第107話 エルフの薬屋
「んで、結局最初の状態に戻っちゃったけど、どうすんの?」
相変わらずの無一文。
その上、アザレアからの援助はなくて、依頼も受けていない。
むしろ悪化したと言える。
だがそう悲観することはない。
まだ最後の手段が残っている。
「なに、アザレアが買い取ってくれないなら、他の所で買い取ってもらうだけさ」
「えっそれはマズいよ。協力者の意味がなくなっちゃうよ」
「そもそも協力者なのに協力してくれないアザレアが悪い。それに、さすがに俺だってミドルポーションとハイポーションは売らないよ」
「じゃあ何を売るの?」
「そりゃあ色々さ」
ポーションやモンスターの素材と魔石に頼らなくても、俺が売れるものはまだたくさんある。
「じゃあさ。それをアザレアに売ればいいだけなんじゃない?」
「いや、駄目だ」
「どうして?」
「だってアザレアに売ってみろ。『結局売ることでしか金を稼げないのですね』とか言って小馬鹿にするに決まってる」
「だってそうじゃん」
……いや、まぁそうなんだけどさ。
でも、アザレアの勝ち誇った顔は見たくないじゃないか。
「むしろ勝手なことしたら『何故わたくしに相談せずに他の店で売るのですか!』とか言って、後で余計に怒られるだけだよ」
……そうかもしれないけどさ。
「いいったらいいの! 今回は別のとこで売るの!」
俺は半ばやけになって答える。
「もぅ。子供みたいに意固地になって……本当に知らないからね」
ナビ子の諦め声が鮮明に頭に残った。
****
というわけで商店街にやって来た。
「なんか活気があってワクワクするね」
さっきまで文句を言っていたナビ子もテンションが上っている。
見たことのない野菜や果物を売っている八百屋に、いい匂いを出している串焼き屋。
アクセサリーを売っている露店が左右に並んでいる。
確かにナビ子の言う通りワクワクするが……無一文の俺には何も買えない。
くそぅ。金さえあれば、一軒ずつ順番に全種類1個ずつとか言えるのに。
とりあえずゆっくり歩きながら、片っ端から登録していく。
登録しておけば、後で図鑑を見て楽しめるってもんだ。
俺は露店通りを抜けて、その先にある目的の店へとやって来た。
今回の目的は購入じゃなくて売却。
用途に応じて買取りできそうな店をサフランから聞いてきた。
まず最初はエルフの薬師が経営している薬屋。
自慢の品は店主特製の回復薬。
ポーションだけじゃなく、湿布薬や軟膏、栄養剤。
さらに美容品やアロマやハーブのようなものまで売っているそうだ。
まるでドラッグストアのような店だ。
ここなら薬品関係の素材を買い取ってくれると思う。
とりあえず店に入ってみると、独特の匂いが漂っていた。
薬品の匂いとは違う……アロマ的な香り?
なんだか心が落ち着く。
「おやまぁ随分と変わった客だねぇ」
薄暗い店の奥から声が聞こえる。
そこにいたのは、フード付きローブで身を包んだ女性。
顔は見えないが、声質から老婆だろうと予想がつく。
耳も隠れているから、判断できないが、この人がエルフなのか?
もちろん変わった客と言うのは、ナビ子のことだろう。
「おばあちゃん。こんにちは!」
ナビ子が元気に挨拶する。
コイツ……俺以外に懐かない設定を完全に忘れてるな。
「おや、元気な子だねぇ。ゆっくり見ていっておくれ」
「うん! ありがと!」
というわけで、まずは軽く店内を見て回ることにした。
といっても、決して広くない店内。
ここからでも全体が見渡せる。
店内は天井から吊るされたランプの灯りのみで薄暗い。
「なんでこのお店はこんなに暗いの?」
今日のナビ子は遠慮なく質問するなぁ。
「ここにはな。光が苦手な薬品もあるんじゃよ」
なるほど。
商品棚には薬品の瓶が並んである。
保管には十分に注意しないと効果が薄れるものもあるんだろう。
瓶の中は液体や粉末など様々だ。
が、値札や名前は書いてない。
「ここって鑑定スキルを使ってもいいんですか?」
正直使わないと何も分からない。
「勿論ええとも」
許可が出たので、俺はアイテム図鑑を取り出して、順番に登録していくことにした。
まずは茶葉っぽいものから。
ローズマリーにカモミールにレモンバーム。
地球にもあるハーブだ。
この店の香りもこのハーブのどれかかな?
あっサフランもある。
そういえばサフランもハーブの名前だな。
それからムーンライトにマジックチャームの粉末。
これは聞いたことないから、もしかしたらこの世界限定か?
ハーブじゃない粉末も確認してみる。
アメジストパウダーにルビーパウダー。
この辺りは宝石を粉末にしたもののようだ。
何かわざわざ粉末にしてあるのは……何か意味があるのかな?
液体の瓶はどうか。
ローポーション・極
極って何だよ!!
回復効果が高いんだったら、ローじゃなくてミドルになるはずだろ!?
もしかして回復以外の効果があるのか?
くそっ、気になるが、カード化した訳じゃないから、名前だけで詳細は分からない。
しかもこれ、合成元のリストが表示されない。
不明すら表示されないってことは、カード化スキルみたいに、合成じゃ手に入らないってことだ。
うわ~、めっちゃ欲しい。
「気になるものはあったかい?」
「ええ、まぁ。……このローポーションは普通のポーションとどう違うのですか?」
話しかけられたから素直に聞くことにした。
「おや、そのポーションの違いが分かるのかい? 坊やは立派な鑑定スキルを持っているようだねぇ」
……坊や。
「違いというか、名前がローポーション・極ってなってたので」
「極かい。それはいいねぇ」
ばあさんはカラカラと笑う。
「それは、この辺りで出回っておるローポーションよりも効果がある。およそ倍くらいじゃな」
「それってミドルポーションなんじゃ?」
「ミドルとは素材が違う。これはローポーションと同じ材料で作られとるんよ」
「それは凄いですね」
ローポーションの材料でミドルポーションと同じ効果のポーション。
そりゃあ均一でしか完成しない合成では作れないはずだ。
「これは店主さんが作られたので?」
「店主なんて言い方は止めとくれ。そこのちんまい子のように、ばあさんで構わんよ」
まさかばあさんの方で呼んでくれと言われるとは思わなかった。
「じゃあ俺も坊やじゃなくて、シュートって呼んでください」
「アタイも! ちんまい子じゃなくて、ナビ子って呼んでよ!」
「ありゃ、気を悪くしちゃったかい? こりゃ失礼したね。確かに物の価値が分かる人に坊やは失礼だったよ」
良かった。
ポーションの価値を見抜けなかったら、坊やのままだったかもしれない。
そう考えると、商品名を表示されてなかったのは客のレベルを調べるためだったのかもしれない。
「悪かったねぇ少年。それとナビ嬢ちゃん」
……少年。
「ナビ嬢ちゃん……なかなかいいじゃない!」
ナビ子の方は満足らしい。
あれっ? 俺だけまだ認められてない?
「あたしゃミランダ。エルフの薬師さ」
そういってフードを取る。
金髪の髪に長い耳。
見た目は完全に老婆だけど、若かった頃は絶対に美人だったと思う。
これが俺とミランダばあさんとの出会いだった。
申し訳ありませんが、明日はお休みさせていただきます。
今後、この3章は3日投稿、1日休みのペースで投稿をする予定です。
ご迷惑をおかけしますが、ご了承頂ければと思います。




