第129話 アザレアの秘密
大変おまたせしました。
再開します。
「シュートさん。ここ数日、庭にあのウサちゃんの姿が見受けられないのですが……」
古参合成からしばらく経ったある日の朝。
アザレアが俺にそう問いかけた。
「えっ……ああ。他にもウサギはいるからな。交代制で出しているんだ。アザレアは仕事でいないけど、ラビットAは昼間にちゃんと外に出ているよ」
とりあえず俺はそう誤魔化した。
先日ナビ子と相談したように、アザレアには何も伝えていない。
一応嘘ではない。ちゃんと昼には庭に召喚して……アザレア達の気配を感じたらカードに戻るようにしている。
「そうですか。病気などではなく安心しました」
「ははっウチの子達は病気にはならないから、心配しなくてもいいよ」
「では、今日は久しぶりにウサちゃんと触れ合いましょう」
「……え?」
今、何て言った?
「あの……アザレアさん? 本日のお仕事はどうされるので?」
「本日はお休みです」
「えええっ!? 何で!?」
「何でと申されましても……わたくしだってお休みの日はございます」
「で、でもさ。今まで休みは取らなかったんじゃ?」
「それは休んでもやることがなかったからです。ギルドに立っていれば暇潰しにはなりましたからね。ですが、今はこうやってやることがありますから、お休みはしっかりと取りますよ」
「姉さんは今日が休みだったんですね。なら私も休みを取れば良かったです」
アズリアは残念そうに言う。
ここでじゃあ私も……と言わないってことは仕事が溜まってるのかな?
アズリアは少し名残惜しそうにしながら、俺の弁当を持って出勤した。
後に残されたのは俺とナビ子とアザレア。
「さてシュートさん。何か隠していることがありましたら、お聞きしますけど?」
アカン。完全にバレてる。
何故だ!? 嘘はついてないから、観察眼には引っかかってないはず!?
「最近は観察眼に頼らなくても、シュートさんの誤魔化し方がなんとなく分かってきました」
ドヤ顔で語るアザレア。
くそぅ。そんなこと学ばなくていいのに……というか、動揺して思わずさん付けしちゃったし、気づかないはずないか。
「あっアタイ外で遊んでこよ~っと!」
状況が不利だと悟ったナビ子が俺から離れようとする。
勿論逃さない。
俺は逃げ出そうとするナビ子をガシッと捕まえる。
「お前……逃げられると思うなよ」
「ちょっ!? 潰れる!? そんなに強く握ったら中身が出ちゃうよ!」
「どうせ中身なんてないだろ」
「あっひどーい! アタイにだって中身くらい……あるかもしれないじゃん」
「おふたりとも。いいからそこに座りなさい!」
「「はい!」」
俺とナビ子はその場に正座した。
****
「どうしてわたくしがいる場で行わないんですか!!」
ラビットAが進化した旨を伝えると、予想通りの反応を見せた。
アザレアはやはりラビットAが進化した姿よりも、合成する場面が見られないことに怒った。
「わたくしは協力者ですよね? 協力者の条件は研究に協力してくれることだったはずです。なのに何故!?」
「でもさ、合成とアザレアの研究は関係ないじゃん」
「関係大有りです!! カード化スキルを研究するためには、合成は絶対に切り離せないではありませんか!」
まぁそうだけど……
「それに、ウサちゃんの晴れ舞台を見ることが出来なかったなんて……ああ、こんなにも愛らしくなって」
「きゅみぃ」
アザレアはラビットAを撫で回す。
どうやら二足歩行になった姿もお気に召したようだ。
まぁウサ耳魔法少女姿を見せられたら誰でも……ねぇ。
「それにしても……可愛らしい衣装とステッキですが、とんでもない性能をしてますね。ステッキで魔法の威力が上がるだけでなく、魔力回復の効果もあるなんて……それに衣装の方も全ての魔法攻撃を軽減する服なんて普通ありませんよ」
どうやら装備を観察眼で確認したようだ。
星5製品なので、どこまで鑑定できるか気になったが、属性武器と同様に、観察眼でも全ては把握できなかったようだ。
