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カード化スキルで図鑑コンプリートの旅  作者: あすか
第3章 ライラネートでの日常
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第121話 引っ越し

「それでは、本日からよろしくお願いします」


「……まぁいいですけど」


 アズリアがなんとも言えない表情を浮かべる。


 俺達がいる場所はアズリアの屋敷の一室。

 あれから……女子会でナビ子がどう説得したか分からないが、最終的にアザレアは2人の妹がいる屋敷に引っ越すことになった。

 頻繁に顔を出すなら、いっそのこと住んでしまえとかそんな感じなのだろう。


「ですが、ここに住むのでしたら、ちゃんとアゼの面倒も見てくださいね」


「ええ。わたくしが引っ越しを決意したのも、半分はそれが理由ですから」


 ナビ子の話によると、アゼリアのことをアズリアに任せっきりだったのを、アザレアはずっと気に病んでいたようだ。

 一緒に住むことによって、長女としての役割を果たそうってのもあるかもしれない。

 しかし……この2人がここまで言うアゼリアって、どんな人なんだ?

 もちろんこの場には参加してないが、今もこの屋敷のどこかで引きこもっているはずだ。

 非常に気になるが、触らぬ何とかな気がするので、俺からは絶対に詮索しないことにした。



 ****


 というわけで、今からここに家を建てる。

 いや、建てるというより、出すが正解か。


 ちなみにここにいるのは俺とナビ子だけ。

 アザレアは一緒に来たそうだったけど、アズリアを見張ることにしたようだ。

 まぁアザレアが来たら間違いなくアズリアも来て、カード化がバレる。

 一応まだカード化スキルのことは秘密のままだ。

 まぁ秘密なだけでバレている可能性は高いけどね。


 まず分解していた個室やトイレ、浴室をセットで一軒家に戻す。


 そして解放(リリース)

 久しぶりに出した一軒家は全く変わっていなかった。

 さて、2人を呼ぶ前に中も確認……と。

 ちゃんと個室、トイレ、浴室ともに元通りになっていた。


「シュートさぁん!」


 家の外から声が聞こえる。

 おそらく屋敷から家が建ったのが分かったのだろう。

 しかし……声もそっくりだから、名前を呼ばれただけじゃ、どっちか分からない。

 まぁおそらくアザレアの方だろう。


 俺は確認を終え、外に出ることにした。


「シュートさん。これがシュートさんの家ですか?」

「こんな大きな建物を収納系スキルで? あり得ない……」


 アズリアは本気で驚いているようだ。

 どうやらこれについては知らなかったようだ。

 なら、知っているのはモンスターのことだけ?


「俺が山で暮らしていたときの家なんだ。勿体ないから持ってきた」


「この家が英雄バランが住んでいた家……」


 俺の説明にアザレアがとんでもないことを呟いた。


「はぁっ!? ちょっ!? バランって……何で?」


 何でここにじいさんの名前が出てくる?

 というか、英雄?


「シュートさんが英雄バランの孫だと手紙に書いてありました。シュートさんが隠したがっていたようでしたので、誰にも言わないようにとギルマスと相談していました」


 ってことは、知っているのはアザレアとギルマスだけか。

 アザレアの観察眼が発動してないのは、村長が事実だと思って手紙を書いたからか。


「姉さん。シュートさんがあの英雄バランの孫だというのは本当なのですか!?」


 いや、今追加でひとり増えた。

 しかも何やら目を輝かせているし。


「俺はじいさんの孫ってことになってるけど、本当の孫じゃないんだ」


 うん。嘘じゃない。


「えっああ。そうなんですか……すいません」


 アザレアがばつの悪そうな顔をする。

 どうやら捨て子かなにかと勘違いしたようだ。


「それよりも英雄って?」


 うまく誤魔化せたし、そっちの方が気になる。


「英雄バラン。別名、全ての職業を極めし者。冒険者ギルド時代の伝説です」


 全ての職業を極めしって……戦士系や魔法系、サブ職業も? だとしたらとんでもないな。

 アザレアの話によると、支援ギルドになって引退はしたけど、冒険者活動は続けてきたそうだ。

 引退した理由は更新が面倒だったから。

 意外とズボラな人だったみたいだ。


 そんな人物がペットが死んだ悲しみで老衰したのか……。

 魔法とかでどうにか……は無理だったんだろうな。


「それにしても、あの英雄が住んでいた家を拝めるとは……感激です」


 アズリアは本当に嬉しそうだ。

 ……もしかしてファンだったりするのかな?

 別にじいさんが住んでた訳じゃないけど……申し訳なさ過ぎて言えないな。


「そんなに大層なもんじゃないけど……とりあえず中を見てみる?」


 電気、ガス、水道がこの世界と全く違うから、本当なら家の中を案内したくない。

 でも……既に2人に隠し通すのは無理だと諦めている。

 どうせ中に入るのを禁止しても、絶対に2人は勝手に入ってくる。

 だったら最初に説明することにした。

 原理は秘密とでも言えば、じいさんの遺産ってことで勝手に納得してくれるだろ。



 ****


「シュートさんがこの家に拘っていた理由が分かりました。ここは……便利すぎて人を駄目にします」

「あの時革新的だった魔道具が更に進化して目の前に……信じられません。いえ、魔石も魔力も使わない魔道具などあり得ません」


 俺が家の中を案内すると、2人は終始感動しっぱなしだった。


「シュートさん。私がこの家に住みますので、シュートさんは姉さんと一緒に屋敷に住んでいいですよ」

「アズ、それはズルいです。ここに住むのならわたくしも一緒です。わたくし達姉妹が住みますので、シュートさんは屋敷を使ってください」

「あら、姉さんは屋敷の方がよくありませんか? シュートさんと同棲になりますよ?」

「この家で生活できるのであれば、同棲なぞどうでもいいことです。それこそアズの代わりにわたくしとシュートさんがこの家で暮せばよくありませんか? ねっシュートさん」


「ねっ。じゃねーよ! ここは俺が1人で住むの」


「「むぅ。ケチですね」」


 2人がハモりながらむくれる。

 間違いなくこの2人……絶対にこれから入り浸る気がする。

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