PLAY17 総べる人物③
それを聞いて、私は胸の奥が熱くなるのを感じた……。
ヘルナイトさんは怒りを露わにしているけど、それでも私達のことを心配してくれている……。両立して怒りを露にしている……。
それが嬉しいと、私は思った……。
カイルはそれを聞いて、ヘルナイトさんを見て怖気付いてしまったのか……、よろよろと後退しながらぎりっと歯軋りをして、上空に手を伸ばして掌を広げて――
「さ、さぁさ弾けろ。雷の聖霊よ――」
バリバリと空がないのに出てきた雷。それを見ていた私はロフィーゼさんの近くで驚きながらそれを見ることしかできなかった。
ロフィーゼさんは立ち上がって殴鐘を両手に持って構え、ヘルナイトさんも大剣を構えて迎え撃とうとしている。
そんな中でも、カイルは慌てているそれと恐怖が混ざった顔で詠唱を唱え続ける。
「罪を課せられし哀れな罪人に、雷の加護を付加した裁きの鉄剣を以て、罰せよ」
バリバリと出てきた雷はカイルの周りを飛ぶように、五本の大剣に姿を変えていく。
カイルはそれを見て上に掲げていた手を指をさすそれにして……、私達にそれを素早く向けて――叫ぶ。
「――『荒ぶる神の鉄剣』ッ!」
叫んだ瞬間、五本の雷の大剣は意志を持ったかのように私達に向かって投擲された。ううん。飛んできた。
でもヘルナイトさんは動じなかった。
ふっと、その剣とヘルナイトさんの前に現れた人物……二人?
私はその人物を凝視する。すると……。
「ハンナッ!」
「!」
その人物は私がよく知っている人で、心から信頼している内の一人……。
「アキに……、アキにぃっ!?」
私はアキにぃを見て安心したのもつかの間、アキにぃの足はブランブランとなっていて、部位破壊の状態になっていたのだ。しかも腰には――
と思った時。
するんっとアキにぃの胴体に巻き付いていた鱗がついたそれが解けると同時に、アキにぃは動けない足では着地することが出来ないので、尻餅をついて落ちてしまう。
「あいてっ!」
アキにぃは痛みで声を上げて、後ろにいる人に向かって「なにしてんだよ」と怒りの声を上げていたけど、その人――キョウヤさんはダッと駆け出してしまった。
「あ、キョウヤさんっ!」
キョウヤさんを呼び止めても、キョウヤさんは足を止めずに突っ走る。それも、五本の雷の大剣に向かって――!
「ははっ! なに突然出てきて突っ走ってんだこの蜥蜴野郎がっ!」
カイルは勝利を確信したのか、さっきまでの恐怖の顔が嘘のような笑みを作って笑いながら言った。
「この詠唱は、受けたら感電死する即死系の詠唱! お前人間族よりは防御高いかもしれねーけど……、無駄無駄無駄ぁ! そんなの、俺の最強詠唱じゃ、敵わ」
「ああ、敵わないな」
「っ?」
その言葉を繋ぐように、ヘルナイトさんは凛とした声で言った。
カイルと私達は(私はアキにぃの足に『部位修復』をかけながら)、ヘルナイトさんを見て、聞く。
ヘルナイトさんは言った。キョウヤさんを見て――
「雷の詠唱なら、キョウヤは無敵だ」
そう言った瞬間。
キョウヤさんはその雷の大剣に向かって突っ走っていたけど、そのあとすぐに足を止めて、構える。
槍を持たずに、手だけで受け止めようとしている。
それを見ていたカイルはゲラゲラ笑いながら、お腹を抱えて「バッカだ! あいつは正真正銘の、爬虫類の脳味噌野郎だ! 止められるわけねえだろうがっ!」と、大声で笑いながら言った瞬間だった。
キョウヤさんは向かってくる雷の大剣を見ながら、ざっと足を開いてから……、冷静に。
右手の指で二本の雷の大剣の刃を白刃取のように止めて。
左手で、もう二本の雷の大剣の掴む所を、器用に捕まえて持ち。
最後の一本はそのまま左足を上げて、ダンッと踏みつけて止めた。
誰もがそれを見て、驚愕するだろう……。
カイルはそれを見て、驚愕の顔に戻ってしまった。
キョウヤさんはそれを見て、すっと顔を上げた。そして、低い声で、怒りを露にした音色でこう言った。狂気の笑みを浮かべたようなそれを浮かべながら、キョウヤさんは言った。
「で? どうする?」
「ひぃっ!」
その声と顔を見て、カイルはずたんっと尻餅をついてしまった。
それを見ても、私は驚きを隠せず、混乱しっぱなしだ。
その答えを出すように、ヘルナイトさんは言った。
「キョウヤは蜥蜴人。火耐性と、雷無効と言う特性がある」
「!」
あ、そう言えば、キョウヤさん、自己紹介の時も言っていた……。つまり、キョウヤさんに、雷の攻撃は効かない……?
