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PLAY17 総べる人物⑥

「国王様! 取り込み中のところ失礼します!」


 大きな扉を上げてきた槍を持った兵士。


 その人を見て国王は「あ、な、なんだ?」と少し狼狽しながら聞くと、兵士はがしゃがしゃと鎧の体を急かしなく動かし、首を傾げながら自分でもよくわからないような雰囲気を出してこう言った。


「実は……、国王にお会いしたいと面会を」


 と言った瞬間だった。


「――もう取り繕わなくてもいいぞ」


 兵士の後ろから声が聞こえた。


 声を聞いた兵士は後ろを見て、すっと驚きながらその人達を通す。


 そこにいたのは私達が前に会ったことがある……。と言うか会った人だった。


 ギルドの受付さん――ナーヴェヴァさんと、ポイズンスコーピオンの討伐クエストを出していたあのおじいさんだった。


「なんだあの二人は……」

「あ、ナーヴェヴァ……ッ! あんた何でこんなところに……?」


 マティリーナさんは受付の人のことを覚えているのか、驚いた顔でナーヴェヴァさんを見る。当の本人はニコッと微笑むだけだった。


「あ」


 国王は震える口で声を出す。


 それを聞いて、私達はすっと立ち上がると、おじいさんはフードをとって、そして口を開いた。


「まったく……、あんなことを言わなければよかったかもしれんな……。まさかこんなに早く気づかれてしまうとは、これぞ。異国で言う『敵ながら天晴』なのかのぉ……」


 やれやれと、頭を振りながらおじいさんは私達に近付き、そして――すっと私の横を通り過ぎると、国王の目の前に立つおじいさん。


 それを見た兵士達は、武器を手に持っておじいさんに向かってその武器を突き付ける。


 国王の命を狙う人かもしれない。そう思っての警戒態勢なのだろう……。


 でも……。


「ま、待てっっ!」


 国王は声を荒げてそれを止め、そして、目の前にいるおじいさんを、信じられないような目で見て……、震える口と、再会を心待ちにしていたかのような嬉しさを隠すけど隠せないかのように泣きそうになりながら……。国王は……。


「な、なぜ……ここに、いるのですか? この国に入るためには……、入国許可証が、ないと入れないのですよ……? いくらあなたであろうと、兵士達は無断で入れることなどしないはず……、なのに。どうして……ここに……?」


 と言って……、この場所では爆弾に匹敵する破壊力を持ったそれを、言葉にした……。



「――()()



 いったん沈黙。そして……。




『え、え、ええええええええええええええええええええぇぇぇぇっっっっ!?』




 立ち上がってそれを見ている私と、いつの間にか立ち上がったヘルナイトさん以外のみんなが、驚きの声を張り上げて叫んだ。


 アキにぃもキョウヤさんもその言葉を聞いて愕然……、と言うか、汗を飛ばしながらその光景を見ていた。


 私はヘルナイトさんを見て、小さい声で言った。驚いていないところを見て、きっとヘルナイトさんは思い出していたのだろうと思いながら、私は聞く。


「――いつ、わかったんですか?」


 そう聞くと、ヘルナイトさんは小さい声で……。一言。


「――緑の園でだ」


 ……それを聞いて、私はそうなのか。と驚いてしまう。


 それが指すこと、その時から、ヘルナイトさんは知っていたんだろう……。と言うか気付いていたのだろう……。浄化の力を持つものだからこそ、何かを知っていたのかもしれないけど、そこまでは私も分からない。でも……、これだけはわかる。


 あの緑の園で出会ったおじいさん、今ここにいるおじいさんは――アムスノーム前国王様。


 ナーヴェヴァさんはきっと、協力者だと思う……。ここにいるということはだけど……。


 そんな協力者と一緒に、前国王と現国王兄は……、こんな計画を立てたんだ。


 自分達ではできないことを、冒険者に希望を乗せて、誘い込んだこの計画を。ずっとずっと前から……計画していたんだ。


「え!? 国王……っ!? 兄って!」


 アキにぃは愕然とした顔でその光景を見て、現国王と前国王を交互に見ながら慌ててみる。そしてキョウヤさんはその光景を見て呆れながら「落ち着け」と突っ込みを入れていると……。


