番外編2 下水道依頼
「実に興味深い研究でした」
満足そうな表情のアザレア。
結局買ってきたグリーンスライムが無くなるまで合成し続けた俺とアザレア。
属性別のスライム以外にも面白そうなスライムがたくさん誕生した。
「わたくしのイチオシはこのスライムですね」
アザレアが1匹のスライムを持ち上げる。
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スマートスライム
レア度:☆☆☆☆
固有スキル:魔の覚醒、分解、消化
スライム系上級モンスター。
非常に賢いスライムで魔法も使える。
賢者スライムとも呼ばれる。
非常に珍しく、とあるスライムの島にしか生息しないとされている。
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「賢くて魔法が使えるスライムってスゴいよな」
「ええ。賢者スライムという響きが気に入りました」
「なるほど。俺のイチオシはこいつだな」
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トリックスライム
レア度:☆☆☆☆
固有スキル:千差万別、分解、消化
スライム系上級モンスター。
変幻自在のスライム。
姿形を変えられ、トリッキーな動きが得意。
非常に珍しく、とあるスライムの島にしか生息しないとされている。
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「変幻自在のスライムって面白そうだろ」
他にもバードスライムやカメレオンスライム、シャドースライムなど色々と誕生したが、中でもコイツが一番面白そうだった。
「確かにそのスライムも面白そうですね」
アザレアも納得する。
「だろ? だから、今回はコイツと一緒に依頼をしようと思うんだ」
「……下水道掃除の依頼ですね」
「ああ。まだ残ってるんだろ?」
アザレアに聞いたのだが、まさか1ヶ月近くも放置されているとは思わなかった。
こうなると、あの時放置したのが申し訳なくなってくる。
「あの子に悪いことしちゃったからなぁ」
「ミーナさんのことですね。あれからシュートさんがギルドに足を運ばないから、自分のせいかと気に病んでおられましたよ」
「えっ、マジで?」
確かにあれから支援ギルドには行ってない。
……自分が下水道の依頼を薦めたから俺が来なくなったと思っているのか?
「一応、わたくしがフォローを入れておきましたが、わたくしも少し距離を置かれているようですので、どうにも……」
例の噂の一件がまだ尾を引いているようだ。
「よく知らない俺が言うのも何だけどさ。あの子……少し自虐的っつーか、ネガティブな子だな」
「……ええ。わたくしも最近そう思うようになりました」
アザレアがため息交じりにそう答えた。
せめて誤解だけでも解いておくかな。
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「あっシュートさん。それにアザレアさんも……」
ギルドに入ると、受付にいたミーナに迎えられた。
ミーナは若干気まずそうだ。
「ミーナさん。シュートさんが下水道掃除の依頼を受けてくださるそうですよ」
「えっ? でも……」
「今日は嫌がってたナビ子もいないし、スライムも手に入れてきたからな」
「……もしかして、この依頼のためにわざわざスライムの準備を?」
ミーナは申し訳なさそうに言う。
「ははっ、依頼のためならもっと早く準備するよ。たまたま手に入れることが出来たから、ついでに依頼を……って感じかな。それより、俺の方こそ依頼を放置しっぱなしでごめんな」
「いえっ!? 別に正式に受けたわけではないので、シュートさんは悪くありません。私の方こそ、変なことを頼んでしまって……」
「別にギルド職員が冒険者に依頼をお願いすることは当然だろ? むしろ、困っていたのなら、アザレアみたいに無理やり俺に受けさせようってくらいでいいんだぞ」
「むぅ。わたくしはそんなことをした記憶はありませんが?」
「似たようなことは何回もあるだろ。ってことで、あんまり気にしないように」
「はい。ありがとうございます」
ミーナの表情が少し和らぐ。
まだまだ固いけど、少しは楽になったかな?
「でも……その……あの依頼なんですけど、すでに受ける方が決まってしまいまして……ごめんなさいっ!」
「あっ……そうなんだ」
アザレアの話だと昨日まではあったようだから、入れ違いだったようだ。
まぁこればっかりは仕方がないかな。
「受けられたのは、もしかしてあの方ですか?」
「ええ。あの方が久し振りに来てくださいました」
「……誰?」
俺は気になって2人に尋ねてみた。
「えーと、以前テイマーの方が定期的に下水道掃除の依頼を受けてくれるとお話ししたと思いますが……」
確か中堅冒険者でスライムをテイムしている人だよな。
その人が不在だから、下水道掃除の依頼が残っていたと言ってたけど……
「そのテイマーが帰ってきたのか」
「正式には、その方はこの街の冒険者ではなく、流れの冒険者なのですが、定期的にこの街にも来てくれるんですよ」
拠点を持たずに旅する……まさに冒険者って感じの人なのかな?
「まぁ依頼を受けてくれる人がいたなら良かったよ」
別に俺もお金には困っていないから、無理に依頼を受けたかったわけじゃないしな。
「シュートさん。あの方のスライムはとんでもないスライムですよ。おそらくシュートさんが持っているどのスライムよりも格上です」
なぬ?
俺のスライムよりも格上?
それは聞き捨てならない。
ウチのスライムは星5こそいないが、星4のスライムは何匹かいるんだぞ。
しかし、それはアザレアも知っていること。
そのアザレアが格上って言ってるんだから、事実なんだろう。
……もしかして、星5のスライムか?
そして、そのスライムをテイムしている中堅冒険者。
……俄然興味が湧いてきた。
「なぁ。依頼はその人がやっていいんだけど、見学ってさせてもらえないかな?」
「見学……ですか?」
「ああ。その人ってずっとこの街にいるわけじゃないんだろ? なら、今回みたいなことになったら、次は俺が依頼を受けれるようになりたいんだ。だから、どんな風に依頼をしているか見たくてね」
「え~っと、依頼は明日やるって言ってたから、ちょっと聞いてみますね。だけど……あまり期待しないでくださいね」
冒険者は自分の能力を大っぴらにしないから、断られる可能性があるそうだ。
まぁ俺だってそうだから、無理にとは言わない。
ミーナが今日の夜にその冒険者の泊まっている宿を訪ねて確認してくれることになったので、今日のところは帰ることにした。
もし見学を許してくれるのなら、明日の朝その人がギルドに来てくれることだろう。




