PLAY17 総べる人物④
刹那だった。
本当に、何が起こったのかわからないような一瞬だった。
「っ!」
ティックディックは右肩を掴んで唸り、手に持っていた短剣をぽろっと落とした。
それを見た私は驚いて見ることしかできなかった。というか……。
ティックディックの肩に直撃した弾丸を見て、後ろにいるアキにぃを見たけど、アキにぃは撃っていない。それは横から来た弾だったから。
横――私から見て左。
左をそっと見た瞬間……。
私達が入ってきた入口に二人の人物がいた。
一人は汗を流して息を整えているマティリーナさん。
そしてもう一人は……、確かあの槍を持っていた人と一緒にいた鳥マスクの人……。その人は壁に寄りかかりながら長い筒状の拳銃を構えていた。
その銃口からは、煙が出ている。
それを見たアキにぃは……。
「こ、コーフィンさんっ!?」
声を荒げて……って、知り合い?
「あ! 鳥マスク!」
「コーフィンッ!」
キョウヤさんとロフィーゼさんが驚きの声を上げる中、アキにぃはその鳥マスクの人……コーフィンと言う人を見て声を張り上げてこう言った。
「え? 何で……、俺あの時……っ」
混乱しているアキにぃをよそに、コーフィンさんはそっととあるものを取り出した。
それはMCOでもよく見たことがあり、そして高価なアイテムとして売られていた……、黄色い液体が入った小瓶……。
『部位修復薬』。それだった。
コーフィンさんは言う。
「備エアレバ憂イナシ。日本ノ諺ニアルダロウ?」
えーっと。なんとも聞き取りにくい言葉で言ったコーフィンさん。
するとティックディックはぎりっと歯軋りを仮面越しでして、そして……、コーフィンさんに向かって――
「てめえええええええええええええっっ!」
と、声を荒げて落としてしまった短剣を手に取って投擲しようとした。
それを見てマティリーナさんが「やめな!」と声を荒げて叫んだけど、コーフィンさんは手に持っていた長い銃を構えて、撃った。
そしてティックディックも短剣を投擲して、互いが互いに交じり合うように映される。
それを見ていた私達。
だけど……。
ギィンッと、銃弾と短剣が弾け合い、弾丸はカランっと床に落ちて、少し威力負けしたのか、短剣はくるくると真後ろに向かって、軌道に乗って飛んでいく……。
あれ?
そう思って、私はふとその軌道がどこに向かうのか、目で追っていくと……。
「へ?」
私はその短剣が飛んでいく方向を見て、声が呆けたそれになってしまった。きっと、顔も呆然としているだろう……。
マティリーナさんだけは、緊迫した音色で……。
「逃げなあんた達! このままじゃ危険だっ!」と叫んだ。
『?』
アキにぃ達は、なんだか首を傾げるような音色で言って、黙ってしまう。
きっと、私と同じように、短剣の軌道を見ていたのだろう……。それを見て、言葉を失った。
そう。その短剣が向かっている先には――ライジンを封じ込めている……。強化ガラス。
ぶんぶんぶんっと、ブーメランのように飛んでいく短剣。そして終着点でもある強化ガラスに向かって……。
ばぎんっと強化ガラスを突き刺すように、というか、本当に突き破って刺さった。
「「あ」」
アキにぃとキョウヤさんが呆けた声を出して。
「あらぁ?」
ロフィーゼさんがそれを見てパチクリした音色で驚き。
「ア」
コーフィンさんはやっちまったという音色で見て驚き。
「っ!?」
ティックディックがそれを見て、仮面越しで驚愕の顔になっている。
その間、ビキビキと罅が大きくなっていく強化ガラス。
それを私は、一瞬頭が真っ白になって、そしてその罅が円柱全体に広がった瞬間……。
ふっと、私の視界が暗くなったと同時に……。
バリイイイイィィィンッッ!