「まさか……二十年前に殺されてしまったあの……、『無垢の信王』と謳われたあの……っ! アムスノーム二十五代目国王……、ベンセントラレント・ルーベントラン・ノートルダム国王様っ!?」

「え? でも前国王……、あ、いや。二十五代目国王は殺されて……」

「ま、まさか……っ! あの冒険者が言っていたことが本当なら……っ!」

「ウソだろう……? ということは……」


 と言って、兵士達はナーヴェヴァさんを見て、そして言う。


「まさか……っ! あの人って……、二十五代目国王の一人娘……っ! フィーリエ・ルーベントラン・ノートルダム姫っ!?」


 その言葉に、兵士達は更にざわつき、マティリーナさんも驚いてナーヴェヴァさん……ううん。フィーリエ姫様を見て驚いてしまい、わなわなとしながら驚いている時、私達は……。


 その言葉を聞いて、私達も、驚いて呆然としてしまった……。


「え……? 姫さまって、いたの……?」

「マジかよ……っ! もう何が何だか知っちゃかめっちゃかのちんぷりんかんぷりんあっぱらぱぁぁぁ~」

「おいおいキャラ補正しておけ」


 私も驚きだ。あの受付の人はまさかの、お姫様と言うことを聞かされて……、開いた口がふさがらないとはこのことだ。


 結局なのだろうか……、私の推理は大きく外れていた。私達はお姫様の言葉をきっかけに、ちゃっかりと踊らされていたのだ。罠は……、ゴロクルーズさんの前から張られていたんだ……。


 受付に扮したお姫様の言葉を火種に、絵本のことを聞いて興味を引かせ、おじいさんもとい前国王が品定めをして事件のことについてちょっとした餌を蒔いてから、あとは頃合いを見て現国王はがライジンのところに連れて行って浄化……。と言う感じだろう。


