第132話 レア度
「はぁ……とりあえず、アズリアがサマナー能力を知っていたのかは分かったから、鑑識眼の話の続きをしよう」
3人に不当に詰られた俺は、少し強引に鑑識眼の話題に戻した。
これ以上、変な言いがかりをつけられたくない。
「そうは言いましても、鑑識眼のスキルに関しては、もう説明しましたよ。これ以上何を説明すればいいのでしょう」
確かに。
物に特化した鑑定スキルってことは既に聞いた。
「……それって触らないと鑑定できないのか?」
俺は気になっていたことを聞いた。
「納品の時に全てに触れていたからですね。別に触らずとも、普通の鑑定はできます。ですが、隠された能力まで視るには触れる必要があります」
俺の納品した武器は、それぞれ能力が微妙に違うから全部触る必要があったそうだ。
「それと……これは姉さんにも話したことがないと思いますが、詳細な内容以外にも、レア度と呼ばれるものを見ることができます」
「「レア度!?」」
俺とアザレアが驚く。
「……その驚き方ですと、2人ともレア度の存在は知っているようですね」
「……俺はカード化スキルの能力で表示される」
「わたくしはシュートさんからお話だけは伺いました。てっきりカード化だけの特殊な能力かと思いましたが……」
俺もそう思ってた。
「私もレア度の存在を知っている人は初めてです。私がレア度を確認できるのは、鑑識眼が発動する物だけですが、シュートさんのカード化では、全てのカードにレア度があるのですか?」
「……どこにでもありふれたものはレア度は付かないが、基本的にどの図鑑にもレア度は存在する」
「そうですか。では、魔法のレア度やスキルのレア度が確認できる神眼スキルもあるかもしれませんね」
神眼スキル!?
そのスキルはこの間、シャドービーの説明文で見た気がする。
「神眼スキルって?」
「わたくしの観察眼やアズの鑑識眼のように、眼に関するスキルのことです。持ち主が少なく、あまり研究が進んでおりませんが、神のように全てを見通す眼、ということで、神眼と呼ばれております。スキルの中では最上位に位置しております」
スキルのことだからか、アズリアの代わりにアザレアが答える。
「ウチのモンスターは、何体か魔眼ってスキルを持っているけど?」
「魔眼は神眼とは対極の存在と言えばいいでしょうか。同じく最上位クラスの強力なスキルですが、魔眼は攻撃することを主としています。神眼は、調べはするものの、傷つけたりはしません」
傷つけると傷つけないか。
神眼も人の秘密を暴くんだから、十分に傷つけると思うが……これは言わない方がいいか。
「まぁとにかく眼関係のスキルはめっちゃスゴいってことだな」
うん。
それだけ分かっていればいい気がする。
「……身も蓋もないですが、そういうことです」
それにしても……滅多に存在しないスキルを、姉妹で持っているのは偶然なのか?
「……もしかして、アゼリアも神眼スキルを持ってたりする?」
俺がそう質問すると、2人が俺からそっと眼をそらした。
「それはわたくしの口からは申し上げられません」
「それに関しては、私からは何も言えません」
……この反応は間違いなく持ってるな。
う~ん。知れば知るほど、アゼリアに会うことが怖くなってくる。
****
「なぁナビ子。レア度って何なんだろうな」
2人が帰った後、俺はナビ子に尋ねてみた。
「う~ん。それはアタイにも分かんないよ」
ナビ子も首を捻る。
「確か以前、レア度は入手難易度って言ってなかったか?」
「そう教えられていたからね。でも……前に言ったと思うけど、図鑑の説明文は最初からこの世界にあったものなの。異界シリーズはその説明文を元に運営が書いたの。だからレア度がないんだよ」
うん。そんな話だった覚えはある。
「でもさ、この世界にレア度の概念はないから、通用しないって言ってなかったか?」
「実際にアズリア以外は認識してなかったじゃない。アズリアが異常なだけよ!」
まぁ確かにアズリアは異常だな。
あの後もアズリアの鑑識眼について確認したが、どうやら物に関しては、触ると図鑑の説明文と同じものが見えていることが判明した。
鑑識眼の能力は若干違ったが、それでも予想通り、異界シリーズに関してはバレバレだったというわけだ。
まぁそれでも日本の単語は見当たらないから、やはり俺が日本人ということを知っている理由にならない。
「アズリアはレア度も分かるし、大きな商会主だから、図鑑集めに大いに貢献してもらえるね!」
「……そうだな」
その事実を知らないナビ子は気楽である。
「でも、アズリアはアザレアと違って、シュートを悪の道に走らせようとするから、油断できないけど」
「なんだよその悪の道って……」
「もちろん最後に貰ってたアレだよ!! シュートもさ。素直に貰うなんてどうかしてるよ!」
ナビ子が言ってるのは、帰る直前にアズリアが俺にくれた紙切れのことだ。
『これをお持ち戴けましたら、最高級の持て成しを保証いたしますよ』
アザレアにそう言われて受け取ったのは、娼館の紹介状だった。
もちろんナビ子とアザレア、ついでにラビットAから罵詈雑言の嵐だった。
だが、それでも俺は紹介状を捨てなかった。
別に娼館に興味があるからでは……いや、多少興味はあるが、それが理由ではない。
紹介状の裏に、アズリアからのメッセージが書いてあったからだ。
『あの日の話の続きを希望される場合は、お一人でこの娼館まで足を運んでください』
そう書いてあったから、捨てるに捨てられない。
「……いいだろ別に。俺だって男なんだからさ」
だからナビ子にもそう言って誤魔化した。
「言っとくけど、アタイはぜぇ~ったいに付き合わないからね!」
「俺だってナビ子同伴で娼館は嫌だよ」
多分それを見越してアズリアも娼館を選んだのだろう。
「ナビ子、例の定例会って来週くらいだろ? その時に行ってくるよ」
まぁ来週まで待てばナビ子は不在になるからいらぬ気遣いだったけど。
「……アタイが報告している間に、女遊びをして待ってるとか、よく平気な顔で言えるね」
ナビ子がクズ男を見るような目で俺を見る。
うう……反論したいけど、出来ないのが悔しい。
「たまには息抜きだって必要ってね。ナビ子が戻ってきたら……少し遠出をしてモンスターを捕まえに行こう」
「遠出か~。いいねっ! どこに行こうか?」
どうやら遠出の方に興味がいったようだ。
俺とナビ子はしばらくの間、遠出について語り合った。




