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カード化スキルで図鑑コンプリートの旅  作者: あすか
第2章 冒険者登録
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閑話 アザレアレポート②

 わたくしは彼を応接室へと通しました。


 普段は貴族の方など立場のある方をお通しする部屋で、許可なく使用することはできません。

 ですが、その許可を出すのはギルドマネジャーであるわたくしですので、わたくしが利用する分には何の問題もございません。


 彼と妖精にはとっておきのお菓子を用意しました。

 最近流行し始めたケーキです。

 この辺りでは、まだこのライラネートでしか発売していないので、さぞや驚かれることでしょう。


 ……そう思ったのですが、わたくしの予想は外れてしまいました。

 いえ、実際彼はケーキを見て驚いたのですが、その驚き方がわたくしの予想と違っておりました。

 彼の驚き方は未知のものに対する驚きではなく、雰囲気的には何故ここにケーキがあるのかと既知のものに対する疑問の驚きでした。

 いったいどこで知ったのでしょうか?

 彼は訝しんでいるようで、中々手を出そうとしません。


 ここは彼より妖精の方を先に落としましょう。


「そちらの可愛らしい妖精さんも是非……」

「シュートシュート。アタイのこと可愛らしい妖精さんだって!」


 わたくしの言葉に妖精は喜びます。

 その仕草はお世辞ではなく、本当に可愛らしいと感じます。


「だけど……アタイ、人間と同じものは食べられないんだ」


 それは初耳です。

 確かに妖精は魔素があれば生きられると言われていますが、花の蜜が好きなことや、人間と同じ食べ物を食べる妖精も確認されております。

 ……単に警戒されているのか、眼の前の妖精が特別な種族なのか判断しかねますね。


「あらっそうなんですか。では……よろしければ、お2つともどうぞ」

「……ありがとうございます」


 仕方がありませんので、彼に妖精の分もお渡しします。

 彼は逡巡していたようですが、やがて観念したように食べ始めました。



 ****


 彼の名前はシュート、妖精はナビ子と名乗りました。

 シュート様とナビ子様ですね。

 相手がどんな方であれ、お客様には誠意を尽くす必要があります。

 たとえそれが嫌々やっている仕事であってもです。


 シュート様はやはり冒険者登録にやって来たようです。

 ですが、支援ギルドのことは何一つ知りませんでした。

 支援ギルド設立直後ならいざしらず、50年も経過しているのに、ここまで知らないとは……ギルドがない村に住んでいたとしても、ちょっと考えられません。


 ですが……決して馬鹿ではありません。

 わたくしの説明を全て理解しているようです。


 説明を終えた後、シュート様は一つの疑問を口に出しました。


「冒険者支援ギルドって経営が成り立ってるんですか?」


 シュート様は着眼点が人と違っているようです。

 わたくしはシュート様がどの程度理解できるのか試したくて、ギルドの仕組みに関して詳しく説明しました。

 すると驚くべきことに、シュート様は全て理解されたようです。


 シュート様は商人の息子で、子供の頃から英才教育でも受けてきたのでしょうか?

 いえ、それでは支援ギルドのことを全く知らないのは疑問が残ります。

 常識知らずですが、教育を受けている?

 随分とチグハグな存在と言えるでしょう。

 やはり非常に興味深い存在です。


「アザレアさん。何故この部屋に俺を連れてきたんです?」


 シュート様はわたくしの意図を確認します。

 シュート様は看破のスキルをお持ちです。

 わたくしの観察眼ほどではありませんが、看破のスキルにも嘘は通じません。

 わたくしは妨害系スキルを持っておりませんので、シュート様に嘘や誤魔化しは通じません。

 ですから、わたくしはシュート様に興味があることを正直に話しました。


「どうせ本当に興味があるのは、ナビ子の方ですよね?」


 ですが、シュート様は勘違いされたようです。

 確かにナビ子様にも興味がありますが、シュート様の方が興味があります。


 ですので、わたくしは観察眼スキルでシュート様のスキルを調べたことを白状しました。


 流石にスキルを知られたことには驚いたようですが、それでもスキル妨害が突破されたことはご存知だったようでした。


「あまり人のスキルを覗き見するのはいい趣味とは言えないと思いますが……」


 ごもっともな意見ですが、あまり責めているようには感じません。

 それどころか、指摘はするが、使われるのは当然と思っていそうです。


 その後、シュート様にスキルを確認したところ、やはり9つのスキルを所持していることが分かりました。

 その若さで9つのスキル……どうやって手に入れたか非常に気になります。


「俺をこんなところに連れてきて、どうするおつもりですか?」


 そしてシュート様は先ほどと同じ質問をします。

 わたくしの研究材料になりませんか?