 でもその前に、オヴリヴィオンの襲撃があったせいで狂ってしまったみたいだけど……。


 そう思っていると……。


「……もう捨てた名だがな」


 と、兵士の言葉を聞いていたおじいさん、あ、いや違う。前国王は溜息交じりに言うと、現国王様を見上げて、少し申し訳なさそうにしてこう言った。


「すまないな。お前にいやな役を押し付けてしまって」

「いいえ、よろしいのですよ……。それに、長年民をだまして、そして、ついにこの時が来たのです。ライジン様が、浄化され、元の守り神として降臨なされた……」


 よろめきながら、現国王は椅子から立ち上がって、そして前国王に近付きながら、現国王はぼろっと貯めていた涙を流した。


 そんな状態で、現国王は言う。


「二百年の悪夢は……、ここで終わったのです……っ! アムスノームの悪夢は、ここで晴れたのですぞ……っ!」


 前国王の前で、ずたんっと膝をついて、頭を垂らして、床に水分を含んだシミを無数作る。


 それを見た前国王は、すっと現国王の背中を撫でながら、労うように……、優しく、言った。


「――ああ、これでアムスノームも、平和だった時に戻る。歴代の国王達も、天の世界で安心しているだろう。よく頑張った」

「っ!」


 その光景を、私は見ることしかできなかった。でも、その光景を見ながら、胸の奥がきゅっと、優しく握られて、そこから暖かいものを感じた。


 それを感じながら、控えめに微笑んで見る。


 すると、かつかつと近付いて、ナーヴェヴァさん……、じゃなくて、フィーリエ姫も近づきながら、現国王の背中に手を添えて……。


「おじさま。よかったですね……」


 そう言って、フィーリエ姫様は泣きそうになりながら微笑む。それを聞いて現国王は顔を上げて……、泣きながらくずっと鼻をすすって……。


「す、すまないフィーリエ……ッ。こんな愚かな兄弟に協力しなくとも……」

「いいんです。お父上と、おじ様は――この国が大好きなんでしょ? 私も好きです。アムスノームという国が、国のすべてが――」


 そう言って、涙がぽろっと零れるような笑顔を向けるフィーリエ姫様。


 それを見て、現国王はまた頭を床に向けて、ボロボロと泣く。


 私達はそれを見て、微笑ましく見ていると……。マティリーナさんは混乱している顔で、私達と国王達に向かって、慌てながら言った。


「な、何が一体……、どうなってるんだいっ!? 国王様の生存とナーヴェヴァが二十年前に亡命したあのフィーリエ姫? 言っていることが滅茶苦茶な気がします。というか滅茶苦茶だよっ! 説明を、要求しますっ!」


 それを聞いた前国王は、すっと立ち上がって、マティリーナさんに、そしてこんがらがっている兵士達に、事の真実を話した。



 □     □



 事の真実はこうだ。


 今から三十年前に会ったバトラヴィア帝国の戦争は、案外あっけなく終わりそうだった。そこまではおじいさん――じゃない! 前国王の言った通りの結果だった。


 でも、アムスノームはそれ以前に非常に困っていた。それは……、人災ではない。自然による被害。


 守り神の暴走による……、被害の拡大。


 エストゥガでも、噴火が絶えない時と同じように、ライジンさんは雷を操る存在。ゆえにその雷による被害が、近くの村で頻繁にあった。


 それは、歴代の国王が頭を抱えるほどの問題だった。


 ライジンさんは『終焉の瘴気』に侵され、自我などない。人間の話など聞くはずもない。なおかつ……、自分達にはその力がない。


 魔力を持っていない人に、敵う相手ではない。


 魔導機器を作ることに長けていたアムスノームの人達。それを使って、ライジンさんを一時的に封じ込める強化ガラスを、ダンジョンの最深部に作って封じ込めていた。


 サラマンダーさんの時とは違うけど、ライジンさんの威力は、計り知れない。神様の力ゆえに、人間では到底敵わない力。だから封じ込めることしかできなかった。


 でも、その封じ込めも一時しのぎ。


 封じたとしても、ライジンさんが放った雷はそのガラスを突き抜けるように、外に漏れだして人を攻撃してしまう。いくらかが被害が抑えられたけど、それでも限度があった。


 一時しのぎゆえに、壊されることもあり、そのたびに国王は立ち向かって、命を懸けて止める。


 これの繰り返し。これを『終焉の瘴気』が出てからずっと続けていた。何世代にも渡って止めてきたのだ。死者も多数出て、とある一世代の人はたったの三年と言う王の責務を終えてしまったくらい凄まじいものだったらしい。


 そして現代になって、前国王と現国王になったとき、バトラヴィアの軍勢との決戦の最中、前国王は国のために、民のために……、こう提案した。


『冒険者だ。魔力を持っている冒険者なら、きっと何とかしてくれるはずだ。だからその者達に頼るしかない』


 その言葉に、現国王はこう反論した。


『しかし兄上っ! それは愚策ではありませんか。伝説では、『12鬼士』最強の鬼士が挑んだ結果……、負けてしまった。それにいくら魔力を持っているか否かで、ライジン様を救うものが現れるのか……、この町は魔導器具の町と言うだけで、冒険者たちはエストゥガからまっすぐアルテットミアに向かうものが多いのですよ? それに来たとしても、誰も雷神を止めるお方などいなかった……っ』

『だがそれしか方法がない! 詠唱と言うものも、魔力がない我らを選ぶことなどありえないのだぞ! 無力な我らに、何ができる……? この国を、救う手だては……』


 色々と意見を言い合うが、どれも無理と判断されるものだらけ。もう万策尽きたか? そう思った時、現国王は諦めの声を上げた。


『兄上……、いっそのこと……、この国を捨てるべきなのでしょうか……?』


 それを聞いた前国王はその言葉に希望を持った。捨てることに賛成したのではない。それは……。


『そうだ……。その手があった』

『?』

『そうだ。ここにいて冒険者を待つなんてことはできない。()()()()()()()()()()()()()()()

