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カード化スキルで図鑑コンプリートの旅  作者: あすか
第2章 冒険者登録
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第102話 いいわけ

「あんのくそ羽虫が!」


 俺は思わず悪態をつく。

 ナビ子め……こういうことだったのか。


 ナビ子はライラネートに入ると、すぐに日本へと帰っていった。

 月一の定期報告とメンテナンスだ。

 確かに前回山で定期報告してから1ヶ月くらい経つ。

 だから何もおかしくない。


 だけど……


「帰り道に言わなかったのは、俺が到着を遅らせるからか」


 あの時ナビ子が言ってたら、俺はライラネートの街に入らなかっただろう。

 近くでマイホームを出して、優雅に暮らしてたに違いない。

 そして、ナビ子が帰ってきたら二人で怒られるんだ。


 だが、街に入った後ではもう無理だ。

 俺が街に入ったことは門番を通して既に知られている。

 一応犯罪者扱いではないから捕まることはなかったが、俺が街に入ったらギルドに連絡がいくようになっていたらしい。

 それを聞いただけで、ギルド側の本気が伝わってくる。


 正直気が重いが……どうしようもないので、諦めてサフランのいる宿屋へ向かった。



 ****


「シュートさん!?」


 サフランが驚いて俺に近づいてくる。

 どうやらここにはまだギルドの魔の手は届いてないらしい。


「お帰りなさい。早かったですね」


「だからすぐに帰ってくるって言っただろ。あの部屋はまだ空いてる?」


「ええ。ちゃんとそのままにしてます。あっ、もちろん掃除はさせてもらいましたが……あれっ? ナビ子ちゃんは?」


 サフランが俺の周りをキョロキョロとナビ子を探す。


「ああ、ちょっと用事で留守にしてるんだ。多分数日したら帰ってくるよ」


 俺がそういうと、サフランが良かったと安堵する。


「もう! ナビ子ちゃんの姿がないから、最悪な想像をしちゃったじゃないですか」


 怖がらせないでくださいと、口を尖らせる。

 どうやらサフランにも、俺が何してきたかバレバレのようだ。

 最悪の想像とはゴブリンに殺られたとでも思ったのかな?


「ははっ、最悪な想像って……俺は村に帰ろうとしただけだぞ」


「……そーですねー」


 サフランがジト目で投げやりに言う。

 まだその設定をするんですか?

 そう訴えられているような気がする。


「まっ、まぁいいじゃないか。それよりも今日は疲れたから休ませてもらってもいいかな?」


「お金は頂いてますので構いませんけど……多分、休めないと思いますよ」


 サフランが俺の背後を見ながら言う。

 ナビ子がいないから、気配察知は使えないけど、なんとなく背後からプレッシャーを感じる気がする。

 だが、俺は気づかない振りをする。


「構わないなら、休ませてもらおうかな」


 俺は振り向かずに急いで2階に上がろうとし……


「まさか本当に休めると思っているのでしょうか?」


 俺はアザレアさんにガシッと肩を掴まれた。


 ****


 通されたのはいつもの応接室。

 もちろん今回もケーキはない。


 目の前にはギルマスとアザレアさん。

 二人とも随分とお怒りのようだ。


「やってくれたな。お陰でギルドは大損だ」


「なんのことでしょう?」


「しらばっくれるな。貴様がゴブリンの集落を壊滅させたのは既に分かってる」


「別に証拠はないですよね」


 するとギルマスが2枚の紙切れを取り出した。

 俺があの時冒険者に送った手紙だ。


「この紙と答案用紙の筆跡が一致した」


 ……これ以上ない証拠だった。

 筆跡鑑定とかこの世界にもあるんだなぁ。

 って、感心している場合じゃない!


「何でここに手紙があるんですか! あの冒険者たちはまだ戻って来てないでしょ?」


 俺の方がゴブリンの集落を後に出たが、ユニコーンで移動した俺よりも早くたどり着くとは考えにくい。


 だが、その疑問にはアザレアさんが答えてくれた。


「ギルドには、どれだけ離れていても話ができる魔道具と、物を送ることができる物体転送の魔法が存在します」


 それであの冒険者たちは集落近くの街のギルドからここに連絡してきたそうだ。


「なにそれズルい」


 話ができる魔道具って要するに電話だろ。

 それと物体転送の魔法。

 めっちゃ欲しいんだけど。

 電話は魔道具ってことだから厳しいかもしれないが、物体転送の方は魔法だからカードに出来ないかな?


「わたくしはシュート様の存在の方がズルいと感じますが」

「俺もそう思う」


 失敬な。

 んでも、これならもう誤魔化しは絶対に無理だな。

 俺は諦めて開き直ることにした。


「……言っておきますが、俺は依頼を受けたわけじゃありませんからね。魔石も素材も渡しませんよ」


「分かっている」


 よかった。

 ここで渡さないと冒険者を辞めさせるとか言われたら、辞めなくちゃいけないところだった。


「貴様が手に入れた魔石や素材は言い値で買い取ろう。それでどうだ?」


 どうだって言われても……


「いや、元々売るつもりなんて全くないんですが」


 売るとしてもゴブリンの素材だけかな。

 まぁそれだと二束三文にしかならないだろうけど。


「魔石を手放す気はないと?」


 どうやら欲しいのは魔石のようだ。

 キングの魔石はレアだろうから、研究などに使うのかもしれない。


「魔石は手放す予定はありませんね」


「どうしてもか?」


 そんなに欲しいのか?