ヘルナイトさんは続ける。
「そして、詠唱は一日一回しか出せない。ゆえにまた出すということはできない。すまないな。後出しじゃんけんのようなことを言ってしまい」
詠唱は、一日一回……。
それでだったんだ……。
私はアキにぃを見る。アキにぃは納得したかのように、自分の手を見ていた。
そう、サラマンダーさんの時、アキにぃは詠唱を放ったけど、できなかった。それが今分かった。
アキにぃはあの時、魔物の群れに使ってしまったせいで、もう使えなくなっていたのだ。
ただそれだけなのだけど……。いろいろわかってきた気がする。そう私は思った。
「ま、まだだぁ! 蜥蜴なら氷系や水系のスキルが苦手だっ! それを出して倒せば」
焦りを募らせながら、カイルは右手に力を込めて、さっき出していた電気を纏う剣のように、今度は氷の剣を出そうとしていた。
でもキョウヤさんは槍を手に持って、ずんずんと前に進む。ヘルナイトさんも一緒に近付きながら。
それを見たカイルは、びくっと肩を震わせて、歪な笑みを浮かべながらも、虚勢を張りながら彼は言う。
「な、なんだお前ら……、俺に立てつくってのか? 俺よりも下の癖に。俺よりも下等なくせに! なに俺のことをそんなに見下してんだっ! 来るんじゃねえっっ!」
カイルはそれでも、右手に氷の剣を出そうと、スキルを言おうと口を開いた。
その時だった。
「属性剣技魔法――『氷結」
――どしゅっ。
「――?」
カイルはくらっと、前に揺れる。
私達はその光景を見て、きっと目を疑ったに違いない。
なぜなら……彼の仲間であるはずの人が、カイルの背後をとって、カイルの右手の肩のところに少し長めの短剣を、貫通するくらい突き刺していたから……。
カイルは震える目でそれを見る。
目で見えるところから剣の先と、零れ出るそれが服を赤黒く濡らす。
カイルはぎぎぎっと、錆びたロボットの駆動のように首をゆっくりと動かして、背後を見た。
背後を見て、彼はやっと自分を刺した人物を視認することができた。
それを見ていたロフィーゼさんは呆然とした音色と表情で、虚しい笑みを浮かべたまま……、彼女は、小さく口を開く。
「え? ティック?」
そう、カイルの肩に剣を突き刺していたのは――ティックディック。
ティックディックは、仮面で表情こそわからない。
どんな顔をしているのかわからない。アキにぃやキョウヤさんも、そのことについては理解できていない。私だけわかってしまった。
ティックディックさんは……、赤黒いもしゃもしゃに、体を鎧のように包み込んで、その感情の思うが儘、カイルを攻撃したんだ……。
その赤黒いもしゃもしゃは……、まるで、今この強化ガラスの中で苦しんでいる……、黒い靄を纏っているライジンのように……。
「やっぱり……お前はクズだな」
そう言ったのは、そう低く言ったのは……、ティックディック。
カイルはそれを聞いて「はぁ?」と、泣きそうな音色で聞くと、ティックディックは、突き刺して、貫通している短剣を、一回引き抜いた。
「うぐぅっ!?」
どくどくと出る血。そして肩を掴んで止血しよとするカイル……。でも……。
「っ! おい待」
と、キョウヤさんは声を上げて静止をかけようとした時、もうすでに遅かった。