『あ、兄上……? 何を言って……?』

『私が行けばいい話じゃないか。アムスノームに向かわせるような、そんな情報があれば……。そうなれば、私がその情報を冒険者に流し、興味を抱かせる。そしてライジンのことをお前から言えば、それでいいんだ』

『何を言ってるのですかっ!? それだと……、まるで兄上が王位を私に譲渡するような言い方ではありませんかっ!』

『……そのつもり……、否、()()()()()

『?』


 これが、事の発端である一言だった……。



『私は、()()()()()――()()をする』



 ……それからは、私の予想通り――ではない真相。


 前国王は今の戦争を使って、自分も落命したと見せかけ、まだ小さいフィーリエ姫を連れて亡命した。影武者である偽者の国王を使って、その場を後にした。影武者にも、この計画のことを伝えていたのだけど、運よくなのか、悪くなのかはわからない。アムスノームの兵士に化けた敵軍の兵士が来て、影武者である男を殺した。それを見た前国王は、その男を取り押さえて気絶させた。


 都合が悪かった予期せぬ殺し。でもそれを見た前国王は、好機と見たらしい。隠れていた現国王に向かって――前国王は暗殺されてしまったという設定にしようと告げたのだ。自分が守れなかった兵士として国民を欺いて、そのまま国外に出る。


 少し計画が狂ってしまったけど、それでもこっちの方がいいと判断して前国王は気絶させて身包みを剥いだ鎧に着替えながら、フィーリエ王女様を先に逃がして次の日――暗殺のことを現国王が国民に伝え、それを守れなかった兵士一人を追放した。


 その兵士が前国王であることは、誰も知らなかった。だから動きやすかった。外に逃がしたフィーリエ王女様とっしょに暮らしながら、前国王はずっと長い間、国の外で待っていた。


 浄化の力を持っているものを……、ずっと待っていた。


 その前に力がなければライジンによって殺されてしまうから、品定めと評したクエストを受けさせる。現国王と計画した特別な入国許可証を使って。どんな風に特別なのかと聞いたけど、そのことについては守秘義務だからと言って教えてくれなかった……。ううむ。


 でも、それでもあまり人が来なかった。そんな中――大きくなったフィーリエ姫もこのことを知り、前国王の手伝いをするようになる。


 姫が受付嬢として扮し、情報を冒険者に話す。


 それを聞いて、クエストを受けた冒険者を見定める前国王。そして裏があると興味をそそるようなことを仄めかして去って、冒険者の好奇心を刺激する。


 最後に、ライジンさんを救うことができるか否かを、見定める現国王。終わった後ででも種を明かすつもりだったと言っていた現国王。


 ……離れていても、三十年もも続けたこの計画。


 悲願を達成するために、ずっとずっと計画していた。国のために、そして国民のために、欺いてまでした長い長い計画……。


 ライジンさんを浄化する人が見つかるまで、ずっと……。続けていた。きっと救う人が来る。そう信じて……。


 これが――事の顛末。その顛末に終止符を打ったのは私達で、私達はアムスノームの人たちから感謝され、そして前現国王と王女様に感謝された。


 何がともあれ……、これでお恐れた欺きはこれで終わりを迎える。その終わりを迎えた三人の顔は、とてもとても安心して、すがすがしいような笑みだった。



 □     □



 それから。私はギルドの部屋で荷造りをしていた。次の浄化の旅に向かうからだ。


 あのあと……前国王は言った。


「皆の者、今までだましてすまなかった。これはライジン様を救いたいがために身勝手に行動を起こしてしまった、我ら兄弟の責任だ。許してくれ。なんて言葉は、足りなさすぎるか……。しかし、罰ならいくらでも受ける」


