第100話 後始末
ウィッチがゴブリンキングを倒し、集落にいたゴブリンは全滅した。
残っているのは、集落の外にいた偵察ゴブリンくらいだろう。
それはギルドの冒険者に任せればいい。
そんなことよりも、もっと大変な問題に直面していた。
「……これ、全部をカードにするのか?」
集められたゴブリンの死体の山を見て辟易する。
今回の戦闘で死んだゴブリンは、ゴブリンシャーマンによって、集落の外で山積みにされていた。
その数およそ500。
今も集落からゴブリンの死体が、歩いてここまでやって来ている。
ゴブリンシャーマンが死体を操作しているだけだけど……その光景はまるでどこかのB級映画のようだ。
この世界にきてグロにも慣れてきたけど、それでもこの光景には目を背けたくなる。
1000体と言われていたゴブリンだが、偵察などで出払っていたゴブリンが100、奇襲で吹き飛んで回収できないゴブリンが100。
戦闘での損傷がひどく、素材が回収できそうにないゴブリンが200。
その200に関しては、3リスによって魔石だけ回収して、死体の横に置かれている。
最終的に回収できそうなゴブリンの魔石は700くらいか?
かなりの成果だが……これを1体ずつカードにするのに、どれほどの時間が必要なのか。
それに、カードにするのは死体だけではない。
集落の建物から何かお宝が見つからないか、仲間たちに探させている。
流石にお宝まではナビ子の気配察知でも探せないからな。
ゴブリンジェネラルは結構いい装備をしていたし、掘り出し物が見つかるかもしれない。
う~ん。どう考えても時間がかかる。
下手したら、ここで一晩過ごすことになるかもしれない。
冒険者たちはまだ戻ってこないと思うが……こんな所からは早くオサラバしたいものだ。
「なぁナビ子……何かいい考えはないか?」
ダメ元で聞いてみる。
「そんなの、まとめて1枚のカードにしちゃえばいいよ!」
思いの外簡単に答えが帰ってきた。
「……そんな事ができるのか?」
「できるよ。ニンジンやビールだってまとめて1つにできたでしょ」
「あれはダンボールに入っていたからだろ。冷蔵庫とかタンスとかと一緒だ。でも、これはむき出しじゃないか」
この死体の山を箱詰めする?
いやいや、そっちの方が大変だ。
そもそもそんな箱はない。
「うん。だからね……蜘蛛を使うの。スパイダー達をありったけ呼び出して」
俺は言われたとおり、スモールスパイダーとデスタランチュラを呼び出す。
「この蜘蛛の糸を使って……」
ナビ子の支持に従ってスパイダー達はゴブリンの山に糸を吐く。
糸はゴブリンを包み込み……巨大な繭のようになった。
「これで不明品ってアイテムになったと思うよ」
不明品?
俺は騙されたと持ってカード化を試みる。
――――
包み物【不明】レア度:なし
包み物。
中身不明。
――――
確かにできた。
「宝箱や封のしてある段ボール箱とか、中身が分からないようになっているのは、基本的にレア度なしの不明品でカードにされるんだ」
「中身はゴブリンの死体だけど?」
「それはアタイたちの認識で、外から見たら分からないでしょ。タンスの中に銃が入っているのを知っていても、表示されないのと一緒だよ」
「じゃあニンジンは? あれもダンボールに入ってたと思うけど」
「あれはダンボールの封は開いていたでしょ。あれが閉まっていたら、段ボール箱で中身不明とかなってたと思うよ」
確かにカードになったときのイラストはダンボールが開いていた。
そして今回は糸に包まれて中身は見えない。
「それにゴブリンの死体だけじゃなく、ホブゴブリンや上位種もいるでしょ。ニンジンのときだって、他の野菜が入っていたら、野菜セットとかになってたと思うよ」
なるほどな。
仮に中身が分かったとしても、死体詰め合わせ……嫌なカードだな。
「でも、そんな便利なことが出来るのなら、なんで今まで教えてくれなかったんだ?」
山での生活の時は死体も1枚1枚別々にカードにしていた。
けど、それを知っていたらもっと楽だったんじゃあ……
「あの時は分解が使えなかったからね。解放する度に死体の山が出てくることになったよ」
そっか。
まとめて1枚のカードになっても、解放すれば毎回死体の山が出ることになる。
「包み物を分解するとね。ゴブリンの死体が1枚ずつカードになるんだよ」
「死体の分解はしないのか?」
「死体だって、素材と魔石に分解するけど、魔石がスキルに分解することはないでしょ。分解にもちゃんと段階があるんだからね」
確かに。
というか、勝手に全部分解されたら困ることも多いだろう。
「それにね。このカードには500以上の死体が入ってるんだよ。このカードを分解するだけで、どれくらい時間がかかると思ってるの?」
1枚30秒と考えて……1時間で120枚。
「……4時間以上?」
「分解って、結構魔力を使ったり、集中が必要よね? 大変だと思うよ~」
……考えたくないな。
「まぁ分解は帰りの馬車の中でゆっくりやればいいと思うよ」
「そうだな」
もう急ぐ必要はないんだし、ライラネートにはゆっくり帰ることにしよう。
****
結局集落には装備品とかが少しあったが、めぼしいアイテムは存在しなかった。
まぁまだ何処にも攻めてない集落だとこの程度だろう。
集落はこのまま残すことにした。
損傷のひどいゴブリンの死体も残っているが、これだけ損傷がひどいとアンデッドにもなりにくいそうだし、数日経てば魔素に還元されるとのこと。
それに、冒険者が来た時に、ゴブリンが全滅した証明としても必要だしね。
そういうことで、俺はユニコーン以外のカードモンスターを全員カードに戻してライラネートに帰ることにした。




