ていった」
「……どんなモンスターだったの?」
「白いグリフォン。ホーリーグリフっていうレア種だそうだ」
「なんか聞いてるだけで、とんでもない人みたいだね。本当に中堅冒険者なの?」
「一応な。でも、それはシオンがモンスターを倒さないから経験値が入らないだけみたいだ」
「でも、従魔が倒しても経験値は貰えるんじゃない?」
「いや、実はシオンはテイマーだけど、スキルを使っているわけじゃなく、スーラとグリフォンが勝手に従っているだけだから、経験値は貰えないらしい。ま、俺みたいな特別枠って感じだな。だから……実力的には超上級だと思う」
「そう言えば登録したんだよね? どうだったの?」
「何も分からなかった」
シオンのスキルも、スーラも、グリフォンも情報がわからない。
スキルでガードしていたのか、それとも……。
「まぁ出来れば二度と関わり合いたくないかな」
あんな全てにおいて規格外の存在がいるなんて思わなかった。
今の俺じゃ全く太刀打ちできそうもない。うん、俺も負けてられないな。
これにて番外編は終了となります。
次回から4章の投稿となります。
なお、番外編ですので、シオンやスーラ、その他のスライムは本編で登場予定はありません。
もしシオンとスーラが気になった方は、私の前作、ロストカラーズもよろしくお願いします、
きっも今回以上に大暴れしていると思います。