 そう言った前王様だけど、兵士達やマティリーナさんは、そのことに対して咎めたりはしなかった。


 むしろアムスノームのことを考えての行動なら、本望だとも言っている人もいた。


 なので、誰もそのことについて罪として咎める人はいなかった。


 それを聞いて、現国王と前国王は兵士達の前で頭を下げて……、姫様も頭を下げて……、三人でこう言った。


「「「寛大なる民よ。我らの愚行を許してくれたこと、深く感謝します。このご恩、いつか必ず」」」


 そう言って、今回の件に関してはお咎めもなかったけど、国王は現国王から前国王に譲渡され、今は前国王、二十五代目改め、二十七代目として、アムスノームを築き上げるそうだ。


 すっごくわかりづらいから改めて整理をすると……。


 私達が緑の園で出会ったおじいさんはお兄さんで、前国王と言う立場だったんだけど……、譲渡をされたことにより今を持って前国王は新しいアムスノーム国王になった。


 そして私達がアムスノームで出会い、今まで不審の非難を浴びせていた弟さんはアムスノーム国王だったんだけど、お兄さんにその地位を譲渡して、今は王ではない存在。つまりは王様の弟と言う元鞘に収まったということだ。


 簡単に言うと――


 緑の園で出会ったおじいさん (ベンセントラレントさん)――実はアムスノームの前国王⇒今は弟の譲渡でアムスノーム国王 (前国王⇒現国王)。


 アムスノームの国王だったパルトリッヒ国王――前国王の弟さんで現国王⇒譲渡をして国王ではなくなり国王の弟になった (現国王⇒前国王)


 ということになる。


 ……やっぱり、ややこしいな……。あはは。


 そして、ロフィーゼさん達はここに残るらしい……。


 ……未だに見つかっていない……、ティックディックの行方を知るために……。


「まったく、とんだどんでん返しだ。まさか前国王、あいや、現国王が生きていただなんて……」


 はぁっと、溜息を吐いて腰に手を当てて言うマティリーナさん。それを聞いていた私達は、お気の毒にという感じで、困ったように微笑む。


「まぁ。そう言ったことがあったからこそ……、今のアムスノームがあるってことか……。はぁ」


 マティリーナさんは溜息を零して、そして私達を見て言う。顰めていたけど、その顔に、怒りなどない。むしろ……穏やかさがにじみ出ていた。


「でも、あんた達は長年問題だったライジン様の浄化に、国王様達の計画も見事に見抜いた」

「いや……全然わかんなかったし、それに姫様がいることに関しては、全然……」

「そうです」

「うわー。知ったかぶりしたぞこいつ……」


 そのマティリーナさんの言葉に、キョウヤさんは首を振りながら困ったように言うと、アキにぃはきりっとした顔ではっきりと言った。


 キョウヤさんと同文で、アキにぃ知らなかったはずだよね? そう思ってアキにぃを見上げていると、マティリーナさんは私達を見て、思い出したかのように言った。


「そう言えば、あんた達三人のパーティーなんだろう? 名前決めてないのかい?」

「「「名前?」」」

「パーティー名だよ」


 と、マティリーナさんは言った。


 その言葉に、私は思い出した。


 メグちゃん曰く……。パーティー人数が三人になると、パーティー名を決めることができるらしい。つけなくてもいいけど、名を馳せたい人はそうした方がいいとも言われている。


 現に、エレンさん達『アストラ』や、ヴェルゴラさんの『ブレイズ』もそれだし、もっと有名なパーティーだっている。最強のパーティーだって、ここには存在しているのだから……。


 私はそれを聞いて、うーんっと考えていると……。


「考えてなかったなー。名前」

「まぁヘルナイトを入れたら四人だから、ちょっとは有名になった方が情報も手に入りやすいかも……」


 キョウヤさんとアキにぃが、確かにな。と納得して、それを見たマティリーナさんはとある用紙を見せた。


 それを見た私達は、あっと声を漏らした。


 そこに書かれているのは……。パーティー名を書く用紙だった。


「これに書いて、ギルドで正式に任命すれば、あんた達は冒険者の集まりではなくなる。ちゃんとした仲間として、行動することができるってことだ。有名になったら国から直々にすごいクエストが来ることがある。おすすめだよ」