「それも合成で作ったんだ。ステッキの方はアンブロシアの枝を素材に、ワンピースの方は魔力糸を素材に使ったんだ。アザレアが今言った効果の他にも追加効果もあるぞ」
俺がドヤりながら答えると、アザレアに睨まれた。
「はぁ……。シュートさんは本当に研究のお手伝いをしてくださる気があるのですか? ちゃんと仕事に見合った対価をお支払してください」
対価って……まだ殆ど働いてないだろ。
むしろ朝食と昼食を準備している俺の方が、よっぽど働いていると思う。
「分かったよ。ちょうどカード化のレベルが上がって、新しい能力が増えたから、その実験に付き合ってくれよ」
あれからカードモンスター達用の装備やアイテムを合成して、無事にレベル8に上がった。
そしてレベル8の能力が解禁されたんだが……レベル8の能力を使うには、アザレアの協力が必要不可欠だ。
だから、近々協力してもらうつもりだったから丁度良かった。
「新しい能力の実験ですか!? もちろん喜んでお手伝いいたします!!」
アザレアが目を輝かせる。
こういう姿を見ると、本当に研究者なんだなと思う。
「それで、わたくしは何を……とりあえずカードになればよろしいでしょうか?」
「なんでだよ!!」
そしてただの研究者じゃなくて、変態研究者だってことも思い出させる。
普通協力してくれと言って、カードになればいいって答えるか?
「ですが、カードになれば怪我しても元通りですし、死んでも生き返りますし、年も取らないのでしょう? いいことずくめではありませんか」
んん? 確かにそうなのか?
……って、そうじゃない。
「そもそもアザレアはモンスターじゃないからカード化できない……よな?」
「正確には魔石だね。体内に魔石を持ってないと、モンスター図鑑に登録されないの」
「……そうですか。残念です」
アザレアは本当に残念そうだ。そんなにカードになりたかったのか?
それよりも……今のナビ子の説明おかしくないか?
魔石がないとモンスター図鑑に登録されないって……俺のカード化できないって質問に答えてない。
アザレアは気づいてないようだが、これは嘘がつけないナビ子特有の誤魔化し方だ。
まぁ今追求すればややこしいことになるので、アザレアがいないところで追求しよう。
「さて、馬鹿な話はそれくらいにして……」
「むぅ。馬鹿な話とはなんですか」
アザレアがむくれるが、話が進まなくなるので気にしない。
「アザレアには魔法をたくさん使ってほしいんだ」
今回のレベル8の能力は魔法が大いに関係がある。
「魔法ですか? ……別に構いませんが、シュートさんはどうしてわたくしが魔法を使えることをご存知なんでしょうか?」
あっそういえば、登録で確認したことを説明するの忘れてた。
「実は……カード化の能力のひとつに登録ってのがあるんだが、対象に触れることで、鑑定の能力と似たようなことができ……」
俺が説明をし始めると、アザレアの表情が次第に険しくなっていく。
「つまり……シュートさんはわたくしのスキルを覗き見したと?」
……怖い。
「ま、まぁそういうことになるかな。で、でもさ、お互い様だよね!」
「むぅ。確かにそう言われると弱いですが……」
自覚があるのか、アザレアの怒気が萎んでいく。
「しかし、触れるのが条件となりますと、一体いつその登録したのですか?」
「えっと……アズリアと初めて会った時の帰りの握手かな」
「なるほど……あの時の握手の裏には、そのような打算的な目論見があったのですね」
あっアカン。今のは失言だった。
何とか話を変えなくては……
「あっそうだ。アザレアって普段ポーカーフェイスを使っているよな? あれのデメリットって知ってる?」
俺がそう言うと、アザレアの顔が真っ赤に染まる。
……感情が一定値を超えてデメリットが発動したっぽい。
この調子なら知らないようだが……
「んなっ!? そうでした。スキルを見られるということは、わたくしがひた隠しにしていたスキルも見られたということ……ええええっ!?」
感情を抑えられないアザレアが顔を覆った。