ティックディックは、上に上げた血がべっとりついた短剣を振り上げて……。
「付加強化魔法――『腕超強化』」
そう言ったとき、ティックディックの体にオレンジの光が体を包み込む。そして――
――ぶぅんっと、空気を切るように、ティックディックは短剣を振るう。それはまるで……、とある武士の上段の構えのようなそれで……、ティックディックは……。
ザシュッと――カイルの右手を、肩の根元から切り落とした。
服も斬れて、腕も輪切りになって……カイルは呆然としたまま……、震える瞳孔で腕を見た。
私達はそれを信じられないような光景を目にしたかのように、それを見ることしかできなかった。
カイルの右手は、バングルがはめられていた手は……。まるでロボットの腕が落ちるように、そのままごとんっと残っていた血を吹き出しながら床に落ちた。
それを見ていたカイルは……。
「あ、あ、あぎゃああああああああっっっ!!」
なくなってしまい、吹き出す液体を押さえるように、反対の手で押さえながら叫んだ。
痛みを和らげるように、それは甲高く、大きな声で、声が嗄れるくらいまで……叫んだ。
それを聞いて、ロフィーゼさんは呆然とし、信じられないような雰囲気で、ティックディックを見て言う。
「ね、ねぇ……、何やっているのぉ……? ティッ」
「お前、何した?」
ロフィーゼさんの言葉を遮り……、違う。ロフィーゼさんの声など聞こえていないような雰囲気で、カイルしか見ていない目で、仮面越しでティックディックは、痛みで叫びながら蹲っているカイルを見降ろして、低い音色で言った。
「お前――あいつに何したんだ?」
「は、はぁっ!? 何意味わかんねーこと」
と言った瞬間だった。
短剣を持っていた手とは違う、反対の手に持っていたであろうカタカナのコの形の釘を、カイルの足に突き刺すティックディック。
その痛みを感じて、叫ぶカイル。
そんな彼を見降ろし、乾いた笑みを零したティックディックは――
「聞いても無駄か? なら俺が言ってやろうか? お前、ロフィーゼを殺したよな?」
その言葉に、ロフィーゼさんが肩を震わす。
それを見た私は、はっとした。
あの時、ロフィーゼさんが殺された時、ティックディックは見ていたんだ。きっと部屋の死角から見ていたんだ。殺される瞬間を……。
そして、ティックディックはカイルを見降ろし、嘲笑うように言った。
「殺して、そのあとそこにいるお嬢ちゃんを殺そうとしたよな? お前はどこまでクズなんだろうなぁ?」
にたりとした声色を聞いて、カイルは「ひぃ」とびくつく。どろどろと出る腕を押さえながら、匍匐前進で逃げようとするカイルだったけど、足に刺さったコの形の釘のせいで、動くことができずにいた。
そんな彼を見て、嘲笑いながらティックディックは、カイルの背中に足を思いっきり踏み付ける。
誰も、反論できない。反抗できない状況で、ティックディックを止める人はいない。
きっと、呑みこまれていたんだ……。
手が出せないような、粘着性を持った赤黒いもしゃもしゃに絡まれた蝶々のように……、私達は、動けずにいた。口も、開くことすらできなかった。
「屑は埃のようなものだ。だから俺はゴミ掃除をする。お前のような大きいゴミを――な?」
お前は生きていなくてもいいよあぁ?