 で、どんな名前にするんだい? 急いでいるんだろ? 手短にね。


 そうマティリーナさんは私達に聞いた。


 アキにぃ達はそれを聞いて、少し考えてから、最初に口を開いたのは……、アキにぃだった。



「『グレート・ハンティーナ』」



「妹の名前をばらけてオリジナルを入れただけじゃねえかっ! どんだけシスコンなんだよっ!」


 却下! とキョウヤさんは突っ込む。


 そしてキョウヤさんは腕を組んでから、はっと何か思いついたようで、自慢げにこう言った。


「ならよ! 『アグレッシヴ』なんてどうだ!?」

「ありがち。不採用」

「お前に言われたくねーよシスコンッッ!」


 ぎゃんぎゃんと言う中。マティリーナさんは呆れながらそれを見て、私を見て「あんたは?」と聞かれた。私は考えた。


 私達は、浄化をするために旅をしている。


 浄化……、えっと、それは清める。清掃。清潔。あとは邪悪なものを神聖なものに転化。つまりはリセットして、最初からにする。


 やり直し、再生……、リヴァイアル……。


 そう考えて、私はマティリーナさんに言った。


 そして、私達はギルドを出て、アムスノームの門の前で、弟さん、お姫様と国民たちに見送られながら、そこにいた。


 マティリーナさんと現国王は、アムスノームの製造員さん達が作った、瘴輝石で動く車……馬車のような乗り物『魔導稼働車』に乗っている。それは大型バスのように大きかったので、私達も一緒に乗ることになっていた。


 次の目的地、アルテットミアに向かうために、現国王もマティリーナさんもアルテットミアに用があるので、一緒に行く運びになったのだ。


「色々と世話になってしまった。というよりも、迷惑をかけてしまった」


 前国王である弟さんは、私達を見て申し訳なさそうに言った。それを聞いて、アキにぃはじろっと弟さんを見て……。


「そうですよねー……。なんであんなことをぉ~?」と、意地悪そうに聞くと、弟さんは慌てながら「す、すまんっ! ああでもしないといけなかったんだ! 余は『不審の疑王』! フレンドリーに話しかけたら疑われるだろうっ!?」と言った。


 それを聞いた私は、確かに……。と、納得してしまった……。


 何でもかんでも疑う人が、ひょっこり現れた私達に対してフレンドリーに話すなんて、ありえないから……、仕方ないのかな……?


 そう思っていると、フィーリエ姫が私達に近づいて――


「アムスノームにいる反逆者、そして療養している方のことは、安心してください。こちらでしっかりと見ておきます」


 意気込んだように言ってくれた。私はそれを聞いて「お願いします」と、頭を下げてお願いをした。


「そろそろいくよー!」とマティリーナさんが窓から顔を出して言った。


 それを聞いて、私達は頷く。


 ヘルナイトさんも乗れるので、一緒に乗れることを楽しみにしながら、国民の皆さんに頭を下げて乗ろうとした時……。



「ありがとぉ!」

「国の英雄!」

「本当にありがとうございます!」

「旅の武運をお祈りしています!」

「お気をつけて!」



 国の人達が私達に向けてかけてくれる温かい言葉。


 振り返ると色んな人達は笑顔で手を振って見送っている。


 それを見たキョウヤさんが手を振って笑顔で「おう!」と言って、アキにぃは照れながら手を上げてそっぽを向いて歩いてしまう。


 私はもう一度頭を下げて……、そして小さく……。


「行ってきます。ありがとう」と言って、頭を上げて車に乗り込む。



 □     □



 こうして、ライジンの浄化に成功した私達はアクアロイアに行くために、まずはアルテットミアに足を運ぶことにした。


 そしてこのアムスノームに新たな物語の絵本が発行されることになったらしい。


 その本の名は――



『冒険者『リヴァイヴ』の浄化伝説』



 リヴァイヴ――それは、私達のパーティー名である。

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