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カード化スキルで図鑑コンプリートの旅  作者: あすか
第2章 冒険者登録
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閑話 アザレアレポート①

今回からしばらくの間、閑話となります。

アザレア視点でシュートと出会った所から、最新話までの話となります。

視点が変わっているだけで、内容は変わりませんので、飛ばしても問題ありません。

全4~5回を考えており、本編は日曜か月曜辺りに再開予定なので、飛ばされる方はそれまでお待ち頂ければと思います。

 ――ギルド職員になったことは、間違いだったのでしょうか。


 このつまらない日々に、毎日のように自問自答してしまいます。


 冒険者に触れる機会の多いギルド職員であれば、珍しいスキルに出会えると思いましたが、待っていたのは退屈な事務仕事でした。

 毎日毎日、間違いだらけの書類に目を通すだけの単調な仕事。

 面白みも何もありません。


 これならひとりで籠もって研究し続けていた方がマシだったでしょう。

 ですが、今となっては辞めることもできません。

 わたくしは間違っている書類を訂正していただけなのですが、それがこのギルドの大幅な業績アップに繋がったようで、気づけばギルドマネジャーという役職に就いていました。


 この冒険者支援ギルドを取りまとめているギルド長。

 その下にいるのが現場マネジャー、事務マネジャー、管理マネジャーの3名。

 わたくしはその3名とギルド長を繋ぐ役割をする……実質このギルドのNo.2になっておりました。

 わたくしはただ研究がしたいだけでしたのに、どうしてこうなってしまったのでしょうか。


 わたくしの仕事は単純で、各マネジャーから頂いた報告書に目を通し、ギルド長へ報告するだけ。

 まぁその書類は毎日何百とあり、書類に不備があれば再提出してもらわねばなりません。

 これがかなりの数あるので困りものです。

 全ての書類に間違いがなければ、確認する書類は半分以下になることでしょう。

 その中で重要な案件のみギルド長へ報告します。

 つまり、重要でない案件はわたくしが決をとることになるわけです。

 もしわたくしが辞めてしまったら、間違いだらけの書類が増え、ギルドは傾いてしまうかもしれません。

 ですから、今となっては辞めることは不可能でしょう。


 唯一の救いは比較的自由な時間が多いことでしょうか。

 書類の確認と、ギルド長への報告をしてしまえば、それ以外に仕事はありません。

 ギルド長に言わせると、普通の人なら、毎日残業しても、処理できない量とのことですが、わたくしの観察眼があれば、午前中で終わってしまう量です。

 観察眼があれば、間違いの箇所が一目で分かりますからね。

 楽なものです。


 わたくしはその自由な時間を冒険者の観察に費やしました。

 具体的にはギルドの入口に立ち、冒険者のスキルを確認するのです。

 ですが、それでも目ぼしい成果は得られませんでした。


 ――この人も駄目ですね。


 この支援ギルドで初めて見る顔でしたが、大したことないでしょう。

 観察眼を使わなくても、くたびれた装備と表情を見れば分かります。

 ですが、一応確認してみますか。

 ……やはり大したスキルを持っていませんでした。


 ――本当につまらない。


 あの日、彼に出会うまではそう思っていました。



 ****


「なんでアザレアさんは毎日ここに来るんですか?」


 わたくしと一緒に受付に立っていたミーナさんが尋ねます。

 ミーナさんはわたくしと違い、正式な受付担当です。


「……それは迷惑だから来るなと言う意味でしょうか?」


 確かに部署が違うわたくしが一緒にいては迷惑かもしれません。

 そもそもわたくしはここの職員から嫌われているようです。


 わたくしは間違った書類を訂正させているだけなんですが、誤字脱字や計算ミスなど細部までひとつひとつ注意しておりますので、面倒な女だと思われているようです。

 それから観察眼のスキルを所持しているのも理由のようです。

 スキルも嘘も、全てを見透かしてしまうので、遅刻や欠勤、就業中のサボりの言い訳が出来ないのです。


 本来ならわたくしは他の職員と部署が違いますので、わたくしが直接叱ることはないのですが、他のマネジャーが何故かわたくしの前で職員を叱るのです。

 わたくしを嘘発見器かなにかと勘違いしてやしませんか?

 そしてわたくしは、職員が嘘をつくと指摘します。

 そこはしっかりと判断させてもらいます。


 ですから、一部では血も涙もない氷の女帝などという名前で呼ばれているようで……わたくしとしては、間違った書類を提出したり、サボる方が悪いと言わせていただきたいです。


 ミーナさんは真面目で怒った記憶はありませんが、それでもわたくしを疎ましく思っているのかもしれません。


「違います! 窓口と違ってこの総合案内所は私達の間でも不人気な場所なのに、なぜ秘書のアザレアさんが毎日ここに立つのか疑問に思って……」


 入口の総合案内は一番冒険者から問い合わせも多く、ギルド全体の知識も必要となってしまいますから、職員の間で不人気なのは知っております。

 これが他の窓口ですと、そこの知識だけであればいいので、受付嬢の中では人気があるようです。


 わたくしがここに来る理由は、冒険者の観察が一番できる場所だからですが、他人のスキルを覗き見することが趣味ですと正直に言ってしまうと、引かれてしまいそうです。

 これ以上、氷の女帝のような汚名を増やしたくはありません。


「まずわたくしは秘書ではなく、ギルドマネジャーです。そこをお間違えないよう」


 ともかく、これだけは訂正せねばなりません。

 現在ギルド長に秘書がいないため、わたくしが暫定的に秘書の真似事も行っておりますが、わたくしはあくまでギルドマネジャー。

 秘書ではありません。

 秘書は常にギルド長の側でサポートをし続けねばなりません。

 そんな面倒くさいことは御免被りたいです。

 ギルド長には早く正式な秘書を雇っていただきたいものです。


「それからわたくしがここに立つのは、一種の気分転換です。事務処理ばかりですと肩が凝ってしまいますから。それにここからですと、ギルドが見渡せますので、何かあるとすぐに分かります」