ティックディックは前屈みになって、逃げようと涙を流して、鼻水を流しているカイルを見降ろして彼は言った。
「父にも見放され、母を殺し、挙句の果てには……、色んな人の人生を滅茶苦茶にしたにも関わらず、お前は悪そびれもせずにのうのうと生きている……っ! おかしいだろうっ!?」
だんだん声を荒げて、赤黒いもしゃもしゃが、棘々したものに変貌を告げていく……。
「そのせいで、どれだけの人が犠牲になった? お前の我儘のせいで、どれだけの人が自ら命を絶ったと思っているっ!? グレイシアだって! お前のせいで! お前のせいで! オマエノセイデオマエノセイデオマエノセイデオマエノセイデッッ!」
ぐあっと短剣を持った手を上げて、ティックディックは、カイルを見降ろしながら、怨恨に身を任せたような音色と、雰囲気で、彼は仮面越しで泣きながら叫ぶ。
カイルの叫びと、重なるように――
「お前さえいなければああああああああっっっ!!」
それと同時に、私は足を動かす。精一杯走って、走って――ティックディックに向かって走る。
それを見ていた誰かが、私の名前を呼んでいた気がするけど、それを無視して、私は走る。
走って、手を広げて飛んで、ティックディックの腰に抱き着くように、しがみつく。
「っ!?」
ティックディックはそれを感じて、そのまま背中から倒れた。
腰にしがみついている私と一緒に、私の頭を掴みながら暴れるティックディック。
「ハンナッッ!」
アキにぃの叫びが聞こえ、銃の音が聞こえた。
私はアキにぃがいる方向を見て――
「撃たないで――っ!」と言った。
「っ!?」
私はアキにぃに向かって静止をかけた。その静止を聞いて、誰もが理解ができない顔をしていた。
カイルはぐちゃぐちゃの顔のまま逃げようとして、ロフィーゼさんはそれを見て、ただただ……、呆然とすることしかできなかった。
「放せ……放れろくそ餓鬼っっ!」
「放れない……。放さない……っ! 放したら、カイルを、殺すんでしょ……っ?」
「そうだ! あいつは生きている価値なんてないっ! くずの中のくずなんだ! くずは死んで当たり前なんだ! あいつのせいで……っ! グレイシアは……っ! 俺の恋人は……っ!」
「っ」
耐えてきた……。ティックディックは、震える声で、溢れた怒りを吐き出すように、彼は言った。
「今までグレイシアの無念を晴らすために生きてきたっ! それだけが生きるすべてだった! 俺には復讐しかない! 復讐が俺を生きながらえさせた! あの男はいろんな奴を地獄に送った、最低の屑! 最底辺の人種なんだっ! 生きる価値なんてない。俺は待っていたんだ、この時が来るのをずっと待っていたんだっ! なのに……」
と言って、ティックディックは、誰かを見ていたのかもしれない。
私にしか聞こえない、小さい声で言った……。
「なんで……グレイシアと瓜二つのロフィーゼが、現れるんだよ……っ」
きっと、ロフィーゼさんがティックディックの……、緩和剤となっていたんだ。
ティックディックの溢れるくらいの復讐を、ロフィーゼさんが中和して洗い流していた……。
ロフィーゼさんの存在が、ティックディックの心を正常にさせていたんだ……。
でも……。
「でもなぁ……。そのロフィーゼを殺しちまったんだ。あの婆さんの言うとおり、俺はするべきことをする」
「っ?」
婆さん……? もしかして……。
そう私がとある人物を思い浮かべた時……、ティックディックは私の頭を掴んだままひっぺがえそうとぐっと腕を伸ばして、私を引きはがそうとする。
私は腰にしがみついて、なんとが抗う。
「だから……っっ! 邪魔すんなっ!」
「し、します……っ! いっぱいしますっ!」
「あぁっっ!?」
しがみつきながらティックディックに言う。
「私は、傷つくことが一番嫌いだから……っ! 人が傷つくことが、最も嫌いだから……っ! 救けたいから……っ! あなたを、止めたいっ! ロフィーゼさんのために、あなたのためにも――!」
「……知ったような口を聞くなああああっっ!」
そう叫んだティックディックは短剣を私に背中に向けて、突き刺そうとした。
突き刺そうとした瞬間を見たアキにぃは即座にアサルトライフル銃の銃口をティックディックに向けたけど、何かを見て銃口を下してしまった。