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カード化スキルで図鑑コンプリートの旅  作者: あすか
第3章 ライラネートでの日常
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第112話 ファーレン姉妹

 ファーレン商会に入って一時間。

 俺は4階に来ていた。


 1階に関しては商店街とほぼ同じ品揃え。

 フードコートではパスタやパン、シチュー、ケーキ等の店が並んでいた。

 ちなみに酒はなかった。


 2階は普段着からドレス、靴や下着。

 少しだけだが、化粧品の取り扱いもあった。


 3階は雑貨フロア。

 日常の生活用品に加え、ポーションなど薬品関係も置かれてある。


 正直に言うと、想像よりは楽しくなかった。

 最初はこの世界っぽくなくて、テンションも上がったが、考えたらショッピングモールやデパートと何ら変わりない。

 つまり目新しくなかったのだ。

 もちろん日本にはない商品も多数あったので、それは登録したが。

 でも、一気に現実に戻された感じがして、萎えてしまった。


 だが、4階は違う。

 武具や魔法のフロア。

 武器や防具、魔道書などを販売しているらしい。

 武具は買取りしてくれる可能性が高いのなら、昨日の武具屋よりも種類は豊富だろう。

 そして、何より魔道書。

 魔道書を読むだけで、魔法を修得できるらしいのだが……めちゃくちゃ興味がある。


 だだ下がりだったテンションも持ち直し、いざ4階の階段を上りきると……


「さっシュート様。もう十分堪能したでしょう。さっさと帰りますよ」


 階段を上りきった所で、何故かそこにいてはいけない人物がいた。

 アザレアは問答無用で俺の手を掴むと、そのまま引っ張って、上ってきたばかりの階段を降りようとする。


「ちょっ、ちょっと待って」


 俺は必死に踏みとどまる。

 何が何だかわからない。


「何でアザレアがここにいるんだ? 仕事は?」


「今はそんな話をしてる場合ではありません。早くここから出ませんと……」

「アザレア! 気づかれちゃった! こっちにやって来るよ」


 説明するつもりはないようだ。

 というか、ナビ子は何を察知しているんだ?


「ほら、もうそこまで来ているのです。早く逃げましょう」


「だから、何がくるんだよ。それが分からないと逃げようがないだろ」


 別にモンスターが暴れてるとかじゃないんだろ?


「シュート様を惑わす最悪の魔性の女がここにはいるんです! ですから早く逃げないと……」

「魔性の女とは誰のことでしょうか?」


 アザレアの声を遮って後ろから声が聞こえた。

 というか、今の声……アザレアと一緒じゃ?


「くっ間に合いませんでしたか」


 アザレアは悔しそうに呟き、掴んだ俺の手を離す。

 俺が振り返るとそこには……


「えっ!? アザレアがもうひとり!?」


 そこにはアザレアと全く同じ顔をした女性が立っていた。

 顔だけじゃない、さっきの声も同じだったし……服装はこの店の制服を着ているが……あっ。

 思わずアザレアの方を見る。

 ……一カ所だけ明らかに違う部分があった。


「シュート様。今、比べましたね」


 ドスの効いた迫力のある声と殺気。


「あっいや……」


 俺が思わず怯んだ瞬間、アザレアから思いっきり踏まれた。



 ****


 案内されたのは5階の会長室。

 突然現れたアザレアのそっくりさんは、アザレアの妹でアズリアと名乗った。


 彼女はアザレアの2つ年下で、更にもう一人アゼリアという双子の妹がいるらしい。

 アザレア自身もこの妹と双子のようにそっくりなのに、まだもう一人同じ顔がいるとは……


 ただ、双子でもここで一緒に働いているわけではないらしい。

 まぁ考えたらアザレアだって別の仕事だし、双子だからって一緒に働く必要はない。

 いや、二人が言うには三女はどうやら重度の引きこもりらしい。

 しかも生活能力が皆無で、世話をしないと確実に餓死するなど散々な言われようだった。

 ……なんか大変そうな感じだったので、深く追求するのは止めておいた。


 一方、目の前にいる彼女は、なんとファーレン商会の会長だった。

 10代の頃にひとりでこのファーレン商会を立ち上げて、数年でここまで大きくしたらしい。

 ちなみにファーレンの由来は自分の名字から。

 ……アザレアって、ファーレンって名字だったんだ。

 名字持ちってことは貴族かな?


 アザレアも支援ギルドでマネジャー、次女は商会の会長、三女は……だけど、とにかく優秀な家系のようだ。


 ただ、どれだけ優秀だろうが、この三姉妹にはひとつだけ言いたいことがある。

 メチャクチャ分かりづらいんだよ!

 アザレアにアズリアにアゼリアとか、紛らわしすぎるだろ!

 しかも何でアザレアだけレなんだよ!

 どうせなら統一してリにしろよ!

