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カード化スキルで図鑑コンプリートの旅  作者: あすか
第3章 ライラネートでの日常
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第119話 物件巡り

「よいですか。くれぐれも変な気は起こさないように!!」


「変な気って……お前は俺をなんだと思っているんだ?」


 次の日。

 ファーレン商会に納品に行く前に、俺はアザレアから注意を受けていた。

 アザレアは今日は仕事で参加できないらしい。

 まぁ昨日もほぼ外に出ていて、今日も……は流石に無理だったようだ。


 だから自分の目の届かない所で、俺が妹に変な真似をしないか不安らしい。


「大丈夫! アタイがしっかり見張ってるからね」


「ええ。ナビ子さん。よろしくお願いします」


 ったく。少しは信用しろっての。



 ****


 無事に開店前に納品終了。

 倉庫でカード化を解除するだけの簡単なお仕事だ。


 今はアズリアが鑑定と検品をしている。

 何とか開店前に終わらせたいと急いでいるようだが、鑑定を疎かにするつもりはないらしい。

 昨日の話じゃないけど、粗悪品が混じってると困るもんな。

 別に俺を信用してないってことじゃなく、商人としての矜持ってとこだろう。

 確認が終わった武器を従業員が売場へ運んでいく。


 もちろん俺が関わってるってことは従業員に秘密なので、見つからないように隠れる必要がある。

 とはいっても、倉庫にいる限り、どうしても従業員の目に留まる。


 そこで俺は偽装スキルで、バランの村にいたロランさんに変装した。

 これで周りからは俺が16歳の少年じゃなく、中年のオッサンにしか見えないはず。

 次回以降も搬入する際はこの姿をしていれば、俺が関わっていることはバレなくて済みそうだ。

 ちなみにナビ子は代理人のスキルで、カードモンスターから隠密のスキルを借りて潜んでいる。

 ナビ子がウロチョロしていると変装の意味がないもんな。

 だけど……そこまでして隠れるくらいだったら、変装中だけでもしおりに戻ればいいのにな。



 ****


「むぅ。シュートさん。せっかくのデートなのに、いつまでむさ苦しいオッサンの姿をしているのですか?」


 むさ苦しいオッサンって……ロランさんが聞いたら泣いてしまうぞ。

 というか、デートじゃないし。


 無事に検品が終わり、開店を見届けた後で、俺とアズリアはファーレン商会を出た。

 約束していた物件巡りをするためだ。

 俺は出来ればこのまま変装したままの方が都合がいいんだが……まぁアズリアも若い女性だし、オッサンと歩いている姿なんて見られたくないんだろうな。

 仕方なく俺は偽装を解除する。


「ふふっ、やっぱりこちらの方が素敵ですよ」


 そう言いながらアズリアは俺の腕を取り、自分の体に密着させる。

 ……腕に柔らかな感触を感じる。

 ヤバい! これはヤバすぎる!


「あー!! そんなにくっついちゃ駄目なんだかんね!」


 そこに隠密を解除したナビ子が姿を現し、腕を組んだ状態の俺とアズリアは咎める。


「あら。ナビ子さんもいらっしゃったのですか」


 俺が変装する前に会っているのにしらじらしい。


「いたの! だから離れてよ!」


 ナビ子はそう言いながら、力づくで俺とアズリアを引き離そうとする。

 だが、もちろんナビ子の力では無理だ。


「うるさい姑もいないのですから、少しくらい良いではありませんか」


 うるさい姑って……アザレアが聞いたら絶対に激怒するぞ。


「アタイはちゃんと見張ってるってアザレアと約束したの。だからアタイの目が黒いうちは絶対に許さないんだから!」


 んー!! と唸りながら、ナビ子がさっきより力を込める。

 その必死さがちょっと可愛い。

 もう少しこの感触を楽しみたいけど……仕方がない。

 俺はアズリアから離れた。


「俺は後で怒られたくないんでね」


「むぅ。つれないですね」


 ぷくっとアズリアがむくれる。

 うん。あざとい。

 この子は姉よりも、自分の価値を分かっているようだ。



 ****


「――ここも駄目ですか?」


 俺の表情を見て難色を示していると察したようだ。


「悪くはないんだけど……ちょっとなぁ」


 俺がアズリアに頼んだ条件は、住宅街じゃないことと、ガーデニングが出来ること。

 住宅街じゃ塀があってもモンスターを召喚できない。

 人通りも多いのなら、宿とほぼ変わらない。


 それから、ガーデニングはハニービー達が蜜を採取するために必要だ。

 花の種はミランダばあさんの店で仕入れることが出来そうだし、管理はハニービー達に任せればいい。

 ついでに樹木もあれば、トレント達も喜ぶだろうし、防犯面にも役に立つから庭の広い場所がいいと伝えていた。


 こんな条件の物件なんて見つからないと思ったが、それでもアズリアは何ヶ所か候補を見つけてきた。 


「何が駄目なんでしょう? ここなら支援ギルドからもほどよく近いですし、家賃も月に金貨100枚と大変お得なのですが……」


 アズリアが紹介してくれた家は、貴族が住んでたんじゃないかと思うくらいの一流の屋敷だった。

 条件通り住宅街から少し離れており、しかも支援ギルドにもほどよく近い。

 囲いもしっかりしているから、外から覗かれる心配もない。

 強盗や侵入者には気をつけないといけないが、サイレントビーを放っていれば問題ないだろう。

 家賃に関しては、何がお得か分からないくらい高いが……相場より安いんだろうな。

 まぁ定期収入を考えると、払えなくもない。


 それから庭が広いのも条件通りだ。

 今は誰も住んでいないから花壇も荒れているが、手入れをすれば問題ない。

 これならハニービーも蜜が採れるし、元々山に住んでいたモンスター達も満足するだろう。


 俺の条件は全て満たしているし、普通なら即決できるくらいの優良物件だと思う。


 ただ、肝心の屋敷が……ねぇ。

 一言でいうと無駄にデカい。

 俺一人が住むだけだから、こんなに大きくなくてもいい。

 使う部屋だって、どうせ1部屋か2部屋。

 だけど目の前の屋敷は軽く10部屋を超えている。

 一体何人が住む前提になっているんだ?


