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カード化スキルで図鑑コンプリートの旅  作者: あすか
第3章 ライラネートでの日常
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第108話 ミランダばあさん

「少年とナビ嬢ちゃん。せっかくだから、上がってお茶飲んでおいき」


 何がせっかくなのか分からないが、俺とナビ子はミランダばあさんからお茶を頂くことになった。

 ミランダばあさんは店の入口に閉店の看板を下げて店の奥へ向かう。


「店閉めて大丈夫なんですか?」


「なぁに。どうせ客なんぞ来やせんて」


 ミランダばあさんはカラカラと笑いながら言うが……自由すぎるだろ。


 この店は外から見たら2階建てだったから、1階が店舗スペースで、2階が居住スペースなのかな?

 だから2階に通されるとばかり思っていたのだが……ミランダばさんは2階への階段を上がらず、階段のすぐ横の壁の前で立ち止まる。

 俺からはミランダばあさんの背中しか見えないから、何をしているか分からなかったが、突然壁が光りだす。


 ……次の瞬間、壁はなくなり、代わりに地下への階段があった。


「か、隠し階段?」


「驚いたかい? さっ、こっちだよ」


 ミランダばあさんは俺の方を見ずにさっさと階段を降りていく。

 俺は若干不安になりながらも大人しくついていく。

 階段を降りきって、地下室の扉が開かれた。


「すご……」


 思わず声が漏れる。

 地下室もランプの灯りしかないので、薄暗かったが、店舗スペース以上の広さに店内以上の薬品棚があるのは分かった。


 そして、ミランダばあさんの作業机。

 机の上には乳鉢と乳棒、フラスコにビーカー。

 アルコールランプのようなものまである。


 一応客用のテーブルと椅子もあるようだ。


「ちと暗いが我慢しとくれ」


 ここにも光に弱い薬品があるのだろう。

 別に全く見えないわけじゃないから、特に問題はない。


「ここで調合しているんですか?」


「そうさ。店にある商品は全てここで作っておる」


 俺のようにスキルで簡単に……じゃなく、ひとつひとつ手作り。

 ミランダばあさんも何かしらの調合系スキルも持っているんだろうが、それ以上に薬師の技術が凄いに違いない。

 ローポーション・極のような特別なアイテムを作れるわけだ。


「さっ飲んどくれ」


 俺達の前にお茶が出される。

 もちろん2つ。ナビ子の分もだ。


「ごめんねおばあちゃん。アタイは飲み食いが出来ないんだ」


 ナビ子がミランダばあさんに謝る。


「ありゃっそうなのかい。じゃあナビ嬢ちゃんの分は少年が飲んどくれ」


 またこのパターンか。

 まぁ別にいいけど。

 俺は普通に出されたお茶をいただく。

 初めて会った人で、薄暗い地下に通されたのにもかかわらず、この人には何故か不信感を抱かない。


「……なんだか落ち着きますね」


「そうじゃろ。自慢のブレンドハーブティーだからの」


 うん。これは本当に美味しい。


「それにしても、どうして俺をここに?」


「なに、話し相手になって欲しくての。……こんなばあさんの話し相手は嫌かの?」


「ううん! すっごく楽しみ!」


 俺が答えるよりも先にナビ子が答える。

 なんかナビ子がえらく懐いている。


「俺もミランダばあさんとは話をしてみたいです」


 俺としても、ミランダばあさんの話には興味がある。

 いろんな話が聞けそうだ。


「嬉しいねぇ。じゃあ早速、少年の話を聞かせてもらおうかの」


 俺の方が話すのかよ!?


