第104話 ここからはじめよう
「――それで結局どうなったの?」
ライラネートに帰ってきてから2日後、朝起きるとナビ子が帰ってきていた。
逃げたことに悪びれもせず平然と帰ってきたので、文句のひとつも言ってやりたかったが、そこをグッとこらえた。
下手にへそを曲げられて、お土産を貰えなくても困るからな。
今回は何も依頼してないけど、逃げたことに罪悪感を感じているなら、お土産で誤魔化そうとするはず。
……期待していいよね?
だが、お土産の前にお互いの不在中の報告が先だ。
俺はギルマスとの会話。
そしてアザレアと対等の協力者になったことを説明した。
「結局、俺のことをさん付けで呼ぶことで手を打ったよ」
いきなり呼び捨てとタメ口はハードルが高かったようだ。
まぁそのうち慣れるだろう。
そして俺はアザレアと呼び捨てにすることにした。
「またアタイが居ない時に面白いことして……」
「今回はナビ子が怒られたくないって勝手に逃げただけだろうが」
うん。今回は俺に落ち度はまったくない。
文句を言うなら逃げるなって話だ。
「あはは~まぁアザレアとも仲良くなったし、何事もなく済んで良かったじゃん」
「まぁな。それでナビ子の方はどうだったんだ?」
「アタイの方は今回のキングの話をしたら喜んでもらえたよ」
キングのスキルやゴブリンの生態など、いいネタが手に入ったと運営は喜んでいたそうだ。
「この調子で今後もネタ提供よろしくだって」
そうは言われても、ネタなんてそう簡単に転がってないぞ。
「あっあと、やっと新しい人がこの世界にやってきたみたい」
「本当か!?」
俺と同じ日本人がついにこの世界にやってきたのか。
「前に言っていた連勝していた人?」
10週連続トップが条件は、前回の定期報告でも継続中だったので、トップを維持し続けていたら、もうこの世界に来ていてもおかしくない。
「うん。その人と、もうひとり改造の人」
「えっ2人も!?」
確かゲームを不正に改造した人も条件だったな。
……そんな人をこの世界につれてきて大丈夫なのか?
「ちなみにその2人もカード化みたいなスキルを貰っているのか?」
こっちの世界に来る人は2つのスキルが貰える。
1つ目が言語翻訳。
これは全員が貰えるスキルだ。
そして2つ目が満たした条件にちなんだスキル。
俺の場合はカード化だったが、他の2人はなんだろう?
「あのね。お互いのスキルに関しては話しちゃ駄目なの」
じゃないと後から来た人が不利になるからだそうだ。
有利とか不利とか……別に競争じゃないんだからいいと思うけどな。
「そもそも、2人は別の国でスタートするから、会えない可能性のほうが高いけどね」
俺がいる国はバルバラート帝国。
人間だけでなく、エルフやドワーフ、獣人などの亜人も認める多種族国家だ。
そして連勝の人がスタートした国はストラーン共和国。
改造の人がスタートした国がミース王国。
どちらも詳細が不明らしい。
「アタイが担当していたのはこの帝国だからね。それ以外の国のことはよく分からないんだよ」
そもそもこの国のことだって、そこまで詳しく知っているわけではないしな。
「来月の定期報告の時には、もっと詳しいことが分かってると思うよ」
詳しいことが分かっても他国じゃなぁ。
あまり気にしなくてもいいか。
「それからね。アタイも少しだけパワーアップしたんだよ!」
「……これ以上何をパワーアップしたんだ?」
ナビ子は十分チートキャラだっただろ。
「えへへ。実はね、新しいスキルを手に入れたの」
新しいスキル……。
「どんなスキルだ?」
「えっとね。代理人ってスキルだよ」
代理人……なんかヤバそうなスキルだな。
「あのね。許可してくれた人が持っているスキルを、代わりに使うことが出来るの」
「それって例えばカード化スキルを許可したら……」
「アタイもカード化スキルが使えるってことだね。でも、アタイが使っている間、その人はスキルを使えなくなっちゃうの」
「……それって意味があるのか?」
同時にスキルが使えるなら意味があるだろうが、片方しか使えないならあまり意味はない気がする。
「例えばシュートが寝ている間に、分解スキルを使って作業したり出来るよ」
あっそれは便利かも。
こないだのキング戦前に、それができたら集落に到着前にレベルが上ってたかもしれない。
……経験値も共有するのかな?
