第127話 ラビットA進化
「全く……とんでもない2人だったわ」
ティターニアとメーブには色々と話が聞きたかったが、ナビ子と喧嘩し始めたのでカードに戻した。
まぁ2人も本当にナビ子を嫌っているわけじゃなく、からかっているだけのようだし、ナビ子自身も文句を言っているが楽しそうではある。
だから俺から言うことはない。
まぁ今は邪魔だから戻ってもらったけど。
「さて、残っている古参は……」
ワーム、蛙、リス、トカゲ、イノシシ。
それから植物と蛇、梟と馬だな。
だけどコイツらは同種族がいないから、魔法か別種族との合成になる。
「え~っと。来月は少し冒険して仲間集めをしようと思っている。お前達はそれを待っていれば次回は優先的に進化させる。もちろん今回合成したいなら何か選んでもいいが……どうする?」
今までの奴らは同系列がたくさんいたけど、コイツらは全くいない。
蛙やリス、ワーム辺りは最古参だから、強くしてあげたいんだけど……。
やはり今回は殆どの連中が見送るようだ。
別種との合成はリスクがあるので敬遠したい気持ちは分かる。
全員がケリュネイアのように成功するとは限らないもんな。
だが、そんな中、1匹だけ前に出る。
「お前……」
飛び出したのはファイアリザード。
ウチで一番残念なモンスターだ。
――――
ファイアリザード
レア度:☆☆
固有スキル:火の素質、煙幕
トカゲ系下級モンスター。
火を吹くことを夢見ていたが、諦めて魔法に逃げたトカゲ。
本当にそれで良かったのか?
――――
相変わらず説明文に哀愁が漂っている。
よかれと思ってファイアの魔法を覚えさせたのだが、こんな書き方されるとは……つくづく残念さが残る。
そして、この残念トカゲが相手として選んだのが……ゴブリンソルジャーだった。
もしかしてコイツ……リザードマンを狙っているのか?
リザードマンのレシピはトカゲとヒト型モンスター。
これだけなら条件を満たしているが……
「あのなぁ。リザードマンになれるのは水属性のトカゲだから、お前は無理だぞ」
コイツは火属性のトカゲだ。
仮に水属性の魔法を覚えても、火属性があるかぎり、水属性にはならない。
だが、俺がそう言っても、ファイアリザードは引かなかった。
……もしかしてリザードマンにも種類がある?
もしかしたら、あの時のリザードマンが水属性だっただけで、ゴブリンメイジのように属性別にいる可能性もある。
それなら……試してみるか。
――――
ドラゴニュート
レア度:☆☆☆
固有スキル:火の素質、ブレス、槍術、炎耐性、自己再生
個別スキル:苦労人
下級の竜人族。
硬い鱗で覆われ、傷つけるのが困難。
たとえ傷つけても、すぐに再生してしまう。
槍の扱いに長け、口からブレスを吐く。
亜人系モンスターでは最強種族とされている。
――――
なにぃぃぃ!?
リザードマンじゃなくドラゴニュート!?
コイツ……蜥蜴から竜になりやがった。
しかもめちゃくちゃ格好いい。
説明文も残念ではないし……というか、強いことしか書かれていない。
「なぁナビ子。亜人系モンスターと亜人の違いってなんなんだ?」
亜人ってのはエルフやドワーフ、獣人など、人間とは違う種族のことだよな。
アラクネなら半分は蜘蛛の姿をしていたからモンスターってイメージだけど、ドラゴニュートは一応完全な人型だ。
獣じゃないけど獣人と同じ位置づけでいいんじゃないのか?