「ミランダばあさんの話を聞かせてくれるんじゃ?」


「あたしゃ話を聞いて楽しみたいんだよ」


 確かに話し相手っていっただけで、自分が話すとは言ってないけどさ。

 ミランダばあさんの話の方が聞いてみたかったなぁ。



 ****


「はははっ。なんだいなんだい。少年は客じゃなくて、押し売りだったのかい」


 俺は簡単に現在置かれている状況と、ここに来た目的を説明した。

 実は無一文で、ここには物を売りに来たと言ったら爆笑された。


「ええ本当は。でも、ここには魅力的な商品が多くてビックリしましたよ」


「世辞はいいよ。表に出ているもんなんて、大したもんじゃないさ」


 お世辞のつもりはないんだけど。

 でも、この地下にある薬品に比べると、店内の商品は大したことないかもしれない。


「ここにあるのは売り物じゃないんですか?」


 ここにある物を売れば、大繁盛間違いなしだろうに。


「ここにあるのは、その価値が分かるもんにしか売らん」


 地下にある商品はミランダばあさんに認められた人しか買えない。

 認められる条件は1階の店内にある商品の価値が分かって、お茶に招かれること。

 つまり俺は認められたってことだ。


「文無しの少年じゃ、それ以前の問題だけどね」


 ……確かにその通りだ。


「それで少年はあたしに何を売り付ける予定だったんだい? ものによっちゃ買い取ろうじゃないか」


「え~っと、俺が買い取ってもらいたいものはこれなんですけど……」


 俺はアンブロシアの果実とクコの実、チコの実、リコの実を取り出した。


「ほぅ。こりゃ珍しい。これ全部、生じゃないか。これ、どうしたんだい?」


「地元で育ってるんですよ。鮮度はスキルで維持できます」


「その荷物から察するに収納系かい? 保存が利く収納スキルなんて珍しいものを持ってるじゃないか」


 そっか。

 普通の収納スキルは保存が利かないのか。


「生って言われてましたけど、生じゃないのもあるんですか?」


「あたしが仕入れているのは乾燥させた実だね」


 乾燥……ドライフルーツってことか。


「乾燥と生って、どちらの方がいいんでしょうか?」


 ドライフルーツにした方が栄養もあるって話を聞いたことがある。

 それに調合に使うなら粉末にしやすい方がいいかもしれない。


「乾燥されたものは用途が限られてしまうからねぇ。生の方が断然ありがたいさ」


 なるほど。

 乾燥だと使い道が限られてしまうのか。


「これ1個ずつしかないのかい? もし数があるならまとめて買い取るよ」


 どうやら無事に買い取ってくれそうだ。


「在庫はたくさんありますので、好きな数を仰ってください」


「少年……アンタとんでもない押し売りだね。あたしの全財産を搾り取る気かい?」


「一体いくつ買おうとしているんですか……」


 俺は呆れながら答える。


「これだけの代物、今を逃したら今度はいつ手に入るか分からないからねぇ」


 ああ今だけって思ってるのか。


「別に必要なら定期的に卸しますよ」


 毎日は流石に無理だが、半月や月一で卸す分には問題ない。

 というか、ここで一回の大金を手に入れるよりも、定期収入の目処がつくほうがありがたい。


「そうかいそうかい。それじゃあ……」


 ミランダばあさんは、奥の机から白い袋を3つ取り出して、俺の前に置く。


「1袋金貨100。3袋で金貨300枚。これで売れるだけ売っとくれ」


 金貨300!?

 いきなり大金だ。


「ちょっと!? だから言われればいつでも売りますって……」


「そう言われたから1回分の支払いに変更したんじゃないか。足らなくなったらまた頼んだよ」


 これで1回分って……最初はいくら払う気だったんだ?


「それで、いくつ貰えるんだい?」


 ヤバい。

 相場が分からないから、いくつ渡していいかさっぱり分からない。


 アンブロシアを素材にした魔力回復ポーションが金貨100枚だろ?

 いや、それはオークションで高値が付いたときだっけ。

 じゃあ半額程度で考えよう。

 魔力回復ポーションが金貨50枚で考える。

 それの素材だから……アンブロシア1個金貨10枚くらい?

 高すぎだろ!?

 更に半額の金貨5枚でいいんじゃね?


 それに3つの実が……面倒だから、アンブロシアを含めて4個で1セットで考えよう。

 1セットで金貨20枚。

 金貨300だから15セットだな。

 15? ヤバい。ボッタクリの気がしてきた。


「どうしたんだい少年」


「いえ、じゃあアンブロシアと3つの実。4個で金貨20枚。だから15セットでどうでしょうか?」


 俺がそう言うと、ミランダばあさんが怪訝そうな顔をする。


「少年……それ、本気で言ってるのかい?」


 やべっ!? やっぱりボッタクリだったか?


「え~っと、やっぱり高すぎでした?」


「逆だよ! 金貨300で15セットなんて、何を考えてるんだい!」


 ……むしろ安すぎたらしい。


「いや……相場を知らなくて……一体いくら位なんです?」


 俺が素直にそう言うと、ミランダばあさんが盛大に溜息をついた。


「呆れた。まったくとんだ押し売りだよ」


 ミランダばあさんの説明によると、乾燥された実ですらこれの倍の金額が必要らしい。

 生で……それもこれだけ新鮮なら更に倍は掛かると思っていたようだ。


「あたしゃ一袋で1セットと考えていたんだけどねぇ」


 ミランダばあさんは金貨袋をひとつ持ち上げる。

 つまり3セットで考えていたわけだ。


「えっと、じゃあそれ……」

「少年。もちろん一度口に出した言葉は取り下げないよねぇ?」


 ミランダばあさんが勝ち誇った顔でそう言った。

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