お題消化(返信シンドローム)
「ねえ知ってるー?山西主任がさー 」
「うっそマジで?」
「キッモー!」
きゃはは、と女子特有の甲高い笑い声をあげる5,6人の女子生徒。
けたたましい。何で一々煩くするんだろう。
あいつらみたいな奴らは、こそこそ集まってはキーキーと猿の様に騒ぐ。
唯独りで黙々と弁当を食べ進める自分は、この昼休みの時間明らかに浮いているのだろう。
それで構わない。
寧ろその方が嬉しい。
あんなに鬱陶しい奴らと同類なんて寒気がする。気付かれない程度に睨みつける。今丁度きゃあっ、と沸き立ったところだ。
苛立たしげに手元の携帯電話を見た。
12時51分。
ああもう。
さっきから1分しか経っていない。
早くチャイムが鳴って欲しかった。
休み時間が大嫌いだった。
授業中は知らぬ者同士の様な顔してるくせに──そうでない場合もあるが──終わった途端、わっと集まる彼女達は、先程も述べたがさながら猿だ。
そこへ味気のない電子音がする。
手元の携帯電話から。
メール…誰からだろう。
独りのほうが気楽でいられるため、進んで誰とも一緒にいないのだから友達と呼べる者はいない。
それが寂しいかと訊かれると、全くと答える他ない。わらわらと群れて行動する奴らのほうが気が知れない。
メールは知らない人からだった。
内容は全く言葉が足りないくらい簡素で、たった一行。
「メールしませんか」
はいしましょう、なんて返事するバカがいるのか。まじまじとそれを見つめる。スクロールしても続きはない。
──バカらしい。
チェンメの類かな。
ぱちん、と音を立てケータイを閉じた。
ちらりと目をやると、12時52分。
あと3分。
そのメールのことは、記憶の隅に置き去りにした。
夜、また浮上させる羽目になるのだが。
そう、いつもの憂鬱な時間を終わらせ(もちろん学校のことを差している)部屋でぼんやりしてる時だ。
またも味気のない電子音がした。
ケータイを確認すると、あれだ。
「メールしませんか」
私はいくらか解放的な気分になっていた。何故なら学校という集団生活の中から抜け出しているのだから。だからこのメールに昼ほど反抗的な気分を持つ事はなかった。
メールしませんか。
それは、煙草とかお酒とか、あるいは麻薬と似たような魅力を持っていた。
よくわからないのだけれど。
私は人と関わること自体あまり好きではないのだから、正気だったのなら魅力を感じることはなかった。と思う。
つまり、私はその時、あまり正気ではなかったのだろう。
「しましょうか」
感覚の話だが、指は勝手に動いていた。
送信。
しかして、しばらく待っても何も起きなかったのだからすぐに興味を失った。
ベッドに倒れこみ考えた。
自分らしくない行動をとったことが、すこし違和感だった。これが始めの合図。
翌朝からだ。「メール」が始まったのは。
本当に他愛のないことを簡素に並べ立てるだけだった。
「今日からよろしくお願いします」「メールですね、よろしくお願いします。」
「返事がもらえるとは思いませんでした」「私も思いませんでした」
「今日はちょっと憂鬱です」「何故ですか?」「あなたは意味もなる憂鬱になることってありませんか?」「いいえ、ありますね。でも学校が理由に憂鬱なことがよくあります」「そうですか。あなたは学校が嫌いなんですか?」「あまり好きな人は少ないと思います。学校は騒がしくて嫌です」「色々な人が集まりますし。賑やかですよね」
「私はその賑やかさが苦手です」「なるほど。授業が嫌いなわけじゃないんですか?」「授業はまだいいです」「集団生活が嫌いってことですか?」「そんなところですね。いけませんか?」「いいえ。いけないとは思いません」
「すみません。苛付いてました」「いいですよ。何かあったんですか?」「学校は苛付く事がたくさんあります」
「そうですね。じゃあずっとメールしてましょうよ」
「そういうわけにもいきませんよ」「何故ですか?」「何故とは?」「何故そういうわけにもいかないんですか?ずっとメールしてればいいじゃないですか」
あれ?
「「ずっとメールしてませんか。」」
「ずっと、ずっとずっと、」「ずっとメールしてましょう?」「ね、そうしましょうよ!」
あれ?あれ?
「はい、そうしましょう。」「「メールしましょうか。」」「ずっと、ずっと」「ずっと、ずっとメールしてましょうか。」「「ずっとずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっと、ずっと。」」「私、もうケータイがなきゃ生きていけないかも。」
あれ?あれ?あれ?
可笑しいと私のどこかの脳みそは気付いてる。でも、駄目。指が勝手に、勝手に?嘘だぁ。
ああ、ああ、返信しなきゃ。
返信。
登場人物などにはあまり意味を込めていません。ただ、変な気味悪さや怠惰、現実と架空の境、曖昧な気違いを感じ取って下されば幸いです。