「簡単に言うと、人間の顔したのが亜人で、それ以外が亜人系モンスターなの。簡単な例を出すと人間に猫耳と尻尾を生やしたのが猫の獣人で、猫が二足歩行になっただけ……長靴をはいた猫みたいなのね。あれはケットシーって亜人系モンスターなの」
……長靴をはいた猫ってケットシーなのか。
「じゃあコイツの場合は蜥蜴が二足歩行しているって考えで、亜人系モンスターなのか」
俺の言葉にドラゴニュートが何か言いたげな仕草で訴える。
やはり言葉は話さないか。
「きっと蜥蜴じゃないって言ってるんだよ」
ナビ子の言葉にドラゴニュートは頷く。
……ついさっきまで蜥蜴だったくせに、もう竜気取りか。
「まぁこれでお前も一人前の戦力かな」
もう俺の肩で煙を吐いてた頃とは違う。
……少し寂しいかも。
「そういえば今は星3だけど……まだ合成する?」
ドラゴニュートは首を振る。
どうやらこのままでいいらしい。
まぁ次もゴブリンってわけにはいかないから……同種待ちかな。
「きっと進化したら翼とか生えて空を飛べるようになるよ!」
……今のドラゴニュートには翼はないが、確かに進化したら翼が生えてもおかしくない。
その時が楽しみだな。
****
「きゅっ!!」
ラビットAが元気に鳴く。
これで残ったのはラビットAだけ。
満を持しての登場だが……
「お前の相手はゴブリンウィッチか」
「きゅむ」
アラクネと同じように、ミストの代わりのゴブリンウィッチだ。
ウサギと人型モンスター……アラクネのような半分モンスターになるのか。
それともドラゴニュートのような亜人系モンスターになるのか。
どちらにせよ、俺に知識に人型ウサギはいない。
モンスターじゃなく、ウサギの獣人やコスプレのバニーガールならいるけどね。
……バニーガールは違うか。
とにかくカード合成ではモンスターにしかならないんだから、どうなることやら……。
――――
マジックバニー
レア度:☆☆☆☆
固有スキル:魔の覚醒、地獄耳、杖術
個別スキル:危険察知、嗅覚、貯蔵庫、同族キラー、スキル妨害、魔力妨害
魔兎族の子供。
この世界のどこかに魔兎族の住む島があるらしい。
幼いながらも魔法に長けているため油断は禁物。
――――
「いや~ん! ラビットAかっわい~!」
合成が終了して呼び出したラビットAにナビ子が飛びつく。
ラビットAはドラゴニュートと同じように兎が二足歩行した姿になっていた。
角はなく、背丈は1メートルちょっと。説明文の通り子供なんだろう。
……なんだか時計を持って忙しいと言いながら不思議の国に行きそうな雰囲気だ。
「きゅぅぅ」
ラビットAはナビ子に抱きつかれながらも、自分の体を確かめ……ガクリと崩れ落ちる。
「おっおい。どうしたんだ?」
「きゅきゅう……きゅう」
ラビットAは悲しげに鳴き……アラクネやミストを見る。
「もしかして、あんなふうにボン・キュッ・ボンの大人の女になれると思ってた?」
「きゅん」
ナビ子の言葉にラビットAが力なく頷く。
……ボン・キュッ・ボンて。
「だ、大丈夫よ。ラビットAはまだ子供なだけで、成長したらきっとあんな風になるよ!」
「きゅきゅ?」
ナビ子のフォローにラビットAは本当? と首をかしげる。
……カードモンスターは成長しないんじゃなかったっけ?
「それよりもウサ耳魔法少女ラビットAってとっても可愛いよ! これは大人になったら楽しめないから、今を楽しまなくちゃ!」
「きゅきゅっ!」
ナビ子の説得にラビットAが機嫌を直して元気に鳴く。
……ウサ耳魔法少女ラビットA。
ウサ耳じゃなく、全部がウサギなんだが……というか、魔法少女って。
いや、確かにそうなんだけど……なんだかなぁ。
「そういえばラビットAは喋れないのか?」
ティターニアとメーブは普通に話せたけど、ラビットAは無理なのかな?
「きゅ……きゅ……きゅート!!」
ラビットAは俺を指差しそう答える。
「きゅび子!」
そして今度はナビ子を指さす。
「…………」
「…………」
「きゅートきゅート! きゅび子きゅび子!」
ラビットAは嬉しそうに何度も俺とナビ子の名前を連呼する。
「今後、ラビットAは俺の名前を呼ぶのは禁止な」
「アタイの名前もね」
「きゅぴぇ!?」
ラビットAが文句を言いたそうにしているが、俺とナビ子は引かなかった。




