番外編1 スライム購入
今回から番外編。
ナビ子不在中に受けた依頼の話になります。
「アザレア。今日ちょっと付き合ってくれないか?」
アズリアとの密談をした次の日の朝、俺はナビ子へのアリバイ工作のために仕事をすることにした。
「……今度は何を企んでいるので?」
アザレアが疑いの目で俺を見る。
「企むなんて人聞き悪いな。単純にナビ子が居なくて暇なんだよ」
アザレアにもナビ子が不在なことは伝えている……というか、この場に居ないんだから何も言わずとも分かっている。
ただ、アザレアの場合はナビ子が妖精の国に帰っていると思っているが。
「わたくしを単なる暇つぶしの相手にしようなどと……」
「いや、言い方が悪かったけど、そういう意味じゃなくてさ、冒険者支援ギルドの依頼を受けようと思っているんだ」
「それでは支援ギルドに行けばいいだけじゃありませんか」
アザレアは少し不貞腐れながら答える。
よほど暇つぶしの相手って言われたのが気に障ったようだ。
「その前に買い物に行きたくてさ。その買い物に付き合ってほしいんだ。嫌ならアズリアに頼むけど……」
「あら、私はいつでも構いませんよ」
「誰も嫌とは言ってないでしょう! それでどこに付き合えばよろしいので!」
俺とアズリアの挑発にアッサリ乗るアザレア。
ふっチョロいな。
「とりあえず……スライムを買いに行きたいんだ」
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「……ほら、スライムってモンスターじゃん。俺さ、もっと取り扱い注意とか、厳重なイメージがあったんだ」
それが、露天で普通に売られているなんて、誰が想像できるか。
販売していたのは引退したテイマー。
スライムの養殖をしながら生活しているそうだ。
「もちろん種族によっては凶悪なスライムもおります。露天で販売が許可されているのは無害なグリーンスライムのみです」
販売されていたのはグリーンスライムと呼ばれる種族。
手のひらサイズで、ひんやりぷにぷに。
水風船を持っているような感じだ。
「グリーンスライムはモンスターというよりは、ただの単細胞生物に近いですからね。近くのものを吸収することしか出来ません」
ゴミ箱を用意して、その中にゴミを入れれば勝手にゴミを食べてくれる。
その際に魔力を込めて命令すれば、ゴミ箱を吸収することもない。
寿命も短く、半月くらいすると消滅してしまう。
金額も1匹銅貨2枚と大変お得な金額。
本当に生物というよりは便利道具に近い。
「でも……シュートさんはここから強いスライムを作り出すんですよね?」
「ああ。せめて意思のあるモンスターにはしたいもんな」
とりあえず俺は露天のグリーンスライムを買い占めた。
100匹近いスライム手に入ったので、ここから合成して強いスライムにする。
それにしても……100匹を買い占めても、次の日には補充ができるほど養殖は簡単らしい。
スライムの生態調査も面白そうだよな。
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「では次は合成ですね」
結局アザレアは買い物の後も俺に付き合った。
そもそもアザレアにとっては、買い物よりも合成のほうが興味があるだろうからな。
まずはグリーンスライムをカードにする。
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グリーンスライム
レア度:☆
固有スキル:分解、消化
スライム系下級モンスター。
触れたものを分解、消化するだけの存在。
家庭の清掃補助として重宝されるが、躾のされていない野生のグリーンスライムを素手で触ると、消化による熱傷になるため注意が必要。
中心にある核を傷つけられるだけで消滅する。
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説明文まで便利グッズ扱いを受けている。
でも、野生なら注意が必要……か。
養殖するのも技術が必要なのかもしれない。
「よし、まずこのグリーンスライム同士を合成してみよう」
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アメーバスライム
レア度:☆
固有スキル:分解、消化
スライム系下級モンスター。
触れたものを分解、消化する。
体のどこからでも分解、消化ができるため、素手で触るのは危険。
他のスライムとは違い、魔力で体を覆っていないので、弱点の核も傷つきやすい。
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グリーンスライムのような水風船タイプじゃなくて、アメーバのようなぐじゅぐじゅタイプのスライムだ。
……毒とか持っていそうだな。
にしても、興味深いことが書いてある。
他のスライムは魔力で体を覆っている……か。
「グリーンスライムや他のスライムが球体なのは、魔力で表面を覆っているからなんですよ。それにより、核を守ることにもなるのです」
なるほど、水風船みたいな表面は魔力で覆っているからなのか。
「じゃあこのアメーバスライムってグリーンスライムよりも弱いんじゃ……」
要するにグリーンスライムの中身が剥き出しってことだろ。
「ですが、触ると危険な方はこちらの方ですね」
グリーンスライムが分解、消化を行うには表面の魔力を解除しないといけない。
だから、触れた時すぐにダメージになるアメーバスライムの方が危険なのだそうだ。
「そういえば、スライムを連れた冒険者の方が以前面白いことを言っておられました。スライムが魔力で体を覆うのは服を着ている感覚だそうで、アメーバスライムは裸でいる恥じらいのないスライムなのだそうです」
「恥じらいとか……スライムにそんな感情があるのか?」
「感情がないのがアメーバスライムで感情があるのが他のスライムになるのでしょうね。まぁその理屈ならグリーンスライムにも感情があることになりますが。もしかしたら、上位種のスライムはそんな感じなのかもしれませんよ」
「なるほど……よし、もっと色々と試してみよう」
その後も色々と合成をして試してみた。
まずは各属性の魔法との合成。
火属性のマグマスライム☆☆
水属性のアクアスライム☆☆
氷魔法のスノースライム☆☆☆
風属性のスラウイング☆☆
地属性のアーススライム☆☆
雷属性のしびれスライム☆☆
光属性のホーリースライム☆☆
闇属性のダークスライム☆☆
中々個性のあるスライムたちだ。
「……スノースライムだけ星3なんだな」
氷だけ水属性からの派生だからか?
「スノースライムは美しいスライムですね」
確かに。
水色の透き通ったスライムは、他のスライムよりも輝いている気がする。
それに、触ると冷たくて気持ちいい。
「魔法じゃなくてブレス攻撃になるのですね」
「どうやらそうみたいだな」
このスライム達は、魔法と合成させても素質系のスキルは覚えなかった。
なので、魔法は使えない。
代わりにブレスとして属性の息を吹きかけるようだ。
「複数の属性と組み合わせたり……属性以外のスライムも試してみませんか?」
アザレアはすっかり合成の魅力に取り込まれてしまったようだ。
まぁ俺も他にどんなスライムがいるか、楽しみで仕方がないけどね。