と、大きなガラスが割れる音が聞こえた。
バラバラと落ちる音。アキにぃ達が驚いて声を上げる。
私はヘルナイトさんの腕の中に納まっていて、ヘルナイトさんは上を見上げて……、「出てしまったのか……」と、小さく唸るように言った。それを聞いた私は、ふっと上を見上げると……。
近くで、ばりぃっと迸る電流が頬を掠めて、頬にビリッと何かが走った。
私はそれを感じて、頬に手を添えながら驚いて見た。
周りは明るいどころか、明るすぎるくらい光っていて、そして電気が辺りを包んでいた。
その理由は簡単だ。
そう、ライジンが出てきて……。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」
撥を持ったまま咆哮を上げて、叫びながら足元にある太鼓を、ドォンっと叩いた。
それと連動しているのか、辺りに雷並みの電流を落とす。
それを避けたりしているみんな。
カイルは逃げようとしていたけど、マティリーナさんによって拘束されてしまう。
「うっそだろ! なんで!? あれ強化ガラスじゃなかったの!? 弱っ! ガラス弱っちぃ!」
キョウヤさんの突込みが聞こえた時、マティリーナさんは私達に向かって――
「キョウカガラスってなんだいっ!? こんなの一年前に作った簡易な牢屋みたいなもんだ! 早くここから逃げな! でないと……」
と言った瞬間だった。
ドォンっと、大きく真ん中の太鼓をたたいたライジン。そして――
――『壱ノ轟・雨ノ稲妻』――
老人だけど、すごく声が出ている、厳格そうな声を聞いた私。するとその声と同時に、ライジンの周りに落ちる雷の雨。
ドンドンドンドンドンッ! と、大きい落雷音を出しながら床に落ちては、私達を狙うということはしないで、ただ運任せに当てようとしている。
それを見て、ヘルナイトさんは私をそっと降ろした。私はヘルナイトさんを見上げる。
ヘルナイトさんは、私を見降ろし頷いた。
それが指すこと……。それは……。
「アキ! キョウヤ!」
「「!」」
ヘルナイトさんはその雷の攻撃を避けるアキにぃとキョウヤさんに向かって叫ぶと、続けてこう言った。
「時間を稼いでくれ! 浄化をする!」
「「!」」
二人はそれを聞いて、頷いて、今暴れているライジンを見て武器を構える。
アキにぃはアサルトライフルを。キョウヤさんは槍を構えて……。
「マティリーナ殿は他の冒険者達を!」
「言われなくてもだって」
マティリーナさんは即座に行動して、ロフィーゼさんとコーフィンさんを連れて、カイルを簀巻きにしてその場から離れる。
あれ? ティックディックは?
そう思って辺りを見回すけど、どこにもいない。
しかし……、今は、やるべきことをしないといけない……。
きっと、ティックディックはこの場の混乱に乗じて逃げたんだろうと思い、私はすっと、自分の胸の前で手を絡めて、祈るように口を開いた。
ヘルナイトさんも、今まで鞘に納めていた短剣に手をかける。
「此の世を統べし八百万の神々よ」
「この世を総べる万物の神々たちよ」
互いにその詠唱を言い合い、ヘルナイトさんは短剣を鞘からそっと引き抜く。引き抜いた瞬間に光り出す刀身の一部。
キョウヤさん達はライジンの攻撃を避けながら、時間を稼いでいる。
アキにぃは銃を撃ちまくって、キョウヤさんは雷無効の力を使って、ライジンの足の部分に傷をつけながら踊るように槍を操って攻撃している。
「我はこの世の厄災を浄化せし天の使い也」
「我はこの世の厄災を断ち切る魔の王也」
ライジンはそれを聞いて、私達にしか聞こえない声で言う。
――目障りな、ヒカリッッ!――
今度は撥を左右の太鼓にドォンドォンと強く叩く。
――『弐の轟・龍脈電光』――
と言った瞬間、ビリリッと床に迸る電撃。
それを感じた私達は詠唱を唱えながら下を見た瞬間、床が壊れるような電気が下から来た。
それを見て、私は詠唱を唱えることをやめそうになった。
けど……。
ヘルナイトさんは私の両手に、短剣を持っていない手を添えて、私の顔を見て頷いた。
言葉は交わさない。それでも……、わかることがある。
そう。ヘルナイトさんはこう言いたいんだ。
――あの二人を信じろ。
そう目が言ってくれた。
私はその眼を見て、そして絡めた手を包んで握ってくれた手をきゅっと両手で握り、私は言う。
「我思うは癒しの光。我願うはこの世の平和と光」
