第1話 「振り返ると異世界人」
殭屍……
もともと中国において人が死んで埋葬する前に
室内に安置しておくと夜になって突然動きだし
人を驚かすことがあると昔から言われていた。
ミイラのように乾燥した遺体は中国でも出土され
これは「乾屍」と呼ぶ。
妖怪としては下位分類あるいは別種として
区別されていたが殭屍はその上位!
殭屍は一切腐敗せずに生前同様に
ふっくらとしていて、髪の毛も長く生えている。
性格は凶暴で血に飢えた人食い妖怪であり
さらに長い年月がたつと神通力を備え
空を飛ぶ能力なども持つとされる————。
俺はそんなキョンシーを子供の頃から
こよなく愛する〝キョンヲタ〟である。
子供の頃の夢は〝道士〟になる事!
キョンシーを従え 悪徳道士と法術で
飛んだり跳ねたりしながら闘う事が夢だった。
そしてこれが今の俺の現実…
冴えない外見に冴えない仕事…
生まれてこの方彼女無しの童貞ッ…
仙道鏡太郎24歳ッ!
学生時代に好きな子も居たが恋愛よりも
キョンシー映画に夢中だった……何してんだ俺…
何の為に生まれてきたんだろう…
なんて考える日々を過ごしながらポテチの袋を破り
擦り切れる程観たDVDを再生…
幾度と無く観たキョンシー映画を今日もまた観ている。
「あぁ…こんなカッコイイお爺ちゃん道士になりてぇなぁ」
とポテチを咥えながら呟くと
テレビが突然発光し出し部屋中を包み込んだ。
余りにも眩しくて俺は手で目を覆い俯く…
「なんだなんだ再生し過ぎて壊れたのか!?」
俯いたまま俺は後ろを向き、光りを背にし
少しずつ目を開ける…とそこは俺が居た部屋じゃなく
見たことも無い鮮緑に輝く草原が広がっていた。
「えっ!?」
理解出来ない 理解出来ない 理解出来ない…
「ここドコォォォォッ!!!」
パニックになった俺は叫ぶしかなかった……
ハッ!と我に返り着ていた服を彼方此方弄り
所持品を確認…あったのは携帯と煙草
百円ライターと全財産の入った財布だった。
我に返ったとはいえ…やっぱり状況が何ひとつ
整理出来ずにいると背後から声を掛けられた。
「おい! 其処の怪しい奴 此方を向け」
ビクッとなる俺は恐るおそる振り返ると
そこには小汚い格好の村人らしき白髪のオジサンが
ボロボロな鍬を片手に構えていた。
「何何何ッ!!!」
と驚きながらも俺は両手を上に挙げ
小汚いオジサンに敵意のない事を示した。
オジサンは鍬を俺に向け、話しかけてきた
「変わった格好をしおって…異国の者か?」
「えっ?…異国ですか?」
異国ゥゥ!? おいおい異国って…部屋に居たのに…
それに俺言葉分かるし 通じてるし……異国ゥゥ!?
まったく訳が分からないまま、とりあえず俺は
オジサンに話を合わせる事にした———。
オジサンの話によると最近この辺には野党や
妖怪変幻に魔物なんかも出没するらしく…
「よよよっ妖怪ぃぃ!!?」
「何じゃビックリした!! いきなり大声出すな!」
驚かせて申し訳なかったがオジサンは俺の反応を見て
何も知らない異国人という事で納得したらしく
俺に構えていた鍬を下げてくれた。
「あのぉ〜ここは一体どこのどの辺りなんですか?」
とオジサンに問うと、まず名を名乗れと叱られた。
「はい俺は仙道鏡太郎です」
「何ッ!? 仙道!!!」
えっ? 何? 名前言っただけでそんなに驚く?
ってか驚いてないで早くそっちも名乗れよ……。
なんて思っていると俺の名前を聞いたオジサンが
突然持っていた鍬を投げ平伏し出した。
「えっ? ちょっ… オジサン?」
頭を下げて土下座状態の小汚いオジサンが俺に…
「まさか仙人様…道士様だとは……」
「つゆ知らず御無礼を働き申し訳ありません!!」
と謝罪を述べてきたが…まったく意味が分からん!
まさか苗字を役職か称号かと勘違いしてるのか?
「かっ、顔上げて下さい オジサン…」
「どうか呪わないで下さい道士様ぁぁぁ」
まったく顔を上げないオジサンに困った俺だったが
〝道士〟様と言う言葉が引っかかる。
えっ?俺…道士様に間違われてるの?
道士ってあの道士? 霊幻的なあの道士???
っと年甲斐も無く少し嬉しい気持ちになってしまった。
その後なんとか頭を上げてもらい話を聞く事に成功…
オジサンに色々と質問した結果どうやらここは
日本ではないらしく…地球ですらないみたいだ。
俺はやはりラノベ的異世界転移をいつの間にか
してしまったのだろうと結論付けた———。
オジサンの名前はシュナマというらしく俺の事を
道士様やら仙人様と呼ぶのでキョウと呼ばせた。
話を戻すがここは日本ではない…俺の居るここは
ソファライト帝国という国の辺境の地テブル地方の
小さな村近くの草原だという。
とりあえず俺はシュナマさんの勧めもあり
シュナマさんが住む村で厄介になる事にしたーー