聞いてみたが、それはナビ子にも分からないとのこと。
使ってみなくちゃってことなんだろうな。
「他にもラビットAの魔の素質スキルで魔法が使えるようになったり出来るんだ。これでアタイも戦えるよ!」
えへへっとナビ子は嬉しそうに笑う。
魔力切れになった仲間のスキルを代理人スキルで使えば、ナビ子も魔法が使えて敵と戦える。
そして特筆すべき点は、対象がカード状態でも発動すること。
怪我の治療などで回復中の仲間の代わりができるようになる。
だが魔法は代理人スキルでは継承しないので、魔法だけはナビ子が覚えるしかないそうだが。
魔法だけはいくらでも覚えられるので問題ない。
ナビ子も戦う……か。
今までもナビ子は裏方で十分活躍してくれたけど、戦闘能力だけは皆無だった。
もしかしたら気にしていたのかもしれない。
「あとね! これが今回のお土産カード!」
おっ、待ってました。
今回は何かなぁ。
「まずはいつもどおりビールとニンジン」
「良かった。これでまた1ヶ月過ごせる」
バランの村でビールを配ったりしていたから、在庫が心もとなかったんだ。
言われなくても定番どころを押さえるのは流石だ。
「……あれ? ニンジンが前回よりも多くない?」
前回はカード1枚だったが、今回は2枚ある。
確かにラビットAは頑張ったけど、流石にこれはやり過ぎじゃないか?
「1枚はラビットAで、もう1枚はユニコのだよ!」
ユニコーンも行きと帰り、そして戦場とすごく頑張ってくれたもんな。
だけどユニコーンってニンジンを食べるのか?
……まぁ一応馬だからニンジンが好きかもしれない。
「んで、残りのカードがこれ!」
残りのカードを確認してみる。
ニンジン以外の野菜に果物に調味料に料理本。
あれっ? もしかしてこれ全部食べ物関係じゃね?
「何が欲しいか分からなかったから、今回は全部食べ物で統一したよ! 食べ物ならハズレはないしね」
いや、確かに希望は出してないし、食べ物だったら図鑑の肥やしになることもないだろうけどさ。
でも、なんかもっと他にあるだろう?
「ほら、今回の料理本はお菓子系中心にしたから、甘味系も食べられるよ。それに今度パーティーもするんでしょ?」
そういえばサフランとアザレアの3人でお祝いする話になっていた。
そう考えると料理関係で良かったかもしれない。
「何か必要なものがあったら、来月に頼んでよ」
そうだな。
特に今すぐ欲しいものはないし、何か欲しいのがあればリストアップしておこう。
「それで、色々と解決したけど、シュートはこれからどうするの?」
「そりゃあ決まってるだろ」
念願の冒険者になった。
ゴブリンを倒して大量のカードを手に入れた。
カードの上限も解放されて戦力もアップできそうだ。
そして頼りになる協力者と、相棒もいる。
「本腰を入れてカードを集めるんだよ」
俺の図鑑コンプリートの旅はここから始まるんだ!
ここまでお読みいただきまして、誠にありがとうございます。
今回で一旦の区切りとさせていただきます。
もちろんここで完結ではありませんので、この後も続きます。
ですが、次回から少しだけ本編は休みで閑話となります。
本編をお待ちの方は少しだけお待ち頂ければと思います。
詳しくは活動報告に書かせていただきますので、そちらをご覧頂ければと思います。
最後になりましたが、ブクマや評価、感想などいつもありがとうございます。
大変励みになっております。
誤字報告もありがとうございます。
沢山報告を頂いておりまして……細部までしっかり読まれて嬉しい反面、誤字の多さに恥ずかしさでいっぱいです。
もしよろしければ、これからもお付き合い頂けますと幸いです。