ヘルナイトさんは驚いていたみたいだけど、すぐに元の表情に戻って、ぎゅっと私の両手を握った後……、するっとその手を引き抜いて……、ゆっくりと立ち上がりながら言った。
黒い短剣を、白く光り輝く退魔の剣に変えて、引き抜きながら――
「我思うは闇を断ち切る光。我願うはこの世の安息と秩序、そして永劫の泰平」
その最中、地面からくる雷をものともしないで、キョウヤさんはダンッと地面を蹴り、尻尾を使って、高く跳躍した。それを見て、アキにぃは冷静に銃を構えて……。
「『グラショット』ッ!」
だぁんっと素早い弾丸が、ライジンの蟀谷に当たる。
ガァンッと当たったそれに驚きと痛みを感じたライジンは、頭を押さえながら唸る。それを見たキョウヤさんは、すぐに槍を大きく振りかぶりながら――
「――ふっ」
グルングルンッと、大きく回りながら、まるで大車輪のように回って落ちてきて、ライジンの右手を、深く斬る。
まるでチェーンソーのように、ギャリギャリと、斬る。
ヘルナイトさんの言うとおり、キョウヤさんは雷無効なのがより一層わかる。
ライジンの雷攻撃が当たっても、無傷で立ち向かっているその光景はまさに自殺に近いけど、キョウヤさんの体には傷など一つもついていなかった。衣服にも汚れなどついていない。体のどこにも焦げた箇所などない無傷の体。
それからわかることは……、ライジンにとって、キョウヤさんは天敵と言うことがより一層信憑性が上がったということ。つまり――ライジンにとってキョウヤさんを相手にすることは大凶と言うことが確定されということ。
右手を斬られて、罰を落としてしまったライジンは、苛立ったように――
「ウウウオオオオオオオオオオオッッッッ!?」
と、ライジンは電流を出しながら、斬れた腕を押さえながら落ちていくキョウヤさんを睨んだ。それを見てキョウヤさんはにやっと笑みを作って落ちていく。
ライジンはそんな無防備のキョウヤさんを掴もうと、残っている手でキョウヤさんを捕まえようとした。
けど――
だぁん!
岩の弾丸がライジンの左手に直撃する。
その間に、私達は詠唱を言い終えていく――
「この世を滅ぼさんとする黒き厄災の息吹を、天の息吹を以て――浄化せん」
「この世を滅ぼさんとする黒き厄災の刃を、我が退魔の剣を以て――鉄槌を食らわす」
ヘルナイトさんは、白い退魔の剣を片手で持って、アキにぃとキョウヤさんを見上げる。
二人はそんなヘルナイトさんを見て、すぐに――後退した。
そのままヘルナイトさんの脇を通り過ぎて、ヘルナイトさんが一歩前に出て、剣を構えて――ヘルナイトさんに向かってくるライジンに向かって……。
「――『断罪の晩餐』」
横一文字に斬るヘルナイトさん。
ライジンは切れた黒い靄に驚きながら、ヘルナイトさんは即座に何回も、何回も斬りつける。
斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬りまくる!
ライジンがもう叫ぶことすらできなくなり、よろっとふらつきながら、かはっと息を吐いた。
それを見たヘルナイトさんは――
「今だ!」
私に向かって叫び、私はすぐに唱える。
「――『大天使の息吹』」
フゥッと息を吹きかけると、そこからサラマンダーさん以来のそれで、私の息は段々形を形成して、慈悲深い女性に形を作り、ライジンの周りを飛びながら、あるところで止まり、ふぅっとライジンに息を吹きかける。
それは、ライジンを包み、私達を包んでいく……、温かい吐息。
それを感じながら、浄化を見届ける。
慈悲深い女性は、息を吹きかけ続けている。その最中、ライジンは叫びながら悶え苦しんでいる……。
それを見届けていると、ふと、キョウヤさんが自分の腕を見て首を傾げていた。
それを見て、何があったんだろうと思っていると……。
ふわっと、この部屋一帯に風が舞い込んできた。
違う。私の詠唱が消えた拍子に、風が来てしまったんだ……。
私はそれに驚いて手で顔を隠してしまったけど、風が止んだと同時に腕をどかすと……、私はほっと胸を撫で下ろした……。
そして――
「よくぞやってくれた」
「「「「!」」」」
突然の声に私達は驚いて、後ろを振り返った。
そこにいたのはここにいてはいけない人で、そしてこの国を総べている人……。
「あ、こ、国王っ!」
マティリーナさんは私達の驚きを弁解するように、私達の前に現れた国王を見て驚いて声を上げていた。