 一応下水が通っているみたいで、トイレは水洗。

 だけど、これだけ大きいのに1階にあるだけ。

 2階の奥の部屋からなら、トイレに行くだけで何分掛かるんだって話だ。


 それから風呂。

 こちらも銭湯のような大浴場があるだけ。

 無駄にデカくて湯を入れるのに何時間掛かるのやら。

 というか、それ以上に掃除が大変そうだ。

 これなら宿の浴室のほうがマシだと思う。


 それと……これが一番大事なんだが、ガスと電気がない。

 魔道具の明かりはあるし、キッチンもコンロのような魔道具があるけど、その都度魔力を流さないと作動しないし、リモコンもあるわけではない。


 要は不便で仕方がないのだ。


 その点、俺の持っている家は、本当に謎だが電気もガスも水道もある。

 トイレにだってどこにいても1分も掛からず行くことが出来る。

 水道だって捻るだけで水が出るし、冷蔵庫や電子レンジとかも使える。

 ……まぁその辺りは全てカード化で代用できるから基本は使ってないが。


 とにかく宿の一時的の住まいじゃなく、自宅としてゆっくり過ごすのなら、豪華さよりも便利さが欲しい。


「……この家を取り壊して、小さな家を建てちゃ駄目かな?」


 屋敷以外の条件は問題ないんだから、屋敷をカード化にして、代わりに俺の一軒家を建てる。

 それならば何の問題もない。


「流石にそれは……」


 アズリアが難色を示す。

 やっぱり借家になるから勝手なことはできないか。


「じゃあさ。この横に小さな家を建てていいかな?」


「……それでこの屋敷はどうするので?」


「……空き家かなぁ」


 絶対に一歩も入らない気がする。


「流石にオーナーに聞いてみないと……ですが、おそらく外観が損なわれるなどの理由で許可が降りないと思います」


 う~ん。やっぱり無理か。


「何故そこまでして住みたがらないのです?」


「だって……こんな広い屋敷なんて、管理が大変だろ」


 まさか不便だからとは言えない。

 普通に考えたら快適そのものだろうからな。


「ですが、シュートさんの条件を満たす物件ですと、このサイズが普通となりますが」


 まぁ住宅街から離れた庭付きの家が小さいはずはないか。


「やっぱりこの土地を買うってことはできないの? アズリアから貰った白金貨全部使ってもいいからさ」


 土地ごと家を買い取れば、あとは好きにしていいはずだ。

 お金は昨日の30枚に、今日追加で15枚貰ったから、45枚もある。

 これに元々持っていた200枚の金貨を追加してもいい。


「いえ、お金の問題じゃなく……土地を買うには、領主の許可が必要なのです」


 領主……そっか。

 この世界じゃ不動産で気軽に土地が買えるわけじゃないのか。


「土地を買う条件は、この街の住民であること。それからこの街に貢献した人になります」


 街の住民として登録してない時点で、俺には土地が買えないってことか。

 別にデメリットがないなら住民になってもいいけど、どのみち街に貢献ってのがネックか。

 この間のゴブリン退治を公にするわけにはいかない……ってか、あれはこの街ってことでもないか。


「う~ん。どうしようかなぁ」


 土地が買えないとなると、借家で我慢しなくちゃならない。

 となると、この屋敷が一番妥協できそうだ。

 部屋や管理は……モンスターたちの部屋にしてもいい。


「あの……実はもう一カ所お薦めの場所があるんですが」


「あっ、まだあったの?」


 ここで終わりかと思ってた。


「ええ。実はとっておきの場所があります」


 とっておき……


「ちなみにどんな? ここと似たような場所なら、多分同じ反応になると思うけど……」


 これまでも似たような物件だったし、次も似たような物件だと行っても意味ない気がする。


「そうですね。確かに似たような場所です。屋敷も庭もさほど変わりませんが……そこの土地ですと、空き地にシュートさん専用の家を建てても問題ありません」


「えっ本当!?」


「ええ。ですが、代わりに屋敷の方には人が住んでおります」


「じゃあダメじゃん」


 人がいるなんて論外だ。


「ですが、シュートさんは屋敷には住まわれないのでしょう? お隣さん感覚でよろしいかと」


 お隣さん感覚ねぇ。


「いや、それだと住宅街と変わらない。領地内はやっぱり1人の方がいいよ」


「でも、その屋敷に住んでいる人物が、シュートさんの特異性を知っていて、モンスターの放し飼いも許容しており、更に家賃の必要もないと言ったら……どうです?」


 ……その条件に合う場所を俺は1ヶ所しか知らない。


「……ちなみに屋敷にはどんな人が住んでるの?」


「年頃の美しい双子の姉妹が住んでおります」


 アズリアがニヤリと笑う。

 やっぱりね。でも、そこは確実に姉に却下される土地だと思うぞ。

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