 しかも双子じゃないのにこんなにそっくりとか……まぁ一部分だけ姉が残念だが。


 俺は正面に座っている妹の方を見る。

 ……やはりデカい。

 服の上からでもハッキリと分かるくらいデカい。

 あれはもはや凶器だな。

 アザレアが魔性の女だと言ったのがよく分かる。

 あれは男を釘付けにする。


「シュート様。さっきから何ジロジロと見ているのですか」

「シュートさいてー」


 隣に座っているアザレアが睨み付ける。

 ……文句を言うだけならいいけど、ついでのように足を踏むのは勘弁してほしい。

 我慢しているけど、すっごく痛いんだぞ。


 それにしても……姉なのに、妹とこうも違うのか。


「……その哀れむような眼は、非常に不愉快なのですが」

「シュートさいてー」


 グリグリと回転まで付け加えられる。

 いや、マジで痛いから。


「はぁ……こうなるからシュート様には会わせたくなかったのです」


 アザレアがため息交じりに愚痴る。

 どうやらナビ子もサフランも、アザレアが妹に会わせたくないのを知っていたから、俺をここに連れてきたくなかったようだ。


 しかし……妹がファーレン商会の会長なら話は早くないか?

 元々ナビ子に止められる前まではファーレン商会と取引するつもりだった。

 実際に見せを見て回って思ったが、取引相手としては最適だ。

 ただし、この規模で全く知らない人物と取引をするのは危険だ。

 しかし、アザレアの妹なら信用に足る人物だろう。

 取引相手としてはこの上ない相手だと思う。


 問題は姉妹同士の関係だが……

 アザレアの方は、妹に若干の身体的コンプレックスを持っているようだが、それで心底嫌っているようには見えない。

 ただ、俺が妹を協力者にするって言えば、反対するかもしれない。

 多分俺と妹を近づけさせたくないだろうからな。

 まぁそれならアザレアに仲介させればいいだけの話だ。

 うん。アザレアの説得は出来そうだな。


 対して妹の方はどうだろう?

 姉と違って妹の方はコンプレックスはないだろう。

 それに雰囲気からあまり嫌っている風な感じではない。


 その証拠に、さっきからこれ見よがしに俺に胸を見せつけてくる。

 そうすることで俺は思わず見てしまう。

 それは条件反射だ。仕方がない。

 素直に目の保養と割り切っている。

 ただ、その代償として俺の足がダメージを受けていく。

 もちろんアザレアが攻撃しているのだが……そのアザレアの反応を彼女は楽しんでいる。

 それは嫌っているのではなく、姉にじゃれているようなものだと思う。

 要するにちょっと歪んだシスコンさんだな。


 そもそも嫌っていたらこんなところに……あれっ?

 そういえば、何で俺達はここに来ているんだ?


「アズ……それでわたくし達に何の用ですか」


 ちょうどいいタイミングでアザレアが俺の思った疑問を質問する。


「姉さんが恋人を連れてこられたのですから、挨拶しなくては失礼でしょう」


「シュート様は恋人ではありません!」


 アザレアが真っ赤になって否定する。

 だから……そうやってムキになるから、からかわれるんだぞ。

 俺と初めて出会ったときのように、冷静に対応すればいいのに。

 というか、妹の前でも俺のことは様付けなんだ。

 確かに店内のように不特定多数に聞かれる場合は様付けでいいけど、妹しかいないんだったら、さんでいいような……


「ふふっ姉さん。またスキルが切れてますよ」


「……ここでスキルの話はしないで下さい」


 一呼吸置いて、落ち着いたアザレアが答える。

 スキル?

 そういえば観察眼のスキル以外、アザレアのスキルを知らないな。

 登録で他人のスキルを確認するには、対象に触らないと駄目なんだよなぁ。

 あっ、そういえばさっきアザレアに腕を掴まれたっけ。

 しまったなぁ。その時に登録(アナライズ)すれば良かったのか。


「姉さんは恋人じゃないと言ってますが……そうなんですか? シュートさん」


 今度は俺の方に問いかける。

 妹の方はさん付けか。

 別に構わないが、それに対してまたアザレアが反応するんだよなぁ。


「まぁ確かに恋人ではないな。うん」


 俺がハッキリそう言うと、何故かアザレアから睨まれた。

 いや、アザレアだってそう言っただろ。


「あら。でしたら私とお付き合いしませんか?」

「な、何を言ってるのですか!?」


 あ~あ、やっぱりからかわれている。


「だって姉さんとは恋人でも何でもないんでしょう? なら、よいではありませんか。ねぇ、そう思いません?」


 ねぇと言われても……


「もし私とお付き合いすることになれば、姉さんではできないようなことをしてあげますよ」


 そう言って、また胸を強調する。

 ……頭の中で妄想が膨らむ。

 ヤバい。それは色々な意味でヤバい。


「シュート様。何を考えているのですか?」

「シュートさいてー」


 二人の軽蔑した目が向けられた。

 おまけに俺の足は瀕死状態だ。


 でもさ。

 俺だって男の子だもん。仕方ないじゃん。

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