 そう答えたらシュート様はどうされるのでしょう。

 流石に逃げ出しかねませんので、このギルドで冒険者になっていただきたいと無難に答えました。

 このギルドで活動して頂けるのであれば、これからいくらでもチャンスがありますからね。


「……言っときますけど、派閥争いや権力争いには参加しませんよ」


 この言葉には少し疑問が残りました。

 この街にはこのギルドを含む4つの支店と本部があります。

 そして確かにギルド間の派閥争いは存在します。

 ですが、それは一般の人には分からないこと。

 それを知っているのは別支店からの刺客か……いいえ、それは支援ギルドの存在を知らないことと矛盾します。

 となりますと、他国の介入?

 この国では全て冒険者支援ギルドになりましたが、他国ではまだ冒険者ギルドの場所もあります。

 ……可能性はありますね。


 もちろんシュート様はそれを否定されました。

 わたくしの観察眼が嘘ではないと証明します。

 ですがシュート様はそれすらも利用している気がします。

 そして冗談まで言える余裕もあるようです。


 ――どうにかしてその余裕をなくせないか。


 シュート様が慌てる姿が見てみたい。

 いつの間にかそう考えていました。


 どうやらシュート様は教習所で講習を受けたいようです。

 今までの話からシュート様には必要ないように思われますが……ふむ。

 これはいい機会かもしれません。

 試験までの期間、シュート様のことを知るチャンスです。

 わたくしがシュート様に付きっきりで教えて差し上げましょう。



 ****


 シュート様を宿屋へ案内した後、わたくしはギルドへ戻りました。


「ミーナさん。長い間、席を外して申し訳ございません」


 ミーナさんに持ち場を離れたことを謝罪します。


「いえ、本来ならここはアザレアさんの持ち場ではありませんから、謝ることではありませんよ」


 そう言われても持ち場を離れたことには違いません。

 それに、明日以降に関してもちゃんとお伝えしなければ。


「遅くなってしまいましたので、本日はこのまま業務に戻らせていただきます」


「あっはい。お疲れさまでした」


「それで大変申し訳ありませんが、明日から3日間、お休みを頂くつもりですので、こちらには来ることができません」


「えっ? お休みって……お仕事をお休みするんですか?」


「ええ。そうですが……何か問題がありましたか?」


 どうせ現時点で大した事件は……そういえばゴブリンキングの復活の可能性がありましたね。

 ですが、それもまだ初期段階ですし、慌てる必要はありません。


「いえ。問題はないんですけど、アザレアさんが休みを取るのを初めて見たので……」


「そう言われれば、ギルドマネジャーになってから休んだことはありませんでしたね」


 マネジャーになるまでは、今のように受付に立つことができませんでしたので、研究のために定期的に休みをとっていましたが、今はここに立つことが休みのようなものですので、あまり気にしていませんでした。


「もしかしてさっきの妖精を連れた人が関係しているんですか?」


「ええ。シュート様――先程の男性が、次の冒険者試験を受けることになりましたので、合格までお付き合いしようかと思いまして」


「お付き合い!?」


「あら、ミーナさん。ここでそんなに大きな声を出してはいけませんよ」


 本来ですと、会話すらしてはいけない場所です。

 まぁこの時間ですと、もう新しくいらっしゃるお客様は殆どおりませんが。


「すいません。少し驚いてしまいまして」


「……もちろんお付き合いと言いましても、恋人としてではありませんよ。シュート様が教習所に通われたいとのことでしたので、わたくしがお教えしようと思っただけです」


 実際はお教えすると言いますか、お教えいただくことになるでしょうが。

 先程は上手くあしらわれてしまいましたからね。

 ふふふっ明日は絶対に逃がしません。


「……アザレアさん。なんだか楽しそうですね」


「ええ。楽しいです。これ程までに楽しいと思ったことは初めてかもしれません。ではわたくしはこれで失礼します」


 わたくしはミーナさんに挨拶して、自分の仕事に戻ることにしました。

 これから3日分の仕事を終わらせて……ギルド長へ休暇申請をしなくてはなりません。


 いつの間にか、わたくしの中に退屈でつまらないという感情はなくなっていました。

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