 何か別の理由があるのか?

 例えば、キングを倒した証明が必要とか……ありうるな。

 キングが倒されたって言っても、死体も魔石もないじゃあ信じてもらえないだろう。

 そもそも本当にキングなんていたのかって話にもなる。

 ギルドの信用にも関係することかもしれないな。


「売るつもりも手放すつもりもありませんが、条件次第では貸し出しますよ」


「……何を言っているんだ貴様は?」


 あれっ? 違った!?


「いやぁてっきりキングの部位証明でも必要なのかなぁと」


「……ああ。そういうことか。それで貸し出すと」


「ええ。必要だったらお貸ししようと思っていましたが……どうやら不要のようですね」


 俺の勘違いだったようなので、ちょっと恥ずかしい。


「いや待て。確かに部位証明はあった方が助かる。その条件は?」


「え~っと、貸すのは1回だけなのと、期間を明確にすること。それから加工などは一切しないことですかね」


 貸すのは1回なのは、戻ってきた後でスキルにするから魔石が無くなる。

 貸出期間を明確にするのは、なぁなぁで借りパクを防止するため。

 加工されるとスキルカードに出来ない可能性があるから。

 この3つさえ守ってくれたら、一時的に貸すのは問題ない。


「金は?」


「頂けるなら貰いますが、正直どっちでもいいです」


 現在絶賛金欠中だけど、金稼ぎ自体はどうとでもなるしね。

 それよりもタダにすることで恩を売る……いや、今回は詫び代わりかな。


「分かった。それは後でアザレアと詰めてくれ」


 ということなので、詳細は後日になるが、ゴブリンキングの魔石を貸し出すことになった。

 それはいいのだが、結局なんでギルマスは魔石を買い取りたかったんだ?


「あの~部位証明が目的じゃなかったのなら、なんでギルドは魔石を欲しがったんですか?」


 俺は素直に聞いてみた。


「さっきギルドは大損って言ってましたけど、ミドルポーションやハイポーションを置いていったから、そこまで損って訳じゃないですよね?」


 緊急依頼の報酬の金貨1000枚の代わりにはならないかもしれないけど、半分くらいは取り戻しているはずだ。

 それにどうせ冒険者がゴブリンを倒したら別途報酬がってことだから、その報酬がない分、余計な出費もせずにすむ。

 むしろ俺から言い値で買い取った方が損じゃないか?

 それとも、キングの魔石にはそれ以上の価値があるのか。


「別にギルドが損するから言っているのではない」


 だったらどうしてだろう?

 ギルマスは少し言い淀んでいたが、少し待つと決意した表情で話した。


「……正直に言おう。俺は貴様が恐ろしい」


「はい?」


 俺が恐ろしい?

 ヤクザみたいな強面の顔をしたゴリマッチョが何を言っているんだ?

 仮にここに100人いたら、全員が俺よりギルマスの方が恐ろしいって言うぞ。


「貴様のサマナー能力があれば、ゴブリンキングをいつでも何回でも呼び出せる。そうだな?」


「……制限はありますが、やろうと思えばできます」


 ここは嘘をついても仕方がないので、正直に答える。


「貴様は単体でゴブリンキングの勢力を撃破する戦力を持っている。その上で、今度はキングの能力と、軍勢を手に入れた。貴様がその気になれば、このライラネートはあっという間に滅ぼされてしまうだろう」


「俺はそんなことしませんよ」


 まぁ俺がいくらそう言っても、信用できるわけない。

 なにせギルドを騙して魔石を手に入れたようなものだからな。


「貴様は自分が不利になるのが分かっていて、冒険者を助けた。魔石を独り占めしようとするガメつい一面もあるようだが、基本的には悪人でないことは分かる」


 褒められているのか微妙なところだな。

 まぁ悪人じゃないと言われただけマシかも知れない。


「だが、それは今の話だ。将来は分からん。もし将来貴様が凶行に走ったら……誰も止められんだろう」


 裏切りや大事な人が殺され、復讐者になったり。

 大金やレアアイテムが手に入って、強欲になったり。

 強くなった自分を確かめるために人を襲うようになったり。

 いい人が豹変することはよくある話だ。


 俺だって、もしコレクションに何かあったらどうなるか分かったものではない・

 かといって、はいどうぞと魔石を渡すわけにはいかない。


「確かに俺自身将来どうなるか分かりません。ですので……そうならないように、ここを俺が壊したくない大事な街だと思えるようにしてください」


 俺がそう言うと、ギルマスが少し驚いた表情をし……笑い出した。


「くくくっ。だとよアザレア。貴様がコイツを籠絡すれば、万事解決らしい」


「ろうっ!? なんてことを言うのですか!!」


 あ~あ。

 顔を真赤にして。

 だからからかわれるんだ。


「あの~俺にも一応好みがあるんですが……」


 だから俺もからかう。


「んなっ!? わたくしは好みではないと申されるのですか!?」


 いやいや、見た目はドストライクなんだけどね。

 性格は……うん。

 少なくとも、そう簡単に籠絡はされないかな。


 ただ籠絡はされなくても、この雰囲気が続く限り、俺は変わらないと思う。

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― 新着の感想 ―
[一言] 設定が綿密で物語が作り込まれており面白い、ただ、ここで主人公に失望してしまった。ここで開き直るのは許せない。せめて現場を引っ掻き回したことは紳士に謝って欲しかった。そもそもの話、コレクション…
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