第130話 ブランクカード
「すいません。少々取り乱しました」
「いや、それがデメリットだから仕方ないよ」
ようやく落ち着いたアザレアにポーカーフェイスの能力を説明した。
「――感情が一定値を越えると、逆に読み取られやすくなる……ですか」
「ああ。本当に知らなかったのか?」
「ええ、お恥ずかしながら。わたくしは幼い頃からこのスキルを持っていましたが、スキルについて調べても、デメリットのことなど書いておりませんでした」
俺もそうだが、自分が何のスキルを持っているかなんて分からない。
調べる方法は鑑定屋で調べるとか、冒険者カードなど身分証に書かれているのを確認するかだ。
アザレアの場合は住民証辺りでスキルを知って、効果を調べたんだろう。
「観察眼でも分からなかったのか?」
「実は観察眼のスキルは自分を調べることが出来ないのです」
「えっ? そうなの?」
「なにせ『眼』ですから。直接自分を視ることはできません」
「鏡を使っても?」
「ええ。観察眼は直接その物を視ることが条件ですから、鏡を視ると鏡の詳細が鑑定されます」
なるほどな。
「それに、今まではポーカーフェイスのデメリットは、殆ど発動したことがありませんでした。ですので、最近少しおかしいくらいにしか思ってなくて……」
……おかしくなった理由は聞かない方が良さそうだ。
「まぁこれからはデメリットが発動すれば、すぐにスキルを切ればいいだけだろ」
「……それは難しいと思われます」
「そうなのか?」
「ええ。スキルを切るなど、冷静な判断が出来るのなら、最初から取り乱したりなどしません」
俺は先程のことを思い出す。
確かにあんな状態でスキルの発動などとは考えられないだろう。
「ですが、理由がわかれば対策もしやすいです」
「使わない選択肢はないんだ」
「ええ。やはり感情や思惑、スキルを読まれることがないのは、デメリット以上にメリットがありますからね。だからこそ、観察眼以上に知られたくないスキルでもありますが。実は家族以外は誰も知らないスキルだったのですよ」
……だからこそ、俺が知っていると知って、あれだけ動揺したのか。
「さっ、わたくしのスキルのことよりも、カード化スキルのことを教えて下さいまし」
アザレアはこれ以上話したくないのか、強引に話題を変える。
俺もこれ以上詮索するのは野暮だと思い、カード化の話に戻ることにした。
「ああ、アザレアに協力してもらいたいのはこれだ」
俺は1枚のカードを取り出す。
何も書いてないまっさらなカードだ。
「何も書かれてないようですが、これは……?」
「ブランクカードだ。ブランクカードの説明は以前したよな?」
アザレアにはレベル2の合成までは説明済みだ。
「ええ。ウサちゃんにスキルカードを使う際に説明していただきました。ですが、ブランクカードは白黒の画像か、消滅するかのどちらかではなかったのですか?」
ラビットAを召喚したら、ラビットAのブランクカードはカラーから白黒に変わるだけ。
イラストが無くなるわけではない。
そして、消耗品を使い切ったり、カードを解除すれば、そのブランクカードは消滅する。
そのため、本来なら何も書いてないまっさらなブランクカードは存在しない。
「本当なら存在しない中身が空っぽのブランクカード。このカードの使い方は、カードに戻すじゃなくて、カードに入れるだ」
「カードに入れる……ですか。でもシュートさんはブランクカードがなくてもカード化できるのでは……まさかっ!?」
「そう。このカードは俺が使うんじゃなく、別の人が変化を使うためのカードだ」
これがレベル8の能力【ブランクカード生成】だ。
俺が使うわけじゃなく、他人に使ってもらう能力になる。
「で、ではこのブランクカードがあれば、わたくしもカード化を使えるわけですね!」
……まぁここまでの説明だと、普通はそう考えるよな。
「う~んと、とりあえず実践してみよう。とりあえずアザレアはこのカードに何か魔法を使ってみてくれ」
「魔法ですか? ……そうでしたね。わたくしが魔法を使えることも、既にご存知だったんですよね」
アザレアのジト目に俺はさっと目を逸らす。
「ま、魔の極意なんて凄いじゃないか。ラビットAなんかより遥かに凄いぞ」
ラビットAは進化しても魔の覚醒どまりだもんな。
「確かにスキル自体は優秀かもしれませんが、魔法は習得しなければなりませんからね。実際にわたくしが使える魔法は、ウサちゃんのような大規模な魔法は使えません」
そっか。
才能はあっても、魔法カードで簡単にってわけにはいかないもんな。
「それでも、多少の魔法は使えますけどね」
「じゃあその魔法を使ってみてくれないか? 攻撃魔法でも回復魔法でも何でもいい。カードを持ってその魔法を発動させようとすれば、魔法が発動せずにカードの中に入るんだ」
「へぇ……では」
アザレアが何か魔法を発動させると、カードが一瞬だけ光る。
「……これでよろしいのでしょうか?」
俺はアザレアからカードを受けとる。
――――
フレイムエンチャント【火属性】レア度:☆☆
初級火魔法。
一定時間対象に火属性の効果を与える。
既に火属性の物や反する水属性の物には付与できない。
――――
「フレイムエンチャントか……エンハンサーが使う魔法なのか?」
「そうですね。これがあれば、普通の武具で属性武具の代用ができます。ですが、効果は数分が限界です。それに、使用した後は整備しませんと、武具が劣化して壊れやすくなってしまいます」
ちょっとした時には便利だけど、長期的なことを考えると属性武器のサブウェポンを持つ方が良さそうだ。
「とまぁ、これでこのブランクカードの入れ方は分かったと思う」
「魔法以外はどうやって入れるのですか?」
「……残念ながら、魔法以外は入れることが出来ないんだ」
このレベル8のブランクカード生成では魔法しか入れられない。
もちろんカードに魔法を入れた後は、普通の魔法カードと変わらない。
誰かに覚えさせてもいいし、直接使用してもいい。
魔法は使いきりなので、使用したらカードは消滅する。
……正直いうと微妙な能力だ。
そもそも、魔法なら発動したのを直接触ればカードにできる。
まぁ魔法が発動しないから、星3以上の危険な魔法も簡単にカードにできるくらいか。
でも……もしこのカードにスキルも入れられたら、本当に使える能力だったんだけどな。
「魔法しかカードにできないのですか。それは残念ですが……魔力切れに備えて保存するのは悪くありません。それで……どうすれば発動できるんですか?」
「それなんだけど……残念ながら、カードを使えるのはカード化スキルを持つものだけ。アザレアができることは、ブランクカードに魔法を入れることだけだ」
「では……わたくしにできることは、シュートさんのために魔法を入れることだけ? 自分では使えない?」
「そっ、そういうことになるかな」
俺はアザレアから目を逸らしながら答える。
流石に少し気まずい。
だけど、次のレベル9になる為には、レベル8の使い込みが必要だ。
アザレアには協力してもらわないと困る。
「まぁ協力者ですからいいですけどね。ですが……ちゃんと今度こそ対価は支払って頂きますよ」
「……はい」
俺は頷くことしか出来なかった。




