第11話 拒否
本日2話目の投稿です。
次の日……結局一晩経っても日本に戻ることはなかった。
実は夢だった……って可能性も僅かにあると思ったんだけどな。
ちなみに朝起きるとナビ子の姿がなかった。
慌てて探し始めたら『旅のしおり』が光ってナビ子が飛び出した。
どうやらナビ子は眠るときは『旅のしおり』に戻るようだ。
一回ナビゲーションをONにすると、任意で出入りが出来るようになるらしい。
やっぱりナビ子がいないと……一人は寂しいもんな。
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「さて、今日は家の外に出てみようと思う」
家中の物をカードにしてもスキルのレベルは上がらなかった。
ナビ子の話によると、レベルを2にする為には、レア度のあるカードを100種類図鑑に登録しなくてはならない。
現在は素材と魔法カード計10種類だけ。
まぁ図鑑登録には含まれなかったが、異界シリーズをカードにすることによって、変化の使い方は随分と慣れた。
なので今日は家の外に出て、異界シリーズ以外のアイテムをカードにする。
目標は図鑑100種類登録。
そして【カード化】スキルをレベル2に上げる。
「あっじゃあカード状態でも構わないから『旅のしおり』は絶対に持って行ってね。じゃないとアタイが一緒に行けなくなっちゃう」
『旅のしおり』が擬人化したナビ子は、本体から50m以上離れることが出来ないらしい。
もし50m以上離れてしまうと擬人化が解け、しおりの中へと戻ってしまうのだそうだ。
しおりから離れさえしなければ、カード状態でもナビ子は居続けることが出来るらしいので、カード状態にして俺が肌身離さず持っていればいいらしい。
今回は『旅のしおり』をアイテム図鑑に入れておく。
どのみち森でカードにすれば、その都度図鑑に登録して内容を確認するのだ。
図鑑も手放せない。
図鑑も嵩張る為カードにしておく。
そして昨日の探索で見つけたウエストポーチの中に入れて持ち歩くことにした。
ポーチの中には図鑑のカードとは別に、図鑑には挟まず、すぐに取り出せる場所に4枚のカードを準備していた。
1枚目は昨日の探索で見つけた鉈だ。
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鉈【武器】レア度:なし
異界の刃物。
主に薪割りや雑草刈りに利用する。
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極々ありふれた鉈のようだが、現時点で唯一武器として使えそうな刃物だ。
森の中にはモンスターもいる。
その為、いつでも戦闘が出来る準備はしなくてはならない。
同じ理由で2枚目はベレッタ。
おそらく戦闘ではこちらを使うことになるだろう。
それからファイアとヒールの魔法カード。
使い捨てで1枚しかないから、可能な限り使いたくはない。
が、命に関わるようなことがあれば惜しまずに使うつもりだ。
まぁ今日に関してはモンスターに遭遇するようならすぐに逃げる。
戦うのはもう少しこの世界に慣れた……せめてベレッタの扱いに慣れてからにしたいと思う。
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玄関の扉を開けて家の外に出る。
見渡す限り木しかない。
「ねぇシュートぉ。一体何をカードにするの?」
「そりゃあ目に見えるものを片っ端からカードにしていくのさ」
「目に見えるものって……木しかないけど?」
「ならその木をカードにするまでだ」
俺は手近な木を触る。
「変化」
まずはこの木を……と思ったが、スキルが発動しない。
「はっ? 何でだ?」
昨日はスキルが発動しないことは一回もなかったのに……
「あのね。その木がカードになることを拒否してるの」
「……拒否?」
「うん。植物や動物……生き物はカードになるのを拒むの。誰だってカードよりも自由の方がいいでしょ」
確かにその通りだが……
「えっ!? じゃあ植物はカードに出来ないのか?」
えっ? それじゃあ昨日話していたリンゴの木の話はどうなるんだ?
普通にカードに出来るんじゃなかったのかよ。
「う~んと、地面に根をはった状態じゃ無理だけど、切り落とした木や、刈り取った草ならカードに出来るはずだよ」
「なるほど……つまり弱った状態ならカードに出来ると言うわけだな。しかしそうなると少し可哀想になるな」
「どうして?」
「どうしてって……弱っているのをカードにって……嫌がっているのを無理やりカードにするってことだろ」
そう考えるとカードにしにくくなる。
「う~ん。アタイは電子妖精だから可哀想って感情は良くわからないけど、要は薬草を摘んだり、木の枝を切り落としたりするのとおんなじだよ。人間はいつも可哀想って思いながら薬草を摘んでるの?」
「いや……」
確かにそんなこと考えたことはないと思う。
「ねっ。何でも可哀想って言ってたら何も出来なくなっちゃうよ」
ナビ子の言うとおりだ。
第一、植物で悩んでいたらモンスター図鑑はどうなる。
「って!? モンスター図鑑は? どうやってカードにするんだ?」
俺はモンスターに触ってスキルを使えばカードになると思っていた。
例え嫌がっても触って変化と唱えれば勝ちだと……
しかし、モンスターが拒否するなら話は変わって来る。
「モンスターをカードにするには2種類の方法があるんだ。ひとつはモンスターがカードになることを許可すること。もうひとつは……魔石を使う方法」
一つ目は分かる。
まぁそんな奇特なモンスターがいるか分からないけど。
命乞いするくらいに追い詰めないと許可しそうもない。
そして二つ目……
「魔石を? どうやるんだ?」
『グローリークエスト』ではモンスターを退治すると手に入るドロップアイテムだった。
用途は換金くらいしかなかったが……
「うん。モンスターには魔石があってね。そのモンスターの魂と言っていいんだ。だから魔石を変化させると、そのモンスターが図鑑に登録されるの」
「それって……死んだ状態じゃないのか? ってことは、モンスターは図鑑登録しか出来ないのか?」
解放してモンスターを使役することが出来るんじゃなかったのか?
もしかして使役するには生きている状態じゃないと駄目で、死んだ状態だと登録しか出来ない……なんてことじゃないだろうな?
「もちろん図鑑に登録されたら解放で呼び出されるよ。でもそれは捕まえたモンスターじゃなくて魔石から情報を読み取ったモンスター。つまりクローンって言えば分かりやすいかな。クローンモンスターはカードの所有者……つまりシュートに忠誠を誓うから何でも命令を聞いてくれるよ」
何てこった。
まさかモンスターを仲間にするんじゃなく、モンスターを殺してクローンを作るのかよ!?
「シュートのイメージと違った?」
「ああ……」
気分はテイマーのつもりだったが、これではネクロマンサーだ。
「じゃあモンスターは殺したくない。植物は可哀想だから取らない。それでいいの?」
「……いや、そうは言わないよ」
元々冒険者になればモンスターを退治する依頼もあるんだ。
泣き言は言ってたら生きていけない。
「そっか。じゃあ改めてしゅっぱーつ!!」
何だか微妙な感じになってしまったが、ナビ子に促されるように俺は森の中へと入った。
明日も間に合えば昼と夜の2話投稿します。