 ええ、気分転換です。

 たとえ珍しいスキルに出会えずとも、ここで冒険者のスキルを確認することが、わたくしの唯一の癒やしなのです。

 ですから、どんなに疎ましく思っていても、ミーナさんには我慢してもらいたいと思っております。


「さっ無駄口を叩いている場合ではありません。次のお客様がやってきますよ」


 こういう部分が融通利かないと言われる部分でしょうが、お客様にとって入口で受付がおしゃべりしているほど見苦しいものはありません。

 わたくしとミーナさんはギルドに入ってきたお客様に挨拶をします。


「いらっしゃいませ」


 やって来たのは冒険者ではなく、一般の男性。

 冒険者かそうでないかは装備を見れば分かります。

 年は15、6でしょうか。

 男性というよりは少年と呼んだほうがシックリくるかもしれません。

 服装からして、彼はこの街の方ではなく、おそらく外からやってきたのでしょう。

 こういう方は村のおつかいか、冒険者志望かのどちらかと決まっています。

 今回は後者の方でしょう。

 なぜなら彼は他の人とは明らかに違う箇所がありました。

 彼はわたくし達を一瞥すると、ギルドの中へ入っていきました。


「あっアザレアさん。妖精ですよ妖精。私、初めてみました」


 ミーナさんの言う通り、彼は妖精を連れて歩いていました。

 わたくしはエレメンタラーの召喚で何度か妖精を見たことはありますが、あんなに堂々と人前に顔を出す妖精は初めてです。

 それに彼によく懐いているようにも思えます。


 彼はギルドの中で立ち止まって、妖精と話し始めました。

 ……一体何を話しているのでしょうか。

 行儀が悪いですが、気になったので聞き耳を立ててみることにしました。


『何が違うの?』

『何というか……俺が思っていた冒険者ギルドは、もっとこう活気があって……』

『十分活気があると思うけど?』

『いや、こういう活気じゃなくてさ……簡単に言うと、こんなに事務的な感じじゃないんだよ』


 どうやらこのギルドの感想を話しているようですね。

 事務的……確かに言われれば事務的かもしれません。

 ですが、そのような感想を持った方は初めてですね。


『じゃあシュートはどんな感じを想像してたの?』

『そりゃあ……冒険者が依頼ボードに詰め寄って、依頼の取り合いをしたり、酒場と一体化してて、どんちゃん騒ぎをしていたり……そしてお約束が発生するんだ』

『お約束?』

『そう。俺みたいな目立っている奴に絡んでくる冒険者さ』


 どうやら彼はシュートという名前のようです。

 そして彼が思い描いていたのは、今の支援ギルドではなく、昔の冒険者ギルドだということが判明しました。

 年配の元冒険者が過去を懐かしんで話すことはありますが、彼のような若い方が冒険者ギルドと勘違いしているのは珍しいですね。

 それにしても、彼は自分が目立っていることを自覚しているのですね。

 まぁ妖精を連れて入れば今までもずっと目立っていたことでしょう。


 ですが彼は冒険者に絡まれても平気だと思っているようです。

 ただの自信家なのか、それほどの実力者なのか……調べてみましょう。


 わたくしは彼に向けて観察眼を使いました。

 すると、いつもと違い、上手く読み取れません。


 ――妨害系のスキルですか。


 どうやらしっかり対策を立てているようです。

 これは自信家よりも実力者の可能性があります。

 わたくしは、より一層彼に興味を抱きました。


 わたくしは再度観察眼スキルを発動します。

 先程は感心してスキルを解除してしまいましたが、妨害系スキルで観察眼を防ぐことは出来ません。

 今度はしっかりと確認……して、驚きました。

 なんと彼はすでに5つのスキルを所持していたのです。

 命中補正、統率、看破、魔力妨害、スキル妨害。

 命中補正以外は全て珍しいスキルです。

 わたくしの観察眼を妨害したのはスキル妨害でしょう。

 それにしてもまだ若いのにどうやって……。

 と、ここで観察眼に何か違和感がありました。


 ――まだ何か隠されている?


 わたくしは更に観察眼の効果を強めます。

 すると彼が突然身震いしました。


 ――まさか気づかれた!?


 観察眼を発動して気づかれたことなど初めてです。

 わたくしは慌てて観察眼を解除しました。


 ですが、解除する前に一瞬だけ見えたスキル。

 召喚、錬金、魔の素養、隠蔽のスキルが新たに表示されていました。


 ――隠蔽のスキルでスキルを隠していた!?


 そんな事が可能なのか?

 ……今のが幻とは思えません。実際に可能なのでしょう。


 スキル妨害だけでなく、更に隠蔽スキルまで発動しているなんて……彼はどこまで用心深いのでしょうか。

 ですが、その用心深さもこのスキル構成なら納得です。

 召喚、錬金、魔の素養。

 どれかひとつでも素晴らしい才能なのに、それが3つも……ありえません。


 ああ……もう一度じっくりと確認したい。

 ですが、彼は慎重に辺りを探り始めました。


 ――このままではマズいですね。


「ミーナさん。先程のお客様が困っていらっしゃるようですので、少し席を離します」


 わたくしはミーナさんに断りを入れて、彼の元へ向かいました。

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